うちの子が、糖質制限をしている理由
ニンタの脳は、栄養不足だった。
ニンタは4歳で、グルコーストランスポーター1欠損症と診断された。その治療には「ケトン食」または「修正アトキンス食」という食事(糖質制限)が有効だと言われている。
この病気は、指定難病なので、正確な情報を知りたい、という方は、難病情報センターのページへ↓
グルコーストランスポーター1欠損症(指定難病248)https://www.nanbyou.or.jp/entry/4453
情報はあまりいらないので、患者の日常生活を知りたい、という方は、このままお付き合いしていただけると、とても嬉しい。
「グルコーストランスポーター1欠損症」という聞き慣れない病名を聞いたとき、私は何度も聞き返してメモをとった。通称があり、先生方は「グルットワン欠損」と、短く呼ぶ。
「グルコース」は「糖質」。「トランスポーター」は「運ぶ」の意味。この遺伝子は、食事で摂った糖質を脳に運ぶ役割をしている。
「糖質」とは何か。小学校では「赤(肉や魚)黄(ごはんやパン)緑(野菜や果物)」の3色をバランスよく食べましょう、という教え方をしているが、糖質は、主にこの黄色の食べ物に含まれている。もちろん、お砂糖も糖質だ。そのほかに、糖質の多い食品として、イモ類、カボチャ、果物などがあげられる。そのほかに、牛乳、野菜、調味料など、程度の差はあるが、様々な食品に糖質は含まれている。
ニンタの場合、その糖質を運ぶ遺伝子に異常があり、脳に届いた時点で、糖質が本来の3割くらいしか残っていないと言う。
日本の宅配で荷物紛失、なんてことはほぼないが、ニンタの宅配は、7割も紛失した状態で脳に到着しているのだ。私が毎日せっせと作っている食事を、どこへ、どうやって落としたのだ、探してこい、と言いたいが、もう生まれつき配送車に穴があいているようなものだから、仕方ない。
脳は糖質をエネルギーにして動いている。お届け物が3割しか届かないニンタの脳は、いつも栄養不足だった、というわけだ。
かつて、脳の栄養になるのはお砂糖だけ、というテレビCMがあった。しかし、このCMはお砂糖の普及のためのものということもあり、正確な表現ではない。
確かに、通常、脳は糖質だけをエネルギーにして動いている。しかし、糖質が届かない飢餓状態になった場合、人間の体には、自分の脂肪をエネルギーにして生き抜く、非常スイッチのようなものがある。そのスイッチが入ると、体内にある脂質をもとにケトン体という物質が作られ、脳はケトンで働き続けることができる。この仕組みは誰の体にもあって、風邪で何日も食べられないときなど、自然に作動している。お砂糖がなくても、人間の脳は動く。宅配が届かなければ、自分で作りますよ、という賢いシステムだ。
しかし、例え3割しか届いていなくても、糖質が届いている、と脳が感知している間は、この非常スイッチは入らない。「ケトン食」や「修正アトキンス食」は、脳に届く糖質を、あえてギリギリまで減らし、この非常スイッチを入れっぱなしにして、常にケトンを作り出しながら生きていこう、という作戦だ。そうすることで、脳の栄養不足が解消され、てんかん発作の減少が期待される。発作がなくなれば、発達の伸びも、健常とまではいかないが、改善されることが多い。
一方で、脳に糖質が届きにくいなら、そんな大変な食事制限をせずとも、単純に、たくさん糖質を摂ればいいのでは?という考え方もあるだろう。1日3回だった配送を、10回くらいに増やして、もっと大量の荷物を送り込む。同じく7割紛失したとしても、脳に届く荷物はだいぶ増える。しかし、この方法は現実的でなく、糖質制限をするよりも、健康を害しやすい。ごはんやパン、お菓子や果物を毎日大量に食べ続ける生活。肥満、高血圧、その他いろんなリスクがある。
とはいえ、実はそれも1つの考え方で、同じ病気でも、どうしても糖質制限が続けられない場合、具合の悪いときに少し甘いものを食べて、それで体調を保っている人もいる。「ケトン食」や「修正アトキンス食」は、大量に油を接種するので、体質的に下痢が止まらなくなる人もいる。あるいは、この精神的にとてもキツい糖質制限をしても、効果が実感出来ず、中止の決断に至る場合もある。
糖質制限を止めた人に、実際お会いしたことはないが、現在、たった1つと言われている治療方を手放す決断は、どんなにつらかっただろうか。実は、私もその決断を迫られたことがある。その時はなんとか続けることができて、現在に至るが、治療を続けられるだけでも、ありがたいことなのかもしれない。
糖質制限ダイエットとの違い
糖質がどういうものに含まれているか、どんな食事をするといいのか、ということは、糖質制限ダイエットをやっている方なら、よくご存知のことだと思う。たしかに、やっていることはよく似ている。そして、このダイエット方法が有名になったおかげで、低糖質食品などが開発されるようになり、ニンタもそういうおやつを喜んで食べていて、恩恵も受けている。
しかし、ダイエットのために、ケトン食や修正アトキンス食を参考にすることはおすすめできない。
ダイエットの目的は痩せることであり、脳を飢餓状態にすることではない。まず、スターとが違うのだ。成長期のこどもが痩せてはいけないので、ケトン食や修正アトキンス食は、痩せるようには作られていない。
さらに、医師の指導を受けず、自己流で急激に糖質を控えると、低血糖になって命に危険が及ぶ可能性もある。そうならないように、治療を開始するとき、ニンタは40日間入院して、様々な検査をして体調管理しながら、少しずつ毎日の糖質接種量を減らしていった。
しかも、この病気は、認知されるようになってからの歴史が浅い。ケトン食や修正アトキンス食を長年続けるとどうなるか、という研究結果はまだなく、患者家族は、将来の副作用を不安に思いながらも、治療のためにこの道を選択している。
そうは言いながら、糖質制限ダイエットをしている方々とは仲間意識もあって、オススメの低糖質食品の話などで、話が弾むこともある。けれど、ダイエットと治療は、同じようで違う。お互いにエールを送りながら、別々の道を進みましょう、と、改めてお伝えしておきたい。
糖質制限は糖質を食べられないのではない。「少なく」するだけ。
糖質制限をしています、と言って一番困るのが、「糖質を絶対摂ってはいけない」と勘違いされることだ。こどもの食事制限というと、有名なのが食品アレルギーなので、それと混同されるのかもしれない。ニンタは、糖質の高い白米は食べさせていないが、例えば落ちていたごはん粒を拾って食べたとしても、そんな微々たる量、何の問題でもない。更に、同じグルコーストランスポーター1欠損症の患者さんでも、糖質の制限量は人それぞれで、症状の軽い人は、少なめの白米を食べていたりもする。
次にある誤解は「厳密な栄養計算が必要」と思われることだ。確かに、栄養士さんのように、しっかりと計算して食事を作った方が間違いがないだろう。しかし、それで一生続けていくのは難しい。患者さんの多くは「だいたいこのくらいかな」という目安や、自分なりのルールを作って、計算機なしで食事を作っている人がほとんどだ。そして、それでもケトンが出ることは確認されているし、治療の効果もあがっている。私も、その適当さ、コツをつかむまでは苦労したが、最近は慣れてきてだいぶ楽になった。とはいえ、その「慣れるまで」はなかなかに厳しい道のりで、それはまた次回に書いていきたい。
「ケトン食」と「修正アトキンス食」の違い
グルコーストランスポーター1欠損症の治療で代表的なのは、「ケトン食」と「修正アトキンス食」の2つだ。私の場合は、修正アトキンス食しかやったことがないので、正直、ケトン食には詳しくない。ただ、糖質を少なく、脂質を多く、という考え方は同じだ。違うのは、その計算方法である。
「ケトン食」は脂質・タンパク質・糖質の比率を計算して食事を作る。この理論だと、脂質をたくさんとれば、糖質もたくさんとることができるように思うが、カロリーオーバーになれば当然健康を害するので、油さえ多く摂っていれば糖質もどんどん食べて良い、というわけでは、もちろん、ない。
「修正アトキンス食」は、ケトン食よりも計算が簡単だ。1日の糖質接種量に制限を設ける。1日の接種カロリーも目安を設ける。守るのはそれだけ。油は摂らなくてもいいのか?というと、そこが説明しづらいところなのだが、主食抜きで必要カロリーを摂ろうとすると、かなりの量の肉や魚を食べないといけないし、ケトンの元となるのは油なので、油ナシの生活を続けるのは効率が悪い。結局、ある程度の油を定期的に摂る方が、食事も作りやすいし、ケトンを作る上で安心である。「修正アトキンス食って、真面目にやろうとすればするほど、ケトン食に近づいていくよね」とは、先輩ママさんの言葉だが、まあ、そういうことになる。
ニンタは「修正アトキンス食」だが、やはり油は毎食摂っている。入院中に出た病院の食事をお手本にしているが、よく油が別盛りで添えられていたし、実際やってみると、結局その方がメニューがたてやすいんだな、ということを実感している。
どんな油が良いのか?
これは病院から言われたわけではなく、自己流なのだが、油の種類についても気にしている。接種する油は、これがいい、これはダメ、ということは病院では言われなかった。けれど、動物性の油よりも植物性の油の方が体に良いとはよく聞く。豚バラ肉を毎日食べれば、油は足りるかもしれないが、動脈硬化などが心配だ。できるだけ植物性のオイルで補いたい、というのが親心である。
ちなみに、病院で添えられていた油は「リセッタ」という商品である。エネルギーに素早く変化する「中鎖脂肪酸」が入っている。私もしばらくはそれをつかっていたが、中鎖脂肪酸100%の「MCTオイル」の存在を知ってからは、少々お高いが、そちらを使うようになった。大量に摂る油だからこそ、さっさとケトンになってもらって、体に余計な負担をかけてほしくない。最初はそういう気持ちからだった。しかし、残念ながら、MCTオイルであれば安心、ということではないらしい。先ほども書いたように、脂質をたくさん摂り続けた結果、どんな副作用があるのか、ということはまだわかっていない。小児から老人になるまで、長きに渡ってケトン食・修正アトキンス食を続けた人が居ないからだ。
そういうわけで、体の負担を減らすかどうかは定かではないが、他のオイルに比べて、短時間でエネルギーに変わってくれるというのは確かで、「ごちそうさま!」のあと、元気になるタイムラグが少しでも短いに越したことはない。患者会などに出かけてお話を聞くと、やはりMCTオイルを使っている人が多く、これからも使っていきたいと思っている。ちなみに、中鎖脂肪酸は加熱に弱い。食事はほぼ油ナシで作り、あとからオイルをかける、というのがうちのやり方だ。料理中にいちいち油の量を気にしなくて良いし、ニンタ以外の家族の料理もできるだけ一緒に作ってしまいたいので、このやり方が定着した。
以上、これが我が家の現在の様子だ。ここまで来るのに、かなり紆余曲折があったので、それはまたゆっくり書いていきたい。
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