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BILLY ELLIOT 2024(16)ファンタスティック!

昨日の公演はカムイビリーに絞って12回目の観劇になります。

今回の公演には楽しみなことが三つありました。

一つ目は私の座席です。そう、役者さんと大接近できる通路側(花道)の席であることです。今回も募金(日本赤十字社)するために新札を用意しておきました。トニー役が吉田広大さんだったのでいじられませんでしたが明日の公演は西川大貴さんなので通路側のE席の方は覚悟しておいてください。必ずいじられますから(笑)。

二つ目は15時半の終演後に15分間の休憩を挟んで、2020年のビリー役だった川口調さんと中村海琉さん、おばあちゃん役の阿知波悟美さん、そして司会の辰巳智秋さん(ビッグ・ディヴィ役)による「ホームカミングアフタートーク」が行われたことです。

三つ目は、勿論、2005年から2016年までウェストエンドのビクトリア パレス シアターで上演された「BILLY ELLIOT THE MUSICAL 」を忠実に再現した生の演劇を鑑賞できたことです。

タイトルはこれらの三つを総称したものです。

最近、YouTubeでフルバージョンの「BILLY ELLIOT THE MUSICAL」の動画を3本視聴する機会がありました。

イタリア版(2019年)は衣装と舞台美術は完全無視でどでかいキャスター付きの階段が舞台に向かって左隅に鎮座していました。これが目障りなことと演者はステージの中央にいなければならないという固定観念にとらわれて舞台のスペースを無駄にしていることが気に入りませんでした。

2本の英語圏(2017年と2018年)の公演は歌や台詞は再現しているものの後は完全無視です。衣装の縫いぐるみはタキシードを着た6人にすり替えられ製作費をケチったとしか思えません。オリジナル作品を冒涜した公演だと怒りさえ覚えます。チケット料金が5千円でも私は絶対に観に行きません。

これらは日本の演劇が如何に優れているかを物語っています。それは日本人の緻密さや真面目さや優しさを象徴するものだからです。

椅子の扱い方一つとってもそうです。椅子は色々な働きをしています。

一つ目は時間稼ぎです。
カムイビリーがウィルキンソン先生に合格を報告する場面でバレエガール達は机だけを移動させ椅子一脚はそのままにして舞台から去りました。
その訳はカムイビリーが帰る準備をする間、ウィルキンソン先生が手持ち無沙汰にならないようにするためです。彼女はその間、取り残された椅子を片付けます。

二つ目は合図の音です。椅子を床に叩きつけることによって音を立て次の動作のきっかけにつなげます。

三つ目は高低差を出すことです。エリオット・ハンナが紹介していましたが、椅子にはお父さん、お母さん、赤ちゃんの三種類があってこれを使い分けることによって舞台の遠近感を出すそうです。舞台を斜めにすることでもその効果は発揮されます。
アフタートークでもこのことに触れていて、後ろにせり上がった舞台はバレエがやりにくいと言っていました。

四つ目は目印です。
「M-6 The Letter」でウィルキンソン先生は二脚の椅子を離して置き中央にスペースを設けました。それはビリーの亡き母がビリーに近づけるようにするためです。カムイビリーの優れた歌唱や安蘭けいさんと大月さゆさんの美しいデュエットに涙が頬を伝います。
その涙が乾ききらない内にブギーに入って行きます。手拍子を求められたお客さんは一斉にそれに応えます。そう、そう、この日の客入りはマチネとしては多かったと思います。中央席は2階までほぼ満席状態でした。超難関の縄跳びも余裕綽々で成功し拍手とともに大きな歓声も上がっていました。

五つ目は小道具です。
オールダー・ビリーの厚地康雄さんとの椅子を使ったバレエは息が合っていてその美しさに酔いしれました。空中遊泳もスピード感があり美しい動線を描いていてお客さんも大喜びでした。
アフタートークではオールダー・ビリー役の大貫勇輔さんのことが話題になりました。私の目にも焼き付いています。彼は舞台の床に両足をぴったりと付けて(開脚)ビリーを空中遊泳させたのです。
川口調さんは彼とのバレエは怖かったと言っていました。川口調さんも中村海琉さんもバレエ出身ではありませんが、よく頑張ったと思います。中村海琉さんはビリー役の時のインタビューでニューヨークで活躍できるダンサーになりたいと言っていました。その彼は7月に一ヶ月間ニューヨークに短期留学していたそうです。バレエだけではなく色々なジャンルのダンスを習って楽しかったと言っていました。
川口調さんはオープニングと今日の公演で2回観たと言っていましたが、中村海琉さんは5回観たそうです。多分クワトロ全員のを観ていると思います。

六つ目は休息です。役者さんの体力を温存するために椅子に座らせたのです。その代わり片付けは役者さんにさせました。
このミュージカルの場面転換は全部、役者さん達がやっています。
彼らは次の場面を作って舞台を去るのです。だから物語が途切れることがありません。

私は4月に日テレ製作の「アニー」を観劇してきました。第一の感想はまどろっこしいです。場面転換に時間がかかり物語が途切れてしまうのです。「BILLY ELLIOT」の製作はTBSです。日テレ対TBSは面白い構図だと思いませんか?

まさにこちらは映画的です。舞台の基本は福祉会館ですが、舞台の左右から化粧台やトイレを引き出したり人が横一列になって後ろを遮ったり周りを囲んで中が観えないようにしたりすることで、それがビリーの家の中になったりマイケルの部屋になったりロイヤルバレエスクールの劇場になったり坑内に向かうエレベーターになったりします。

極めつけは「M-4 Solidarity」です。福祉会館のバレエレッスンと外の騒動が同時進行します。それは観客のイマジネーションに頼る構成になっています。ここでも椅子が大活躍します。
この12分間のテーマは「団結」です。炭坑夫と対立している警察官はどちらも労働者階級なのです。それを賛美するのがこのシーンの目的です。

それに加えて舞台と観客席が逆転する場面転換のアイディアは秀逸です。そう、観客が面接官側になるのです。
面接官は「踊っているときの気持ちは?」とビリーに訊きます。この後に繰り広げられるカムイビリーのパフォーマンス「Electricity」にはいつも鳥肌が立ちます。

アフタートークで中村海琉さんは椅子の上の側転を2回失敗したと言っていました。生だからハプニングは付きものです。2020年の公演の時、マイケルが新品の人形を取りだそうとしたら何かに引っかかってもたついてしまいました。

今回はクリスマス会の後、マイケルは厚手のコートを羽織るのに手こずりました。とっさの判断でカムイビリーは手助けに向かいます。とても良い景色を観させていただきました。その彼が私のすぐ横を通り過ぎて行くのです。まさにファンタスティック!

あ!そう、そう、マイケルが母親の服をビリーに当てるときハンガーを落としてしまいました。その時、「クソ!」って言っていました。学ぶは真似ぶ。回を重ねる毎に進化して行く生だからこそ面白いのです。