見出し画像

『おちょやん』43 芝居はホンと心あって、喜劇は会社と社会あってのもん

 1928年(昭和3年)、夏の道頓堀に千代は帰ってきたでぇ! 鶴亀大山社長の鶴の一声で新喜劇団を始めることになったものの、千之助がいないとわかり、もう崩壊しとります。座長の一平は引き止めない。どないなっとんねん!
 歌劇団(いまだとアイドル)、東京からの引き抜き女優、歌舞伎出身者も抜けていく。どうするどうする!

千代と千之助の対決

 千代は決意を固めます。千之助さんを連れてくる! そう長屋じみた安宿にあがりこみ、花札をしている千之助と百久利に迫ります。花札ちゅうのも博打の道具でな。今はクラシックな遊びやけども、かつては胡散臭いもんで。ちなみに任天堂も、ファミコンの前は花札っちゅうイメージやったんやで。
 千代が千之助に頼み込んでも、「青二才が!」とそっけない。そんな千之助にもややこしい劣等感があんねん。万太郎に勝てへん……これはぼかしているようで、モデルは特定できるようで。読み取りが素直にできんっちゃそうですけど。でもま、上方芸能史辿っとけば隠しようないやんか。
 吉本やな。
 万太郎個人のモデルはさておき、吉本が上方の笑いを変えてもうた。これは動かしようのない話です。それを偉業とみとったのが『わろてんか』なら、『おちょやん』はどないすんねん。
 もう、はなっからこの一点だけでもおもろいに決まっとると思う。
 
 喜劇役者としての思いがくすぶる千之助は、千代に自分を笑わしたら参加したると言います。千代はこの間すっこけた女優とご利益ある神社をかけたしょうもないことを言い出すのですが。ほげた達者にも限界はあるわけでして。滑っとります。

 千代は岡安で笑かす練習をします。コケコッコしながら猫との攻防を演じたりしとる。なんやこの無駄に杉咲花さんに負担かける演出は! でも演技達者だし、かいらしな。こういう笑いの取り方はええと思う。
 まあ、それを見とる玉さんは笑うほど切ない場面やけどな。

落魄した芸人の行く末は

 一平は大道芸をしている天晴のもとを訪ねます。ここもちょっとした場面のようで、なかなか興味深いのです。昔はこういう芸とセットでものを売る人がおりまして。これも突っ込むとややこしい。香具師(ヤシ)ちゅうやつやね。なんでややこしいかちゅうと、ヤクザとも繋がりがあるわけでして。ショバ代だのなんだの揉めるし。『仁義なき戦い』シリーズの大友勝利モデルももとは香具師がらみの団体だし。そういう系統がありましてな。
 商売もガマの油売りパフォーマンスなんか有名ですけど。粗悪品を売ることもあった。食べ物となると食中毒や添加物のせいで最悪死に至ります。上の年代の日本人が「買い食いしたらあかんでぇ!」と躾けていたのは、礼儀作法もありますが、最悪死に至る可能性が高かったからなのです。
 今ほどしっかりしてへんから、そういう事件起こしてもふらりと流れたらそれまでよ。
 そういうややこしいこの場面は、時代考証がほんまに大変です。『ゴールデンカムイ』でも大道芸人や物売り変装をする場面がありましたが、こういうもんを入れるフィクションはちゃんと丁寧に作っているのです。

ここから先は

2,453字
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…

よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!