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物乞いみたい

ニンタの給食問題で、私はまだゴネている。

ニンタは食事療法をしているので、炭水化物やイモ類を食べることができないが、アレルギーではないので、そのかけらが口に入っても問題はない。小学校では有難いことに、そのあたりを理解してくれ、スープにジャガイモが入っていても、イモをよけて食べて良い、という寛大な措置をしてくれた。

保育園でも給食をだしてくれたが、誤食を心配して、イモ類の入ったメニューは食べられなかったので、それは私にとって良いニュースだった。

ほっとしたのもつかの間。小学校のメニューは保育園以上に炭水化物の比率が高かった。ミートソースパスタとクロワッサン、そして野菜スープ、みたいなメニューの日がちょくちょくある。食べられるものが増えると思ったのに、蓋をあけてみるとびっくりするほど量が少なかった。

そこで浮上したのが「麺は除去できるか否か」問題。イモはよけて食べられるが、麺類は具材と混ざっているから除去できないと言う。食い下がって、私は麺類の時にはなるべく立ち会わせてもらって、この問題について考えてもらえるように働きかけてみた。

野菜ラーメンのような日は、麺を除去することができたので、そこに糖質ゼロの麺を持ち込んでニンタ用のラーメンを作ることができた。しかし、ミートソースパスタのようなどろっとしたソースの場合、ほとんどが麺にからんでしまって、麺を除去すると、ほんの少ししか具が残らない。調理の際は、おそらく最後の最後に麺を混ぜるのだから、1人分のソースを取り分けてもらえないのかと聞いたところ、アレルギーの除去食にも対応していないので、特別扱いはしてもらえないとのことだった。

また、給食では春雨の登場頻度が高い。春雨も最後に加えると思うのだが、もちろん、春雨を加える前に分けてもらえることはできない。そして、こどもが食べやすいように細かく切った春雨は、とても後から取り分けることができないそうで、これも全て食べられないことになった。「ニンタのスープだけをザルにあけて、春雨以外の具を戻せばできないこともないかも」という話題が出たが、努力の方向はソッチじゃないだろう、と心の中で思った。

さらに、麺をとりわけることができた野菜ラーメンの日も「給食の支度が遅れると、麺がスープを吸ってしまうことがあるので、味無しの麺を持ち込まれてもスープナシになってしまっておいしくないかもしれないですよ」と言われた。そこで、「糖質ゼロの麺はカロリーもほぼないので、満腹感に問題がなければ無理に食べる必要はないんです。味付きの麺を持ち込むことはできますが、今は時間が足りなくて食べきる方が大変だと聞いているので、もしスープがなくなってしまうようなら、具だけ食べるようにしてもらえればいいです」と答えた。「そうですか、じゃあ人参数切れ、キャベツ数切れ、っていう感じで食べることになりますけど、いいですね」と念押し。いやいやいや。言い方。言い方。どうしてそんな言い方するの。食べる量が少ないのは私だってめちゃくちゃ心配しているんですよ。本当は少しニンタだけ具を多くよそってくれたらいいのに、って思ってるんですよ。

おそらく、ここで多くの親はあきらめて、もうお弁当を持参するからいいわ、となるだろう。

でも、私はまだゴネている。というか、ゴネる隙を狙っている。保育園の時に、給食の件で揉めに揉めて、結局転園した、という経験があるので、とにかく円満に事を運ぶことを第一に、焦らないようにしているが、何かチャンスがないものかと伺っている。

一番の理由は、私がお弁当を作るのが大変だからだ。二番目は、ニンタもみんなと同じものを食べたいだろうから。三番目は、私に何かあったときに、給食があればニンタは日常生活を続けられる可能性が高くなるから。お弁当が作れないから学校に行けない、という事態を避けるためだ。

ミートソースパスタの日に私が立ち会うと、「ニンタさんは具材を分けるお試しだけだから、少しでいいよね」と、他の子の1割にも満たない量のパスタを盛られた。そこからパスタを除くと、残ったソースはスプーン一口分にもならなかった。もし、一人前よそってくれたら、もう少し多く挽肉が食べられたかもな。でも、どうせほとんどの麺を捨ててしまうのだから、一人前ください、って言いにくい。

ニンタは自分の好きなものから食べるタイプなのだが、その一口しかない挽肉を何度もすくって食べていた。私が糖質ゼロの麺を使って作ってきたパスタには目もくれなかった。ニンタはそっちが食べたいんだよね。たとえ麺がなくても、給食のパスタが食べたいんだよね。

みんなと同じ給食費を払っているのだから、一人前ください、と言ってもいいと思う。もっと言うなら、「合理的配慮」として、麺類や春雨を入れる前のソースやスープを貰えるように交渉してもいいと思う。

でも、以前のように揉めたくないし、何よりそんなことを言う自分がみじめで嫌だ。母親なら、給食よりもおいしいお弁当を作るように努力するのが当然なんじゃないかと、周りから思われそうだし、自分自身でも思っている。

でもできない。お弁当を持ち込むと、ただでさえ食べるのが遅いニンタは、大量に食べ残して帰ってくることが多くなった。保育園ではいつもこのくらいの量を食べきっていたのに、と思うが、きっと小学校では時間が足りないのだろう。先生からは「持ち込む量を減らした方がいいかもしれませんね」と言われた。冷蔵庫もレンジも使用不可なので、せめて温かければ食も進むかな、とスープジャーを買ってみたりしたが、効果はなかった。

私の技術不足なんだろうけど。なんだ。この苦しさは。

結局、ニンタは本当にびっくりするほど少量の給食を食べ、持ち込んだ油でカロリーを補っている。それでもカロリー不足なので、放課後デイで特別におやつを持ち込ませてもらって食べ、今のところ体調不良はない。

じゃあいいんじゃないの。解決したんじゃないの。麺類と春雨の日は、お弁当を作るってことで、諦めたらいいんじゃないの。

もちろん、今はそうするしかないから、そうしているけど。

給食室で、ニンタの分だけ取り分けることは、そんなに大変なことなんだろうか。私の要望が間違っているんだろうか。

いやまてまて。落ち着こう。

そもそも、私はまだ学校と交渉もしていない。「麺の日もソースとか具だけ食べられたら助かる」とは言ったけど、本気の交渉はまだだ。学校側は、私がこんなことで苦しく思っているとは知らないだろう。

学校の先生の反応もいろいろだ。「できませんよ」と突っぱねるタイプの人。「助けてあげたいんだけど面倒なことは困るな」というタイプの人。もしかしたら、本気で助けてくれる人も、いるかもしれない。

交渉の方向性もいくつかあると思っていて、他の子のアレルギー対応を含めた、個別対応を正式に稼働するために戦っていくやり方と、情に訴えて、ニンタの配膳に手心をくわえてもらうやり方と。はたまた、夢のまた夢だが、糖質計算をしたニンタ専用の給食を作ってもらう、という道も、ないわけではない。

どこから行くか。誰に頼んだらいいのか。

ぜんっぜんわからない。

うーん…。とりあえず、一番親身になってくれそうな先生に話してみるか…。

というか。こうやって親が一個一個、扉をこじ開けていかなきゃいけないってことが間違ってる。

障害を持つ子の親が、頭を下げ続けなければいけない世の中を、当たり前と思わないでほしい。

本当に、小さな要望だからこそ、自分が嫌になってしまう。給食に負けないほど魅力的でおいしいお弁当を毎日作れなくて、あちこちに頭を下げている自分が、嫌になってしまう。

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