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アニメ『ゴールデンカムイ』28話 不死身の杉元ハラキリショー
トップ画像は現在のユジノサハリンスク。アシリパ一行の目の前にあらわれた鹿を、尾形が射殺します。それは樺太のジャコウジカでした。
ジャコジカたち
ジャコウジカの性別を気にするキロランケ。それには理由がありました。肉はまずいし、毛皮も売り物にならない。けれども、麝香線という分泌液を出す部分がある。オシッコとアチャの脇の下の臭いだとアシリパが悶絶しております。
これを薄めると香水の原料、ムスクになる。今では動物保全の観点から、合成ムスクは用いられるようです。ここで尾形はフレーメン現象を起こす。だからなんなんだ、このネコ科はよ! キロランケは麝香なしでも女が寄ってくると自慢げです。セクシーだもんね。
ジャコウジカは決まったねぐらを持たないがゆえに、樺太の季節労働者は“ジャコジカ“と呼ばれ、キロランケとウイルクもそう呼ばれていたとか
南樺太は、日本人にとっても、アイヌにとっても、一攫千金を狙えるフロンティアのような場所ではありました。ただ、求めて開拓者精神からそうした和人と異なり、アイヌにとっては住む場所や生活基盤を失ってのことでもあったのです。労働環境は劣悪。政治権限もなく、食糧援助も惜しまれる。そんな辛い歴史が樺太の人々にはあったのです。
南樺太の歴史~戦前の日本経済に貢献した過去をゴールデンカムイと共に知る https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2020/07/08/116084
ウイルクの初の獲物はジャコウジカで、ホホチリを切り落としたとキロランケが語ります。樺太アイヌの男の子が、前髪につける三角形のガラス飾りなのだとか。一人で初めて獲物を狩ることで切り落とすのだそうです。アイヌはガラス玉を交易で得て、装飾品に使っておりました。
アシリパは、男がつけるものだったのか、アチャのことを思い出したと言っています。
ウイルクの複雑な子育てもわかってくる。彼は我が子は息子だと信じていて、娘が生まれたことで失望もあったのかもしれない。アシリパに弟がいないのだとすればなぜなのか? 娘の運命を決めるような育児でよかったのか?
ウイルクは何を考えていたのでしょうか。
豊原の曲馬団ヤマダ一座
舞台は豊原(現・ユジノサハリンスク)へ。南樺太最大の都市です。
チカパシはエノノカがつけてくれたホホチリに浮かれています。すると、杉元たちが少年を追跡しています。岩息の刺青入り背嚢(リュック)を置き引きされたとか。杉元何してんだ。身の軽いその少年を、鯉登が追跡します。
ウールの軍服、しかもコートまで着てこの身の軽さ。鯉登はなんなんだ。
少年がたどり着いた先は「曲馬団ヤマダ一座」。横書きが右から左なのがよいです。『鬼滅の刃』のアニメはこれを時々間違えているので、ここはなんとかして欲しいところ。
長吉と呼ばれるこの少年は、盗難が癖になっているらしい。ここで銃声が響きます。追いついた鯉登でした。追いつかれたのは長吉にとっても初めてだとか。
みなしごで育ちが悪く、手癖が悪いと山田が謝ります。そして責任を取るといい、長吉の頬を切りつけます。杉元が山田を殴り、谷垣が長吉を庇う。暴力的な明治男どもめ……。ただ、この刀は仕込みで血は偽物だったのです。切ったフリでした。
なんでも海外公演で大人気だったハラキリショーの小道具らしい。ここで長吉が花形軽業師だと明かされて「道理で……」と鯉登が納得しています。彼なりになんであんなに身軽なのか気にしていたのでしょう。
ロシアで巡業をして、樺太公演をしたのだとか。日露の関係を考えると、なかなか興味深いものもある。ここで杉元が、不死身の杉元腹切ショーをしてアシリパの注目を集めると言い出します。なんだそりゃ。渋る山田に、芸人にならないから秘密は守る、嫌なら長吉を突き出すと脅す杉元。困惑する山田に、長吉が欠員を補うためにも杉本の仲間も出てもらうなら良いのではないかと提案します。特に鯉登は適性がありそうだとかなんとか。
その鯉登は、軍服姿ですばらしい身体能力を見せます。彼は飛び抜けた運動能力があるようです。
一方、杉元と谷垣は自転車に乗れない。鯉登は曲乗りをこなす。当時の自転車は高級品であり、彼らの経済格差を感じます。初めてなれば、そりゃね。
自転車の歴史~ヨーロッパ生まれの高価な乗り物が幕末ニッポンを走る https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/09/14/118627
それにしても、ここで鯉登があっさり陸軍第七師団所属だと明かしていますが。セキュリティ意識は大丈夫なのでしょうか。
杉元はハラキリショーの練習をする。月島と谷垣は曲芸の才能がないから、脇で踊る少女団に入れと言われます。設営助手あたりじゃダメなんですか。少女どころかむさい野郎どもですよ。
ここでハードボイルドなフミエ先生が、ビシバシ仕込みます。フミエは下ネタ上等ですが、お若い頃は美貌の玉乗りか何かですかね。歴戦の強さを感じますね。
鯉登は才能もあるし、見た目も貴公子.団長は鯉登で話題が沸騰すると言う。
ここちょっと気になったのですが、原作とアニメで、ちょっと鯉登の解釈エラーというか、性格の違いが出てきちゃった気がする。これは後述します。
谷垣は少女団でうまく踊れず、しくしくと泣いています。少女団のお荷物だと嘆いているのです。
ハラキリショーは、和紙を切って本物だとアピール。祈ったり、水を浴びたり、不可解な動作もありますが、それも重要なのだとか。刀に仕込んだ紅を水に溶かして、血として見せるのだそうです。
うまいことを考えるもんですな! 日本の軽業や手妻師は、この時代海外でも受けたそうですよ。
幕末から戦前まで人々は何を娯楽としてきた?日本の伝統演芸36をリスト化 https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/07/12/107783
鯉登は投げ接吻、投げキッスもマスターします。鯉登に少女たちは歓声をあげて、杉元は苛立っております。この回は原作の細かいギャグがカットされている部分が多い。プロットにあんまり関係ないからそういうものでしょうけれども。人斬り用一郎は話そのものがカットされてしまいました。ちょっとジャニーズパロディ見たかったな。
少女団に励まさせる谷垣。ここで紅子という少女が身のを明かします。この公演が最後なのだそうです。少女団は全員孤児で、曲馬団が預かっている。興行先でもらわれて、次の土地へと移ってゆく。富国強兵を打ち出したこともあり、人口が増大していた当時はこんな立場の人も多かったものです。女工よりはまだよいのかもしれないけれど、紅子がこの先幸せになるかどうかもハッキリとは言えず……ハッキリ言えることがあるとすれば、このままずっと豊原にいるのだとすれば、彼女は昭和20年(1945年)、北海道に引き揚げた可能性が高いということです。
カットが多い今回なのに、紅子のエピソードを残したところはよいですねえ……。
そして開幕!
そしていよいよ開幕。
シルクハットをかぶり、拍子木を打つ。和洋折衷ですね。長吉と鯉登が好評を博しております。鯉登の投げ接吻に観客席は悶絶!
少女団はちょっとロシアぽい音楽を背景に踊っています。こんな短期間で、二度と使わないであろう谷垣と月島の衣装を塗った曲馬団はえらい。
そして鯉登は坂綱に挑みます。その綱に鶴見の写真があることを察知し、鯉登は他の演目に乗り込みつつも写真を追跡します。人間離れした動きで写真を確保。山田は、軽業の神様は本当におわしたと感激。一方で、鯉登は自分の荷物を漁って杉元が妨害したと決めつけ、激怒しています。いいのか、それ?
少女団はうまくいき、谷垣もフミエに褒められています。よかったね。
そしていよいよ最後の演目。不死身の杉元ハラキリショーです。そのとき、ロシア人3名がサーカスのテントに入っていきます。
鯉登は自分の荷物を確認し、鶴見の写真を見つけています。どういうことだ? しかもちょっと手のポーズが違います。月島がここで明かします。鯉登が目立ちすぎると本末転倒だからと、妨害工作をしたのだそうです。手を汚せば丸く収まると思ったそうです。月島は手を汚す覚悟があると。鯉登は写真を両方とも自分のものにしています。そして「まずい……」と言い出すのです。
仕返しに自分の軍刀と、ハラキリショーの刀、刀身を取り替えたらしい。おいっ、それじゃサーカスの意味がないだろ!
かくして、真剣によるハラキリショー開始。死ぬぞ! うへへ〜い! そうふざけ、観客を盛り上げつつ、腕を切る杉元。なんか本当に痛い。そう焦っています。ここで鯉登と月島が、横からすり替えをしていると示す.杉本はどうするか迷ったものの、盛り上がるわけにはいかないと続行します。
腹を切って内臓にあてない。そんな器用なことができるかどうか?
アシリパのためだと気合を入れたそのとき、ロシア人が銃を向けてきました。杉元は手首ごと拳銃を落とし、切る。そして真剣をぶん投げて二人目も倒す。逃げた三人目は月島が殴り倒しました。
この隙に死体を片付け、全員でご挨拶!
円満な解決、かな?
情報将校だった団長
ロシア人を月島が尋問しています。なんでもハラキリショーの男を殺せという、ロシア政府の依頼で来たとか。それがたまたま今回は杉元であったわけです。
なんで座長が狙われたのか? 月島はここで、スパイなのかと聞きます。元陸軍将校で、日露戦争前からロシアを巡業し、諜報活動をしてきた。それを勘づかれたようです。鶴見や月島が情報将校としての一面をもつことは、前回も語られていました。なかなか重要な伏線です。
ここでフミエが「三流スパイだよ」と毒づき、三人目を射殺します。テントの下に死体を受けて、ここは元の空き地だと吐き捨て、一件落着なのでした。
江戸時代中期あたりから、蝦夷地はロシアへの対処に苦慮してきた。北鎮部隊こと第七師団は、その最前線を守るものとして、重圧を感じてきたのです。日本とロシアの歴史にぐっと踏み込む樺太編です。
ちなみに私は、ロシアの方に樺太における会津藩警備のことを話したことがあるのです。こちらは軽い世間話の気分だったのですが、相手は極めて真面目に、ロシアと樺太の関係を返してきまして。領土問題だから、そうなるだろうと痛感させられたものです。
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谷垣は紅子先輩と感涙の別れ。そして月島は樺太新聞の記事を読んでいます。公演のことが掲載されているそうです。ほぼ鯉登賞賛だわ、不死身でなくて“不痔身”になっているわ。悶絶する杉元なのでした。
まあ、それはそれとして。陸軍将校の鯉登の名前がこんなところで出てきて、果たしてよいものかどうか。セキュリティはどうなっているのやら。
その鯉登は、アメリカを回るから山田一座に残ってほしいと頼まれて、鶴見中尉殿の叱られてしまうとアッサリ断るのでした。適性は軽業師の方がありそうだけど……。
月島はここで、ある男のことを追っていると言います。アムール川流域のパルチザンの男がいると聞き、山田は答えます。それならば530キロ先にあるアレクサンドロフスカヤ監獄――極東少数民族も多数移送されたとか。
樺太公演は失敗だったけれども。重要情報を得ました。
杉元は失敗じゃねえよ、と言う。二行だし、誤字もあるけど、アシリパは気づくはずだ。アシリパの綺麗な青い目に、自分が生きている証拠が写っていますように。そうねがう杉元です。
が、アシリパはそのころ、白石の尻からでたものを見ているのでした。
鯉登の個性
原作から変わった! あそこがカットされた! そういうことを言われるのは、アニメの宿命ですよね。そこをいちいち言っても仕方ない。若いトシさんが見たかったとか。トシさんパートは刺青人皮入手だからカットされそうとか。そういう気持ちは当然あるのですが。キラウシはどこで出てくるんでしょうね。
そこはさておき、カットされていないにもかかわらず、わかりにくくなった鯉登関連の描写をまとめておきます。
◆鯉登はわりとシンプル、表情が独特
長吉に追いついて「逃げ切ったと思ったか!」というところ。アニメでは「観念したか!」というニュアンスがあるのですが、原作は割ともっと淡々としている感はあります。
長吉が出演していただく案を出した時、谷垣と月島はハッと動揺を見せ冷や汗も描かれていますが、鯉登はあんまり驚いていないというか、反応が鈍い。
陸軍第七師団と所属を答えるときも、原作は割と無表情なのですが、アニメは「フッ!」という得意げな感じが出ています。
◆空気読めない
杉元に目立つなと言われた時、「嫉妬か見苦しいぞ!」と言う。ここも杉元に勝ち誇ると言うよりも、原作だとただ真っ直ぐ一生懸命にがんばっちゃった感が出ていると思うのです。手抜きができない。
これはアニメでカットされたのですが、杉元が鯉登はチヤホヤされて調子に乗っていると言う。けれども、鯉登はむしろ周囲の反応を無視する、空気の読めなさを感じます。だからこそ、いろいろやらかすわけです。
鶴見の写真を、自分のものでない月島の分まで当然のように仕舞い込むところも、原作の方がちゃっかりしているところがある。月島の目の前でそういうことをして、相手がどう思うかまで考えていないのでしょう。
◆反省しない! 叱られたくない!
鯉登はわりと状況を悪化させることをするのに、それに対してあんまり反省しません。杉元の刀身すり替えは下手すれば死にかねないのに、反省の素振りがない。謝ったところで事態は変わらないから、割り切っているのか……。
山田にサーカスに誘われても、鶴見に叱られたくないと即座に断ります。これも彼らしい不思議さで、あそこまで観客を圧倒したら、普通は調子に乗っても良いところではありませんか? そういうチヤホヤされて浮かれる感がないのです。
そして鯉登は、初登場時から鶴見の叱責を恐れています。大胆なのか、小心者なのか? 鶴見への愛着ゆえに断るというよりも、失望される嫌な予感がいつもあるのか?
樺太編は、それまで出番が少ない鯉登の独特さが出てくる局面なので、今後の展開として大事だと思います。育ちのせいで独特に思われがちな鯉登ですが、生まれつき変わったところもあるのだと思います。
あと、小西克幸さんは演技がうますぎるというか。文句なしのイケボで、演技もうまいのですが、鯉登の変な個性はもっと早口でわけがわからなくて棒読みじみた演技の方がよいかも……彼は特殊なのです。
BBC『SHERLOCK』というドラマがあります。あれは吹き替えと字幕で話し方がかなり違いまして。吹き替えは「自分が賢いと思っていて相手にマウンティングをする演技」なのです。字幕は、割と棒読みでガーッと淡々と無愛想に話している。普段はそうでなくても、推理が煮詰まって興奮気味になるとダーッとやらかします。別にあれはベネディクト・カンバーバッチの演技がなわけでなく、あえて特性としてそうしているわけです。
鯉登の場合、鶴見と話す時が極度に緊張してかつ薩摩ことばになってやらかしますが。鶴見以外のとの会話時、興奮モードになったらガチガチと堅苦しくて変な感じになると思うのです。
いや、別にアニメに文句はない。小西さんはいつだって素晴らしい。ただ、鯉登の特性はそういう変人なのだと思います。
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