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アニメ『ゴールデンカムイ』26話 スチェンカ

 第3期が始まりました。いよいよ樺太です。で、なんなんですか、スチェンカって。トップ画像はサハリン州(南樺太)から見た海。

岩息舞治登場

 杉元は、屋外でまつ毛が長くて、曇りなき眼をしていて(多分『鬼滅の刃』の炭治郎並)、ガタイがいい男と握手をします。
 岩息舞治!

 この作品では、囚人や犯罪者には実在しないような名前をつけていることが多いのですが、これもマナーの一種だとは思います。犯罪者と同じ名前の実在する人物が、迷惑を被らないようにするわけです。
 創作って、なんでも自由なようで実はそうでもないものでして。ミステリでも、「模倣をすると失敗する箇所」を犯罪手口やトリックに入れていたりします。

 ここで「日本人なのに握手で挨拶とは珍しい」という指摘が入ります。けれども、実は鯉登も前回、エノノカと握手をしています。海軍人の息子として、イギリス式教育を受けているのでしょう。殴り方のフォーム等、鯉登の所作にはそういう家庭環境が反映されています。

八百長スチェンカ

 さて、ロシアの酒場では日本兵の噂がすぐに広まったそうです。スチェンカ八百長をここで持ちかけてきます。
 刺青男が出るスチェンカで、わざと負けろと。そうすれば大勝ちできるから八百長しろとのこと。そうすれば犬を返すそうです。

 杉元はそのロシア人を押さえつけ、抜毛する。谷垣は、樺太アイヌの処罰を聞く。容赦がない! ロシア人は刺青男を追っているとバラすと言い返しますが。通じるわけもなく。
 このあと、鯉登が予定の発表します。

【鯉登のスケジュール
犬を返すまでこいつの指を切り落とす!
こいつを裏庭に埋めた後、刺青の男を確認する!
スチェンカはやらずに刺青の男を森に連行して皮剥ぎだ!

 鯉登は早速指を切ろうとするのですが、杉元は止めます。その場しのぎだと他の3名が言うものの、杉元はアシリパのヒントが得たいがために、粘ります。かくして賭けスチェンカに突入!

あなたにとってスチェンカとは?

 ここで、岩息がスチェンカについて語り出す。

 彼にとっては絵や歌や文章と同じ。それが彼の自己表現。幼い頃から、自分を知ってもらうために殴ってきた。世間は理解しない、当たり前だろう! でも、彼は悪い人ではない。悪事のために暴力は使わないのだと。

 それに、彼だけが飛び抜けておかしいとも思えないところはありまして。時代を遡れば遡るほど、人間は暴力性が濃くなってゆく。彼も鎌倉武士あたりに生まれたら「たいしたもんだなあ」と褒められてばかりだったとは思います。
 明治大正あたりの日本人は、なかなか激しい……。

 本作ではなくて『鬼滅の刃』の否定的レビューに返して申し訳ないのですが。いくらなんでも大正期に死体をあんなに乱暴に扱うのかというものがありましたが。いや、大正時代の死体処理あたりは、現代人の感覚とまるで違うのでそこは要注意です。

 そんな明治の暴力男は、牛山と死闘を繰り広げ、看守を殴り倒し、囚人ライフをわりと楽しく過ごしていたそうです。

 そんな刺青男が、いよいよスチェンカに出てくる! 八百長はどうするのか? ここで杉元は、疑念を抱く先遣隊に、「アシリパを取り戻し、刺青人皮を手に入れる妙案がある」と言い切ると。で、これを信じる純粋な鯉登がいると。

 一方、エノノカとチカパシは、おしゃべりロシア人から犬を取り戻そうとするのでした。

 スチェンカは、なかなかとんでもないことになっている。というのも、岩息が強すぎる。殴り合うことで、杉元とわかりあおうとしています。
「こぉらぁ〜私をみろぉ〜」 かわいいけど、とんでもない岩息。三人倒され、四人同時にかかってこいと言い出します。しかし岩息は強く、昔の二次元格闘ゲームじみた技を出し、勝てそうないと。

杉元の俺俺俺ラッシュ

 ここで杉元が、蹴りを入れます。おおっ、反則だ。観客は怒る。谷垣は戸惑う。鯉登は「そうか杉元、これが貴様の妙案なんだな!」とさわやか笑顔で殴られる。「落ち着け」と止める月島も。

 観客席からなだれ込むと、杉元は『ジョジョの奇妙な冒険』の承太郎オラオララッシュをかます。鯉登は「これが妙案なんだよな!」と語りかけ、杉元が手にした鎌でバッサリ掌を切られます。クズリにやられ、鎌で切られる。なかなか大変なことになる鯉登。
「第七……師団……」
 杉元は妙案どころか、ただの殴られすぎで脳みそが出てました。

 あとでハッキリしますが、本作では【戦場にいることで精神状態に悪影響が及ぶ】ことを踏まえて描写がなされています。杉元は、出征するまでは気のいい青年だったのでしょうが……。

 そんな杉元を前に、心が傷付けられた岩息は逃げてゆきます。今シーズンから音楽にロシア調の曲が取り入れられました。興味深いものがありますね。

 杉元が暴れ、皆が酒場から逃げる。杉元を放置し、囚人を追いかけることになる三人。岩息は、樺太にまで追っ手が来て逃げられないと森の中にいます。そしてクズリに襲撃される!

バーニャ!

 ここで鯉登が月島に銃を持っているのかと確認します。月島は持っているように見えるのかと返す。また鯉登の奇行が始まった。アホなのではなくて、彼なりに最善の策を考えていて、確認しているのです。

 そんな鯉登は放置し、月島と谷垣がクズリをひっぺがす。そして岩息と三人の男たちは、小さな小屋に入り込みます。暑いその小屋は、ロシア式蒸し風呂・バーニャだ! でも外にはどうする?
 バーニャ!

 というわけで、とりあえず全裸になりました。
 本作は、重要な男性人物はやはり全裸になる。おめでとう、月島と鯉登、おめでとう! これで重要人物に仲間入りだ、おめでとう、本当におめでとう!
 まあ、全裸になろうと死ぬときは死ぬけど……。

 チカパシとエノノカは、泥酔し寝てしまったロシア人から犬を取り戻すべく、考えています。

 バーニャでは、クズリが小屋の扉を引っ掻くし。岩息は蒸気を発生させるし。白樺を束ねたヴェニクで殴り始めるし。なかなか大変なことになっております。我慢大会になってる。

 一方で、チカパシとエノノカは、知恵を尽くしておしゃべりロシア人を見事に気絶させることに成功しました。

 大人の方が不合理な行動をしてる……。そりゃ月島が自問自答する。そんな中でも、鯉登はこの流れも杉元の妙案なのかと聞いてくる。月島としては疲れ果てるとは思いますが、鯉登は何も考えていないわけでない。むしろ逆だとは言っておきたい。
 彼なりに一生懸命頭をぐるぐる回して、妙案だと思いたいのでしょう。

谷垣、魂の性教育

 チカパシとエノノカは、犬を奪還して犬橇で移動中。すると、バーサーカー杉元ニシパに出くわしてしまいます。クズリも出てきて、チカパシが犬橇から落ちてしまう。なんとか谷垣の銃を持ち、応戦しようとするも、慣れないからできない。そこで杉元とクズリの戦いに。小林親弘さんも、大変だと思います。

 すると、ここで谷垣がチカパシの背後に来て、銃を撃つように促してくる。そして倒し、これがボッキかと聞いてきて、谷垣が全力肯定をする。またそういう下ネタを……と思わせつつ、割と今時の性教育として優秀だとは思う。
 エロいパンチラとか。そういうもんと結びつけるよりも、高揚感や目的達成感と結びつけた方が、ある意味健康的でしょう。

杉元のサバイバーズギルトとPTSD

 ここで岩息、杉元と蹴りをつけたいと言い出し、殴り合いに。暴力で自己表現をするだけに、岩息は杉元の拳に秘められた怒りを察知しています。ここで鯉登が「助太刀すべきか」と言い出す。こいつは本当に語彙力豊富だな。読書家ではあると思う。
 杉元の怒りは、自分へのものでした。

 梅ちゃん。寅次。アニメ版では影が薄い梅子が出てきました。そしてアシリパ。
「俺は役立たず!」
「許してやりなさい、がんばってるじゃないですか、そんなにボロボロになるまで!」
 こうして殴り合っている場所が、実は氷の上でした。バーニャにしろサウナにしろ、熱くなった体を冷やすため、水辺に作ることが多いと。そのくらい察知しとけと言いたいけれども、暗いので気づかなかったのでしょう。

 鯉登を月島が引き上げる中、他の人はなんとか這い上がっています。こういう氷上からの水中転落は危険です。つかまった氷が割れることを繰り返し、致命的な結果となることもあります。ワカサギ釣り等、くれぐれも注意しましょう!

 チカパシとエノノカがクズリ討伐を微笑ましく確認する中、またバーニャへ。鯉登はまだ妙案を気にして、杉元に聞いている。しつこい。

 杉元は岩息の皮剥はしたくない、映すという。月島は大陸に行け、西でスチェンカをやれと言います。とはいえ、岩息が生きている限り他の集団が見つける可能性がある。鶴見なら、殺せと言うのが妥当ではある。実際、鯉登は殺す気だった。月島に心情変化があるようですが。

アシリパもここにいた

 岩息はここで、アシリパの話をします。アイヌの女の子を見た。連れの男が白石だから、覚えていると言います。酒場でアシリパは、杉元の話をしていたと。白石に、アシリパは不死身だから生きていると語っていたそうです。

 はい、そのころアシリパ一行は――トドを倒していました。
 なんでも頭蓋骨は硬いので、狙っても案外死なないとか。そう学ぶ尾形。このあたりで、彼ならば杉元生存をなんとなく感じていそうではある。
 脂身を食べてテカテカするアシリパは元気そう。でも、彼らは岩息を追ったものの、刺青人皮は確保していないと。

最後に残ったものがいくら奇妙であろうと

 樺太編は、じわじわと毎回、かなり癖の強い鯉登の思考回路を出しているので把握しておくとよいかと思います。後半、こいつがかなりぶっとんだことをやらかすかも。その予習に!

◆無駄に細かいスケジュールをいちいち立てるのは?
 鯉登はスケジュールを立てるのが好き。予定をきっちり立てないと不安感が募るので。
 鯉登は、鶴見から樺太に行けと命じられれてキエキエしていたわけですが。あれは「鶴見と離れたくない!」というのが理由のようで、それだけでもないのでしょう。ずっと鶴見の側にいるという彼なりのプランが崩れ、パニックに陥ったこともあるとみた。
 今ならスマホのTodoリストアプリが便利だね!

◆殺傷に心理的なひっかかりがない
 拷問をするからと軍刀を抜きかかる鯉登。彼は残虐行為への心理的抵抗があまりありません。鈴川殺すし。尾形を殺しにいくし。鈴川の皮を剥いで身につけちゃうし。お銀斬首するし。
 これは軍人の少尉典型キャラクター造型とは、結構違う。

 典型的な少尉は、金持ちの子弟で官位を買ったか(ナポレオン戦争あたりまで)。あるいは士官学校卒か。ボンボンで経験がなく、むしろ殺傷を怖がって怯えるような像が主流なのです。
 けれども、鯉登はそこに心理的障壁がないようです。彼は、少尉は少尉でもかなり変わっていることは重要です。若く心理的障壁があり、殺傷がどうしたってできない人物も出てきます。そのとき、比較してみましょう。

◆バーニャで服を脱いでいるのに、どうして月島に銃を持っていると聞くのか?
 何かが壊れて、AIチャットサポートに接続すると、わかりきったことを聞いてくるじゃないですか。
「フリーズしてなんか全然反応しないんだけど」
「電源は入っておりますか?」
 人間相手だと「フリーズって時点で電源ONだろ!」と突っ込みたくなりませんか? けれども、なまじAIだと全部の選択肢を確認して問題解決に向かっていくことになる。鯉登の考えでは、クズリ対処は銃が最善ということになる。最善の解決法から、確認しているのです。自分の脳内でやればまだしも、いちいち月島をつかってやるので、アホに見えると。

 月島からすれば迷惑極まりない話ですが、解決手段を求めるというよりも、相手を反射板にして自分の考えをまとめているようなところがある。鯉登はそういう癖のある性格ですので。

 これは誰からの同意も期待しないうえでいいますが、鯉登型思考回路のわかりやすい持ち主として、シャーロック・ホームズをあげておきます。特にBBC版『SHERLOCK』がわかりやすく表現されております。
「ありとあらゆる不可能という要素を消してゆき、最後に残ったものがいくら奇妙であろうと、それが真実となりうる」
 彼なりに頭の中では可能性の選別をしている。いちいちそれを月島に聞くからめんどくさいだけであり……鯉登のこの無駄な思考回路は、今後まっとうな形でも出てくることでしょう。

 鯉登に関しては「普通はこうしない」という判断は危険です。その「普通」が、他の人とは違うのでしょう。彼はとんでもないところへ、勝手に到達するのです。

戦争後遺症のある世界

 杉元は、戦争後遺症がある人物像だとわかります。彼一人でもなく、彼の世代はそういうもの。それ以外も……

土方世代:幕末の暴力および戊辰戦争
門倉世代:戊辰戦争ジュニア世代、西南戦争
月島世代:日清戦争(月島の場合は職業軍人なので、日露戦争も経験)
杉元世代:日露戦争

 近代日本は、従軍経験者が常にいる社会を形成していました。これはなかなか重要な点です。
 太平洋戦争世代が社会を構成していた時代からは、今は遠ざかりました。じゃあ今、国のトップはどういう世代かというと、【太平洋戦争世代の子世代がトップ】の時代です。

 人間というのは、なかなか興味深い性質がある。
 親世代のものや価値観には反発し、祖父母世代のものや価値観に価値を見出すということ。
 【太平洋戦争世代の子世代】は、親が語る戦争体験や、我が子を戦争に送らないようにする気遣いが「ダサい」ものとして映る。かえって戦争にイケイケであった祖父母世代が「イケてる」。

 けれども、『ゴールデンカムイ』なり、『鬼滅の刃』は、【太平洋戦争世代の孫世代】の価値観を感じます。戦争体験や心の傷、心理的な苦しみをむしろ受け止め、創作に取り入れる姿勢を感じます。

 『るろうに剣心』や『蒼天航路』について考えていて、そして『ゴールデンカムイ』と『鬼滅の刃』を読んでいて、そういう世代の流れを感じたのです。野田先生にせよ、ワニ先生にせよ、人間の心理を踏まえたうえで創作に生かしていると。

 コロナが加速したとはいえ、こういう流れは既に訪れていたこと。今後、私たちの前にあらわれる娯楽がどうなるのか、注視してゆきましょう。

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