イスラム国は本当に終わりが近いのか?
「使徒達が全ての希望を喪失し、勝利を手に出来ぬと絶望した時、我(神)の力が彼らに下り、我が欲する者に救いがもたらされる。しかし、我の懲罰を罪人が逃れることは無い」~コーラン12章110節~
イスラム国は窮地に陥っているのか?
現在(2017年1月)イスラム国は有志連合の空爆により、中東での支配地域を著しく減らし、また昨年10月から始まったイスラム国本拠地「モスル」奪還作戦は大詰めを迎え、イラク政府軍とシーア派民兵が攻勢を強めており、イスラム国首都「ラッカ」の陥落も時間の問題とされています。
ですが、これで「イスラム国は窮地に陥っている!イスラム国の終わりも近い!」と喜ぶのはあまりにも時期尚早であり、それを裏付けるように各地のテロも頻発化しています。
イスラム国は中東で劣勢に立たせれているのに何故?と思うかもしれまんせんが、実は…
イスラム国にラッカやモスルに対する拘りは無い
マスコミはモスルがイスラム国の本拠地であるとか、ラッカがイスラム国の首都であると報道しますが、これらは誤りであり、イスラム国自体も「国境・領域支配国家という概念は反ムスリム的である」としています。
イスラム国の理念からしてみれば、地球の国土は全てカリフ(イスラム教指導者)によって統治される対象であり、彼らの目的は中東域における支配体制の樹立ではなく、最終的にはイスラム勢力が世界征服を果たすことにあります。
そのため彼等にとって重要なのは、モスルやラッカの防衛や中東域における支配領土ではなく、彼らのイデオロギーが広まり継承される事です。
モスルもラッカも彼らにとっては「最初に拠点化に成功した土地」以上の意味合いを持っていないのです。
イスラム国の新世界戦略
イスラム国は建国当初こそ、パスポートを燃やすなどのパフォーマンスを行いイスラム教信者に「シリアにヒジュラ(移住)しにおいで!」と呼びかけていました。
しかしイスラム国が中東域で劣勢になるに従い、彼等は
1.別にシリアに来なくてもいいよ
2.今いる場所でテロして
3.可能なら「近くのイスラム国」にヒジュラして
と戦略を変更してきました。(2017年1月現在、イスラム国は多数のビデオを通じて上記の戦略を呼び掛けています)戦闘員を中東に集めて全滅するよりかは、世界中に戦闘員を分散させイスラム国のイデオロギーの拡散を狙う戦略です。
ここで出てきた3の「近くのイスラム国」とは何を意味するかと言いますと…
世界中に存在するイスラム国
イスラム国に忠誠を誓った組織や地域は世界中に存在します。更に、一定以上の支配体制を確立させイスラム国から「州」認定された地域もあり、イスラム国はシリアのみならず世界中に点在しています。
イスラム国が建国2年目を祝して公開した画像によると
のように彼らが世界中に散らばっているのが分かります。
また昨今、バングラデッシュやドイツ、インドネシア、マレーシアなどイスラム教徒が(比較的)少ない地域でも(テロによる)成果をあげつつあり、フィリピンのドゥテルテ大統領の従兄弟がイスラム国に加盟した疑いが勃発したりと、彼らは点在する地域を広げ、またそこで着実に勢力を伸ばしています。
中東情勢だけで見るとイスラム国勢力は弱体化しているように見えますが、世界規模で見ると明らかにイスラム国は、その勢力を増していると言わざるを得ません。
イスラム国との戦いにおける思想戦の重要性
よく「イスラム国のせいでイスラム教徒が色眼鏡で見られて可哀想」という論調を散見しますが、イスラム国もまたイスラムであることは間違いありません。
イスラム教の本質は神への絶対的な帰依と、予言者ムハンマドの語った聖典に従うことであり、イスラム国の最大の問題は「コーランの記述を現代で忠実に実行しようとすると、イスラム国のように(今の世界常識の中では)過激にならざるを得ない」ことにあります。
またイスラム教の最高権威者の一人であるアフマド・アッタイイブはイスラム国に対して「神と終末を信じてる以上、イスラム国はイスラムでないと言い切ることは出来ない」「彼等を不信仰者だと断罪すると、私もまた彼等と同じ過ちを犯すことになる」と述べており、「神だけが真実を知る」という態度が求められるイスラム教において、安易にイスラム国を不信仰者とする事の困難さを説いています。
そしてイスラム国は自分達こそ神に忠実な使徒であると称し、他のイスラム教徒を「イスラムに対し無関心な連中」と非難しています。つまりイスラム国のイデオロギーはイスラム教そのものが内在する問題であり、仮にイスラム国を倒せたとしても、このイデオロギーを解体出来ない限りは必ず第二、第三のイスラム国が出てきます。
仮に中東域及び、世界中に点在しているイスラム国を武力により根絶したとしても、ただそれだけによってイスラム国問題を根絶することは不可能です。
私自身はイスラム国支持者ではありませんし、イスラム国が勢力を増すことでナニか利益があるわけでもないですが、客観的に世界情勢を見た結果「イスラム国との戦いはまだまだ続く」と言わざるを得ません。この記事はそれだけの話です。