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着払い

「着払いにしますか?」
今この場面に想定外の更に外側から突然に投げ込まれたような言葉に涙が止まった。

父親を早くに亡くし、ひとりっ子だった私は母と親子というよりは姉妹のように暮してきた。
そして“歳の離れた姉”は地球上の秩序に従って先にいってしまった。
父親の時は実感が持てないまま、ただ少しどこか遠いところへとでかけてしまったという感覚のまま、さみしさは薄れていった。
しかし、今は違う。私がこの世に生まれる前からそのあたたかな温度とやわらかなベッドで包み込んでくれた、この世に生まれ出てからも。
そんなすべてをあずけられた存在が夢のように消えてしまった。
「お父さんはいつだって空から美緒を見ているよ」
母は幼い私にいつもそう言い続けていた。
私もそうなんだと信じて心の支えにしてきたけれど、違った。
灰と残ったいくつかの骨。そんな姿では空へ行けたとしても目も心も声を出すための舌も無くて私を見られるはずがない。
母はただ、風が吹いたら跡形もなく散ってしまいそうな粉になったのだ。

「お母さん…」

どこにも置けない気持ちに胸が詰まって、思わず母を呼んでいた。
「お母様をお見送りするお時間になりました」
葬儀屋さんの声がくぐもったように耳に伝わってきた。
「で、どういたしますか?美緒さんのご都合によっては着払いもご利用いただけますが…」
「は?…ちゃく…ばら、い?」
「えぇ、大変失礼ながら美緒さんは今、失業中とお聞きしましたので元払いではなく遺族救済制度で着払いがご利用いただけますが…」
「その、ちゃ、着払いは誰が払うのですか?」
「あちらにお着きになられた後にご本人か先に行ってらっしゃるお身内の方にお支払いただきます」
「そうですか…では、着払いでお願いします」
「はい、かしこまりました。では私どもが責任を持ってお母様を空へお送りいたします」

お母さん、なんかごめん。
私はまだ温かい母につぶやくように謝った。

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