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【漫画】張六郎『千年狐 〜干宝「捜神記」より〜』
それは東晋の時代――千年生きた狐がいた。人智を超えた不思議が起こる! そんな「捜神記」を漫画にしたぞ!
中国史ものへの愛憎がありましてね
漫画を読む機会も減りました。というわりに読んでいるようないないような。そんな中で、この作品はWeb広告であまりに面白かったので購入してしまったのです。
中国時代ものの漫画は読みたいようで、好みに合うものがなく。かつてはガッツリハマったけれど、今はもう思い出すのも嫌になるような中国史漫画もあります。タイトルは伏せますが。
なんでそうなるかというと、自分なりに勉強なりなんなりしていくと、綻びが見えてくるんですね。中国思想を舐めとんのか? 勝手に現代人の解釈してんじゃねーよ。史実通りにしとけ、この布陣じゃ負けるわ!……なまじそういうボロや中国史を舐め腐った態度が透けて見えると、かえって可愛さ余って憎さ百倍になります。
かつては自分の親や先生が、時代物をみながら、時代考証がおかしいとぶつくさところを無粋だと思っていたものですが。気づけば自分もそうなっており……。
ふざけているようで時代考証が丹念だ!
そんなめんどくさい私がこの作品にまんまとハマったのは、時代考証がちゃんとしていて、かつ原典への敬愛があるからだと思います。いや、ふざけている箇所は常にある。けれども、晋にないものは基本的に出てこない。横光三国志と元になった吉川英治『三国志』がやっちまった「母にお茶を買う」みたいなエラーがない。中国史ものはここまで古いとかえってめんどくさいものですが、実に丁寧に作っています。現代の読者が見てよいと思えるキャラクターデザインにアレンジしてはあるけれども、ちゃんとしているんですよね。
ふざけているようで、これはアリなんじゃないかというアプローチ
この漫画はギャグがキモでとてもふざけているのですが、そのふざけ具合も解釈としていい。怪異現象の影に酷使される冥府使者の苦労があるとか。そういう説明づけが「なるほど!」と思わせて素晴らしい。ただただふざけているのではなく、当時の感覚や認識なら「怪異だ!」なっていたんだろうと思えるのです。ふざけているようで、展開的には納得できるんですよね。
それができるのも、原典を読み込んでいてかつ好きだからなんだろうと思える。この作品は本当にいい。勉強にもなります。
大袈裟でなく、現代版中島敦かも
中島敦が好きです。
おなじみの『山月記』のあの作家です。彼は自分自身がもつ漢籍知識を駆使して、当時の心理状態に沿わせるような作品を描きました。『山月記』の元になった人が虎に変ずる話は、原典ではただの怪奇現象です。因果関係は不明です。
それをプライドゆえに挫折して虎になるとした。
ああ、そういえば虎にはならないけど、そんなふうに道を誤る人がいるよなあ。そう共感できるからこそ斬新で、名作として愛されているのです。
そういう解釈という意味で、これは中島敦の作品みたいなものかと私は思います。ブラック労働に悩みすぎてつい一線を踏み越える冥府使者。モフモフに萌える宋大賢。こうした描写は現代人の共感を呼び覚ましますもんね。
中島敦は知識があって滅法文章力も語彙力もあったけれども。この作者も画力や構成力が高い。
きちんと基礎工事ができているからこそ、ぶっとんだ傑作を生み出せる。そう思えるよい作品です。まとめ買いを後悔しないぞ!
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