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アニメ『ゴールデンカムイ』25話「樺太へ」

 第3期が始まりました。いよいよ樺太です。

鯉登少尉の奇行の旅をお楽しみください!

 杉元たち一行は、軍艦で樺太へ向かいます。間宮海峡を超えてゆきます。そこまで遠くはありません。
 鯉登は船酔いが悪いけれども、だからといって陸軍を選ぶのは異例です。船酔いがあっても、海軍人になれないわけでもありません。なんと言っても彼は海軍提督の御子息で薩摩閥です。

 当時の大日本帝国は陸軍と海軍でも派閥争いがあり、なかなか面倒なことになっております。

◆陸軍
長州閥
フランス式からプロイセン式

◆海軍
薩摩閥
イギリス式
 
 明治政府は、「西洋に学ぶ!」と掲げたものの。その中身は政治的な思惑もあり、いろいろな国の方式が混ざり合っておりました。

 日露戦争といえば、脚気による戦病死が問題とされています。森鴎外のやらかしとして名高いのですが、これも派閥争いがあります。医学でも、東大(森鴎外ら)VS私大(北里柴三郎ら)の派閥争いがあり、混沌としていたのです。

 イギリス式の海軍は、食事の重要性はよくわかっておりました。イギリス海軍はライム果汁によるビタミン補給を実施し、壊血病を防いだ実績もあるのです。そういう海軍からすれば、陸軍の脚気は「何をやっているのか?」となります。

東大とバトルし女性関係も激しかった北里柴三郎~熱血肥後もっこすの78年 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/05/05/124341
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 陸軍と海軍は、しょうもない争いもする。薩摩閥かつ海軍提督の息子が、陸軍にいる時点で「なんだあいつは……」と思われる宿命があるということも考えておきましょう。

 ついでに言うと、鯉登は当時の陸軍で嫌われそうな残念要素が揃っています。

 まずは髪型。七三分けは現在ですとクラシックな印象ですが、当時は典型的なオシャレヘアーです。兵士と違い、将校は丸刈りにしなくともよい。だからこそ尾形は第七師団を抜けた後、長髪にしました。

 とはいえ、程度というものはある。まだ若い少尉のくせに、あんなふうに伸ばしている時点で「ふざけてんのか!」と思われたところで何の不思議もありません。今でいうところの、ツーブロック高校生みたいなものですね。

 さらに軍服。軍服は、規定さえ守っていればシルエットを絞ったり、あえてブーツを舶来ものにしたり、オシャレはできます。予算次第です。鯉登がオシャレ精神を発揮して、自分にぴったりな軍服にしている可能性はある。

 でも、前述の通り、そんなことをしていると嫌われます。上からは「生意気」、下からは「ボンボン」。彼に友達がいないにしても、そういうものだと思いましょう。コミニュケーションを取ることが、苦手そうですし……。

 のっけから荷物が大量にあり、月島に案の定突っ込まれる鯉登。そこは月島が荷造りから子守……もとい監督すべきでしたね。陸軍人のくせにアホっぽいし、いい歳こいて子どもじみているし、ボンボンといえばそうですけど。尾形は意識的にルールを破りますが、鯉登は生きて息をしているだけで何らかのルール破りをさらりと無意識のうちにやらかし、孤立する性格なのでしょう。

 多分、彼は不安だったのだとは思います。
 寒かったらどうしよう。下着の替えがなくなったらどうしよう。読む本がなくなったらどうしよう。お腹が空いたらどうしよう。
 そんなこんなで、彼なりに考えて「必要最小限だっ!」というのは本音だったとは思いますよ。咄嗟に思いついた言い訳ぽいけど。

 樺太編は、鯉登奇行観察の旅でもあります。見守りましょう。少尉はなかなかかわいそうではあります。同年代はあまりいないし、階級差もあるし、うっすらバカにされているし(勇作さんはそうではないみたいだったけど)。同年代のみんなと楽しく過ごせばいいんじゃないですか。それにしても、チカパシたちの入っていた鞄の中身はどうなったことやら。

大泊でフレップワインを

 現在の南樺太は、すっかり現代ロシア風の街並みになりました。それを明治末の日本領時代としてカラーで再現するとなると、かなり大変なはず。古写真はじめ、資料をきっちり調べている街並みが再現されています。

 鯉登が聞き込みの最中にいなくなってしまう。好奇心旺盛であるがために、いなくなる癖を覚えておきましょう。

 フレップとはコケモモのこと。英語ではリンゴンベリー。現在でも、ロシアや北欧でシロップとして売られています。フレップワインは買えなくとも、IKEAでシロップを買ってウォッカと水で割れば飲んだ気持ちを味わます。今回のトップ画像は、ロシアの食料品店に並ぶフルーツシロップの瓶です。それにしても勤務中飲酒……やはり鯉登は陸軍内で嫌われる奴だ……あと軍帽はどうした?

IKEA ドリュック・リンゴン https://www.ikea.com/jp/ja/p/dryck-lingon-lingonberry-syrup-50296004/

 ちなみに南樺太の気候は、劇中であるように北海道より寒いのです。ただ、場所によっては夏場は海流の影響もあってなかなか温かいことも。

 日本人からすれば、「北海道より寒いってつらい!」となる。稲作もできません。一方、ロシア人からすれば貴重な不凍港となり、重要な領土となります。

 日本よりもデカいヒグマとか。クズリもいるよ! 森も広い。森林資源が豊富ゆえに、日本領時代はパルプが一大産業でした。森林伐採の回復は、現在でも課題として残されています。

南樺太の歴史~戦前の日本経済に貢献した過去をゴールデンカムイと共に知る https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/07/08/116084
樺太(からふと)の歴史は“無関心の歴史”ゴールデンカムイ舞台に刮目だ https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/11/04/113844 #武将ジャパン @bushoojapanより

樺太アイヌの女の子

 樺太アイヌのエノノカが出てきました。ちなみにエノノカ初登場時、鯉登はさっと通訳のようなことをやらかす。彼が樺太アイヌの言葉を知っているわけがないのに、なんでこんなことができるのでしょう?

 鯉登はアホなのか? それとも何かあるのか?

・雪の上には橇が通った跡がある。フレップ店員も橇のことを言っていた。
・フレップ店員によれば、アイヌの少女はじいさんと来ている。
・じいさんの遠いものとなれば、耳だ。
・まっすぐ向かう。街に用事があったならば、目的地は自宅のある村だ。

 ということを、エノノカの状況から推理し、口にしたと。彼は観察眼や状況からの察知が得意です。初登場時も、それで偽犬童を見破ってもいた。鯉登の瞬発的な推理力はかなり高く、そのことが今後重要な要素になるとは思います。だからこそ。こういう場面で見せてくると。

 鯉登はバカではないどころか、むしろその逆のところはある。理解されにくいし、むしろ組織内で変人扱いされかねない悲しさはあります。見守ろう!

 この直後、やはり鯉登はバカではないかと思えることをやらかします。クズリ相手に調子こいて、つぶらな目だのなんだの言ってクズリに食われかけます。何をやっているんだ! こういう人の話を聞かないところだぞ、そういうところだぞ。このあと、「牝牛のように肥え太りおってからに」と無駄な語彙力を発揮するし。あと鯉登は口が悪いです。何を言えば人が傷つくのか、無頓着なのでしょう。やっぱり陸軍内で好かれそうにないな……。

 でも、これは月島も悪いのでは? だって、自分よりはるかに若くて、背が高くて、しかも脚は無傷の鯉登を背負って移動するのは過保護すぎます。ダメじゃないですか、そこは厳しく指導しないと!

 そこへヘンケの犬橇到着。樺太の重要な移動手段が犬橇でした。当時だけでもなく、先住民だけでもなく、和人やロシア人にとっても重要なものでした。

 樺太アイヌの風俗や文化を描くことも、重要な意義です。明治以降、先住民の「アイヌ」は日本人とされました。樺太がロシア領となれば、「アイヌ」は日本人なので樺太なり千島にはいられないことになる。ずっと生まれ育った場所から、「日本人」として移住せねばなりませんでした。樺太が日本とロシアどちらの領土となるか、このことが彼らの運命を左右したのです。

北海道では

 鶴見と土方一行が出てきました。原作よりも刺青人皮の入手枚数が減っていますが、本当に暗号は解けるのでしょうか。もうひとつ気になるのは、鶴見の大暴れは中央に伝わっているのかどうかということ。鯉登の父まで巻き込んで軍艦を動かしたとなると、もう把握されているのではないかと思うのですが。それが判明したら、鶴見以下大変なことになります。軍法会議ものです。

犬橇を雇えば楽ちん!

 前述の通り、失われつつあるアイヌ文化でも樺太と千島は深刻なものがあります。何せ、定住できなかった事情があります。度重なる移住は、環境の激変、疫病の蔓延等を招き、深刻な人口減少ももたらしました。

 エノノカの家で、鯉登は熊の脂で治療を受けています。臭いと文句をつけていますが、五感が敏感なのだとは思います。熊の肝は漢方材料として貴重であり、マタギの重要な収入源でした。

マタギが凄ぇ理由がわかる!ゴールデンカムイで大活躍の山を知り抜く猟師たち https://bushoojapan.com/jphistory/food-jp/2019/08/29/114358

 翌朝、鯉登は歩きたくないから犬橇を雇うことにします。ボンボンの甘ったれた気持ち……ではなく、将校としての判断だと思いましょう。エノノカのそろばんを弾くところがおもしろいのですが、これもユーモアにくるんだようで差別と決別する、本作らしい心意気です。

 和人は、アイヌは字も書けず、読めず、愚かで計算もできないと差別してきました。和人はものの対価を誤魔化す。値切る。支払おうとすらしない……抗議をすれば暴力を振るう。そういう苦い体験談が伝わっています。

 年下のアイヌの女の子が計算した金額をみて、値切らず払う鯉登は公平公正な人物ということになります。

スチェンカとは何か?

 そしてこのあと、一行は在留ロシア人村へ。
 ロシア語の会話が始まり、食器もロシア式。ロシアでは、ティーカップだけではなくポトスタカーンニクというグラスにつける金属ホルダーが用いられます。ここでも出てきて、いい味を出していますね。ロシア人はかなりできあがっております。ロシアといえばウォッカで酔っ払うイメージがあります。寒いからそこは仕方ない。

 杉元が酔っ払いと喧嘩して揉めている。ここで鯉登はサクッと拷問宣言をします。戦場ですら殺人を嫌がった勇作に対し、同じ少尉でも鯉登は射殺も斬首も拷問も平然とやらかす。そういう性格なんだな……。パヤパヤ頭だの三枚おろしだの、無駄に語彙力がある。

 そして、杉元が殴り倒した男の代役として、暑苦しい殴り合いスチェンカに出ろという話に。なんでも刺青男が来るらしく、参加するしかないと。杉元だけが出ればいいと3人は言っていましたが、結果的にロシア人の言動に煽られ、全員参加することに。

 ここで、意気込み表明のあとスチェンカへ。
 また鯉登です。フォームからしてイギリス式ボクシングを習っている可能性はあります。あと彼は致命傷を即座に与える特技持ち。体の正中線を殴ります。これは鍛錬の成果というよりも、先天性でしょう。
 鯉登は一撃目で素早く、致命傷になる動きができる。逆に言えば目に光がなくてそういう動きができない時は、何か精神的なひっかかりがあるのでしょう。
クズリ相手に負傷しても平気そうなのは、若さゆえの回復か。これまた痛覚が鈍いのか。本作の連中なんて、みんな回復力が脅威的ですけれども。

 で、「よき哉」さんが出てきておしまい。

 そうそう、声優の皆さんはロシア語を勉強しているようです。お疲れ様でした。

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小檜山青 Sei KOBIYAMA
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