【コウラン伝 始皇帝の母】感想 第一回 GPSで安心の時代劇を
コウラン伝――始皇帝の母・趙姫の生涯を描くドラマ。
『キングダム』で関心が高まる、そんな時代。彼女はどう生きたのか? 気になりますよね!
……そう言えたらよいのですが、その手のドラマに詳しい方面からは「あれはあかん」という声が聞こえてきました。嫌な予感しかしないのですが、とりあえず見てみましょう。
ひどいことしか書いていないので、何も期待しないでいただきたいッ!
プロットホールじゃない、プロットザルだ!
あたし、李皓鑭(りこうらん)。もうすぐ結婚、そんな普通の女の子。でも本命は蛟王子なの、胸きゅん!
いきなりそこから入る。いや、その、時代背景あたりを解説しましょうか。
本編なのにダイジェスト感すら漂っていますが、開始数分でなんとなく話は動きました。
・ヒロインには怖い義母がいる。
・イケメン王子と恋をしていたけど……王子と会いたくて湖の辺りに行ったけど、駆け落ちとケチをつけられ、義母から水に落とされ殺されそうに!
・王子と会う約束をチクった奴がいるわね!
このあたりを覚えておけば、よろしいかと。チクった誰かは、その場に誰がいたか考えていけばアッサリわかる気がしますが、このヒロインにそういう機転を期待してはいけないらしい。雑なプロットなんでしょう。
これはアレだね、プロットザルだね! プロットホールじゃない。ザル状態なんだ。水は漏れ放題だ。
この作品に突っ込んだら負けだとはわかっていますが。衣装やセット、メイクや結髪はどうにかならなかったのでしょうか? 当時のものを再現しました。そういう気持ちはわかる。でも、コスプレレベルでしょ? それとも何? 『ミラクルニキ』気分かな?
なんでこんなことを言うのかというと、『趙氏孤児』を見てしまったため。あれは素晴らしかった。衣装の布地、小道具の質感、髪の結い方、メイク。当時のものを再現できるわけがない。けれども、麻の手触りすら伝わってくるようで、見ているだけで胸がいっぱいになりました。中国時代劇はすごい。こんなにも素晴らしいのか! それとの落差が酷い。こんなミシンで縫った感満載の衣装を見せられてもね。ミシンを使うなとは言っていない。ミシンを使っていないように見せようよ。
まあ、時間も金もないのでしょう。『趙氏孤児』は、いきなり戦車戦(念のため書いておきますが、近現代の戦車ではなく古代のもの)だったもんな。金、手間、時間がかかる戦車戦の時点で、あのドラマは素晴らしいと開始数分で確信できました。
本作は、その逆なんだ……アバンの時点でお先真っ暗だよ!
実母、即座に死ぬ
コウランは死んでいるわけもなく、家をそっと覗くと、義母が憎たらしく実母をいじめております。ゲス妹(無駄に漢字が難しいのでもうこれにします)が王子と結婚するってよ。
実母は、ここで井戸に落とされて死にます。コウランはじっと見ていた! 本作は、重要な場面を誰かが目撃する雑仕様なので、ご安心ください。
アホだなぁ。こっそり誰も見ていないところで絞殺して、「娘の後追いしました」って偽装自殺すればいいだけなのに。そういう機転はないらしい。見ているだけで脳みそが溶けそう……。
で、ヒロインはよくも母を殺したと詰め寄る。祝言当日に人死って、延期でもしたほうがよさそうなものですが。服喪はいいのかな? あ、花嫁(ゲス妹)の実母でないからいいのか。
本作は結構カットしてあるそうですが、そのせいかめまぐるしい展開です。スマホゲーみたい。最近広告が増えた、謀略で後宮をのし上がる系のゲームだ……広告見ただけで、遊んだことはないのですが。そうか。そういう層向けか!
何かが間違っている気がしてなりませんが、ともあれ先へ進みましょう。
イケメン呂不韋がクールに登場
このあと、呂不韋が出てきます。巨根伝説? それは別の人ですよ。下ネタで申し訳ないのですが、一歩間違えるとそういうゲスな発想を導きかねないと思うのですが。よくわからないドラマだな。
呂不韋は“いいことをしている”くせに、髪の毛がバッチリセットしてあって乱れてもおりません。こいつはここで、一体何をしていたのだろう? この既視感も、イケメン乙女ゲーだ。
“ドS王子”・呂不韋
「フッ、俺がここでいいことしているってわからないのかい?」(CV:東地宏樹)
王子じゃない、商人だけどね!
そんなわけで、人魚の涙オークションに参加。呂不韋はバカみたいなアピールをします。
・人魚の涙という宝玉でなくて、その箱こそ価値がある……。
・話題作りで名前を売るのさ。
・宝玉は展示して人気を得るぞ。
呂不韋のドヤ顔。スーパーボールじみた宝玉。なんか知らんがホイホイ出てくる丞相のNPC感。
宝玉というのは、神秘性があるとされている。現代に再現するとなると、扱いが難しいアイテムだ。それをどう使うか? 『趙氏孤児』では……いや、もう期待を捨てればよいだけだ。
このあと、呂不韋はオークションでヒロインを買います。キザったらしく顔の傷を拭うと、メイクでした。なんか呂不韋のおつきが驚いています。いや、私でも検討つきましたが。
とりあえず呂不韋のドヤ顔が腹立つ。私が始皇帝でも、こいつは追放すると思います。なんなんだ、こいつはなんなんだ! イケメンなら何もかもが許されると思うなよ! そうそう、呂不韋が顔がよくてもあまりイケメンに見えないのは、所作が汚いからだと思います。
体に芯がピリッと入ったように、まっすぐ立たない。よりかかったり、ダラっとした姿勢をとる。人前だろうがかます。大人(たいじん)というのは、もっとピリッとして泰山のような威厳を見せると思いますが。これじゃただのダラけたイケメンでしょ。
その点、『趙氏孤児』は……いや、それはやめておこう。
説明セリフ&GPSスマホで親切仕様
このあと、怒涛の説明セリフ展開&立ち聞きが始まるぞ!
王宮でコウランは、王子を問い詰める。それを呂不韋が全部聞いている。どうして本作の連中は、誰かの目につくところで危険なことをするのだろう? 雑だ……。
ま、要するに、義母とゲス妹の策略で、王子を略奪愛したそうです。王子とヒロインはキュンキュンしていたのに……この辺混乱してきました。当時の王族と結婚相手って、そんなにフランクで恋愛感情重んじるものだったっけ? そういうツッコミはやめるんだ!
ここで、無茶苦茶わかりやすい説明が入ります。コウランの母は身分が低く、ゲス妹は高い。王子はそういうことを考えたそうです。別にいいんじゃね? 貴賤結婚はトラブルの元ともされますし。
でも本作のこいつらは、そういうクールな考え方はできないからさ!
コウランは水に飛び込もうとする。どこの川なんだ。宮殿からの距離は? コウランが大声で事情を全部絶叫し、崖まで移動し、呂不韋がドヤ顔天下取り宣言をして、なんかごまかされました。
ゲス妹は、ゲス義母に、「姉上生きてたから殺しちゃお!」と言います。すると次の瞬間、コウランの背後に刺客が出てくる。だからこの崖はどこなんだよ?
このドラマの登場人物、GPSつきスマホ持っているでしょ? そうとしか思えないんだよ! まっとうなドラマだと、早馬が走る場面を入れたりしますが。そんなもん期待すんなよ……。
このあと、コウランがものを食べなくなる。呂不韋がイケメンアプローチで励ます。ったくこのスマホ乙女ゲードラマがよぉ!!
GPSスマホはともかくとしてさ。普通、刺客に狙われたら自重しそうじゃないですか。でもコウランはそんなことをしない。恩義ある老婆を救い、アクセサリを売り払って、助ける。
この世界にはスタバもあるらしい?
コウランちゃんはいい子なんだぞ! アクセサリを売り払うところでは知性アピール! そういう意図は理解できるンだわ。でも、他の言動がバカすぎて無意味な場面にしか思えない。
だってコウランはわけがわからないんだもん。顔をさらして歩き回るから、当時のスタバみたいなところでお茶しているゲス妹たちが、見つけてコーヒーカップ(みたいなもん)をぶつけたりする。王子の妻なのにホイホイ出歩けて結構なことですね。護衛は? どうでもいいんです。これはただのコスプレドラマだからさ。
コウランは警戒心がゼロなので、チンピラに絡まれたりする。なんでコウランはコーヒーカップぶつけられたり、チンピラに絡まれるのか? ヒロインだからさ……それ以外の理由? さあ、なんでしょうね。
その合間に、コウランは父を問い詰めて謝らせたり、実母は父の恩人だと説明セリフでガーッと視聴者に説明したり。誰にも頼らない宣言をしたり。始皇帝の母のキャラ付けをしたい意図はわかった。でもこんなキャラ付けは特に求めてない……。
イケメンの異人も出てきました。うん、イケメンだね! 今言えることはそれだけだ!!
既視感があるドラマ……せわぁない
MVP:始皇帝
この呂不韋を追放するのであれば、英断としか言いようがない。
総評:
NHK海外ドラマ班では――。
新人A:中国時代劇大好き。アイデア精神に富む。中国語もでき、ドラマチェックが欠かせない。しかし権限がない。
中堅B:知性派。きっちり調べてものごとを決める。けれども、中国時代劇には詳しくない。
上長C:「中国人? 自転車乗ってるよな」で頭が止まっているおじさん。でも権限がある。
A「今、華流ドラマが熱いんです! 韓流の次は華流ですね。『陳情令』なんて大ヒットしましたよ。乗り遅れられませんよ! ここにおすすめリストを作ってきました」
C「でもさぁ、日本人って『三国志』くらいしか知らないだろ」
B「……いや、勝手に日本人を代表されましてもね。大河の『麒麟がくる』をふまえれば、明代のドラマなんていいと思いますけど」
A「なら、『成化帝十四年』なんてどうでしょう? アレはすごく面白かったなあ。ジャッキー・チェンが手がけただけのことはありますよね」
B「おもしろそうだね。日本では『キングダム』だって人気でしょう? うちでも取り上げているじゃないですか」
C「ああ、なんだっけ。始皇帝か。始皇帝って、紀元前の人だったっけ?」
A「うっ!」
B「……ええとそれは!」
C「なんか偉い人ではあるんだよな? それ絡みのドラマないの?」
A「え、えと。あるにはあるんですけど。中国では評判があまりよくなくて……」
C「中国人の感覚と日本人は違うからさ。いちいちあいつらの言うこと気にしてられんだろ」
B「今、ちょっと調べました。始皇帝の母が主人公のドラマがありますね。『 瓔珞<エイラク>~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』とかぶっているキャストが多いですね。へえ、美男美女が出てきて人気のあったドラマか」
C「イケメンね! やっぱりドラマはそこだよ。結局女はそこしか見ないもんな。イケメンで人気のある時代を扱う。それしかないな!」
A「え、あ、そ、そうなんですけど! そのドラマのヒットを受けて、使い回しキャストで雑な二番煎じをした結果、酷い出来で。とても評判が悪いドラマなんですけど……」
C「きみが中国時代劇を推してきたからなんだけどな。どうした?」
B「顔色が悪いけど、大丈夫?」
ねえねえ、なんかこういう雑会議で決めてません? 貴重な中国時代劇枠に、なんでこれをつっこみますか?
例えるのであれば、中国のテレビ局がこういうことをやらかしたようなものでしょう。
「日本の時代劇需要を踏まえて、大河ドラマを放映します。ヒロインがキラキラしている『花燃ゆ』だ!」
いや、実際に似ているノリはある。強引なイケメン少女漫画路線とか。そんなもん、別に海を超えてこなくてもよかった。いや、有料チャンネル向けならともかくとして、受信料をこれに突っ込んでどうするのよ……。
『花燃ゆ』みたいな時代劇は日本だけじゃない! わかってよかった……わけないでしょうが。『アンという名の少女』を選べるだけの目利きがありながら、なんでこれを選んだのか?
中国時代劇に詳しい人の意見を採用してください。じゃあ、結論でも。
結論:『コウラン伝』は中国版『花燃ゆ』。キラキラ美男美女コスプレドラマとして見るのであれば、ご自由に。歴史劇であることを期待するのは、ケーキ屋さんで絶品東坡肉を買おうとするくらい、的外れ。
来週以降ね。さて、どうしたものでしょう。