港式茶餐廳(香港スタイルの軽食堂)の料理-3廈門炒米(アモイ焼きビーフン)
台湾で香港人やマカオ人の経営する茶餐廳(広東と西洋の折衷料理の軽食堂)などで食べることのできる料理に、トマトケチャップで炒めたビーフンがあるが、その名称は廈門炒米(廈門は中国福建省の都市アモイの漢字表記)だ。この料理はトマトケチャップと福建の関係を表していると思う。
トマトケチャップの語源にはいろいろな説があるようだが、どうやら中国南部から東南アジア一帯の魚介類の塩漬けを発酵させた液体調味料(魚醤)の呼び名が語源ではないかという説が有力なようだ。そしてインドシナ半島やマレー半島でも同様のソースが作られていて、中国南部の言語と似たような発音で呼ばれていた。
たとえば、清朝時代初期にアメリカへ移民して鉄道建設現場で働いていた福建人、広東人の調理係が作る、大量のトマトを煮込んだ魚料理や肉料理を、アメリカ人も美味しいと感じて、その料理の赤い汁は何か、と聞いたところ、英語のあまりできない調理係が自分の母語(それが元々福建系の言葉なのか広東系の言葉なのかは定かではない)でkechopやketsiapなどと言い、それが変化して英語の ketchupとなったという説や、マレー半島がイギリスの植民地であった時代に、現地でマレー系の料理に使われるkichap やkechap と呼ばれるソースを知ったイギリス人によりイギリスに伝えられ、その他のヨーロッパ諸国へも広がり、アンチョビー、マッシュルーム、クルミ、エシャロットや香辛料などを原料としてソースが作られ、 Kechap、catchup、catsup などと書かれたり、呼ばれるようになったという説などが有名だ。(日本やアメリカではケチャップはトマトが主な原料だが、イギリスやヨーロッパではケチャップというとトマトがベースではないようだ)
実は中国閩南語では、小魚やエビなどの塩辛から分離した液体をkechiapやkoechiapと呼び、これがマレー半島に伝わってマレー語やインドネシア語で kichap、kecap と呼ばれるようになったとも言われている。
現代台湾語では膎汁(鮭汁)と漢字で書かれ、kôe-chiap やkê-chiapなどと発音する。
一方、マレー語の「kicap」とインドネシア語の「kecap」 は現在、魚醤以外に、大豆の醗酵調味料である醤油を指す場合の方が多いそうだ。大豆と小麦を発酵させた甘いソースであるケチャップマニスが、インドネシアの甘い醤油として日本人の間でも割と知られている。
なおトマトと言えば、その台湾語表現には柑仔蜜(kam-á-bi̍t)や臭柿仔(chhàu-khī-á)の他に、日本語からの外来語表現でtho-má-toh、tho͘-má-toh、kha-má-toh、ta-má-tohなどの言い方もあり、現在でも使われている。