五月某日 ナイフ・エッジ
人は変わらずにはいられません。
新海誠監督の映画『秒速5センチメートル』に登場した一節だと記憶している。
確か、上京した主人公が恋人に別れを告げられるシーンだ。ただこれだけの短いセリフから、それとなく関係のもつれ方が見えてくるように思える。
わたし個人としても、これまで幾度となく人の変化を痛感してきた。進学や就職など大きく人間関係が変化するときには、とりわけ「変化せずにはいられない」ことを意識させられる。
「おう、久しぶり」「卒業以来だね」「君、なんか変わったね」「そうかな、そう言われると変わったかも」
何気ない会話の中で、友人の成長を喜ぶ気持ちと同じくらいに、いやそれ以上に、寂しさを覚えてしまう。まるで居心地の良い関係がずっと続くかのように、なんの疑いもなく呑気に信じていた自分は、もうそこにはいられない。過ぎ去ってしまって初めて、その瞬間が奇跡的に絶妙なバランスの上にあったことを知る。
「変わったね」なんて面と向かって言えるのはまだ良い方だ。自分の記憶の中とはどこか違っている相手を目の前にして、戸惑い、驚きながら、でもそんな気持ちは内心にグッと堪えて、探り探り付き合う。そうしているうちにいつの間にか馴染んだ気になっても、決してかつての関係と同じ風にはいかない。こんなこともザラである。
人は変わらずにはいられない。自分も、自分以外も。自分と彼/彼女らとの関係も、なおさら。
このことの切なさと、喜びと、今という瞬間の尊さと。言葉になりきらない感情たちを抱いて、わたしは今日も生きる。絶え間ない変化に身を置きながら。