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4歳の、病名宣告

「ニンタさんは『グルコーストランスポーター1欠損症』です。遺伝子異常で、治療薬はありませんが、ケトン食や修正アトキンス食などの食事療法を継続すれば、発作や発達の遅れを改善できる可能性があります」。

主治医からニンタの病名を告げられたとき、私は、やっと病名がわかった…!という喜びと共に、これは困ったことになったぞ、という困惑も感じていた。

てんかん発作の治療に、食事療法があることは、なんとなく知っていた。最初は、「食事で、てんかん発作が改善!?なんの神頼みだ?」と怪しく思ったが、今回検査入院したてんかん専門病院のホームページにも、シッカリ説明があったので、へえ、本当なんだ。ごめんごめん。と思っていたところだ。

そして、一週間の検査入院の間に、付き添いの親同士で、たびたび話題にもなっていた。

食事療法は、投薬で発作が止まらない場合や、手術が不可能なてんかんの場合に行うこと。食事療法は全員に効果があるわけではないが、効果が見られた場合、数年は続けて、その後、少しずつ普通の食事に戻していく、ということ。

つまり、いろいろやってみてもダメだった場合にやるわけですよね?それぐらい大変なんですよね?いやもう、めんどくさい、絶対やりたくない。

…そんなネガティブなイメージだった。

しかも、てんかん発作の治療の場合は、数年で終わりなのに、ニンタの病気の場合、この食事療法が一生続くと言う。

遠路はるばる、わたくしお母さんこと、勇者は、わが子の病気を治す「伝説の薬草」を探しにやってきた。果たして、やっとその薬草を手にせんとしたとき。「薬草の煎じ方。毎日5時間弱火でかき混ぜ続けること。あと、めっちゃ苦くて、こどもがキレるけど、よろしく」みたいな説明書きがついていた気持ち。

嬉しい。嬉しいけど超めんどくさい。できる自信が全くない。頑張ってやったとして、この子がそれに耐えられるのか、全くわからない。

頭がフワフワしている私に、先生は、診断に至った経緯を丁寧に説明してくれた。

「ニンタさんは、ここ数ヶ月発作がないとのことでしたね。今回の脳波検査でも発作はみられませんでした。でも、以前の発作は朝の寝起きに多かった、というのが気になったんです。夕食のときも機嫌が悪い。つまり、空腹時に様子がおかしいんです。それは、発作ではなくて、栄養不足からくる症状だった可能性もあると考えました。そこで随液検査を追加して、ニンタさんの脳にどのくらい糖質が運ばれているか調べたところ、ニンタさんの場合は38%でした。50%以下だと、グルコーストランスポーター1欠損症、と診断されます。60%とか70%とか、軽症の方もいるわけですが、少し勉強が不得意かな、くらいで気付かずに生活されている場合もあります。逆に0%だった場合は、胎児のときに成長できないので、生まれてくることはありません」。

私は、生まれてから今までの、ニンタの様子を思い出していた。ぼうっとした、大人しい赤ちゃんだったニンタ。お座りもハイハイも歩くのも、みんな遅くて、それでも、きちんと食べて、ゆっくりゆっくりと成長し、楽しいときにはアハー、と声を出して笑った。成長すると共に、突然、自己主張が増え、泣いたり怒ったり、原因のわからない不機嫌が続いた。食事はひっくりかえすし、生まれたばかりの下の子には殴りかかるし、私は、どうか不機嫌になりませんように、と、毎日びくびくしながら暮らしていた。

その間、ずっと。ニンタは、たった38%の栄養で必死に生きていた。

気づいてあげられなくて、ごめん。

やります。薬草5時間かき混ぜます。なんでもやります。ニンタがどこまで成長できるかはわからないけど。ニンタの言葉にならない苦しみが、少しでも解消されるなら、やりたい。

ああでも、一生続くのか。私が死んだあとも続くんだな。ニンタ、どうしようね。

先のことは全くわからなかったが、必ずやる、という決意だけは固まった。わからないだらけだが、しかたない。私は、その難題付きの薬草を、何の見通しもなく、引き抜くしかなかった。

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