『おちょやん』64 父の実像
母恋し――海辺で自分の名前の由来を語りかけていた、優しい母。そんな母を捨てた父への憎悪を胸に役者をしてきた天海一平。
しかし、その母は捨てられたのではなく、夫と子を捨てて別の男のもとに奔っていたのでした。
一平を守る嘘
そんな顛末を、飲み屋で千之助が劇団仲間に語っています。何気ない場面のようで、来ている服、盃やコップの持ち方、そして好きなアテなんかに個性がありまして。細かいなぁと思います。
カッコつけといえば初代のカッコつけ。でも、それは幼い我が子を守ための優しい嘘でした。
この顛末を知っているのは、あと一人しかいない。それが誰なのか、すぐさまわかる作りになっています。老賢女のお家さん・ハナです。彼女は台所ですり鉢を使っています。かめが驚いて替わろうとしますが、ハナは自分で作ると言うのでした。あの二人は疲れて帰ってくることを理解しているのです。
戻ってきたその二人。千代は一平に「かんにんな」と謝ります。千代がああいうことをしたせいで、綺麗な母の像は砕けましたから。けれどもだからこそ襲名すると決意が固まった一平。親父のことをボロクソに罵ってきたことに、もやもやとした感情が湧いています。
「ほな、してやったりやな」
千代は複雑な声音でそういいます。
そんなやりとりを、ハナはじっと聞いているのでした。
二台目襲名、挨拶回り
かくして翌日、新聞には二代目襲名が記事に掲載されます。天海の名前がどれほど重いものか、この新聞記事を見てはしゃぐ反応からもわかります。岡安にも早速襲名公演予約の電話が入る。大山社長もそら気合入れますわな。でも、ちょっと気になりません? 一平の演技はそこまで変わっていないだろうに、名前だけでこうも盛り上がる。今回はプラスとして描いておりますが、小山田なんかを見てくださいよ。小山田のような名家に生まれていない歌舞伎役者なんかは、名前不足で伸び悩むのです。芸を見るのか、名で判断するのかちゅうことです。
以前、鶴亀モデルの松竹座でお芝居みたとき、名門役者がアクシデントで代役になったことあるんです。するとカウンターに怒鳴り込んでいる客がいました。家の格が代役になって落ちた、もっと格上の役者じゃないとチケット代が損だと。代役の方だって上手なんですけどね。なんかこう、グロテスクなもんを感じましたね。
誰の代役を誰がしたのか? 『麒麟がくる』のナレーター代役を、今川義元役が務めたちゅうこと。古い話やな。
それにしても、デデンと新聞紙面を移すところ。きっちり仕事してるっちゅう自信を感じるで、ええんちゃうか。
初代の贔屓さんに、一平は挨拶回りに向かいます。このおっちゃんがすごく風格あって、上品で。関西らしさもあって。こういうのが京阪神の力のような気がします。なんかこう、ゲスな笑いだけやない。こういう目利きが惚れるほど、先代は良かったともわかります。偉大な役者だったと。そら鶴亀も守りたいと思いますわな。上方芸能はこれやっちゅう誇りが伝わってくる。挨拶回りのお膳にひとつとっても品がある。
でも……一平無理してへん? 一平はこういう愛想のある性格やないやろ。自分の本質まげてでも商売しとる感があって痛々しいのよ!
襲名で気合が入りすぎて、劇団は稽古で対立していまいます。そんだけ天海の名は重いのでしょう。紋入りの浴衣でわちゃわちゃして、座長の一声で収まる。これをまとめる一平はずいぶん丸くなって、劇団をまとめる器が出てきました。なるほど、名前を背負うってこういう意味もあるのか。
みんな一平を頼りにしているけれど、千代だけは不安です。
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