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【ドラマ】『獄門島』(NHK、2016年)
特に金田一シリーズに思い入れがあるわけでもなく、2021年の再放送が初見です。
さんざん感想があるドラマなので、この作品独自要素でも。
ハセヒロとマリマン……どういうマリアージュだ
このドラマは色々とわけのわからん要素がぶち込まれているとは思います。もうそれは横溝正史関係ないのでは? そう突っ込まれそうなのが、随所で流れるマリリン・マンソンの”KIlling Strangers”。これこそ本作の象徴ではないかと思いました。
この曲の歌詞を解説するサイトもみました。しかし、マンソンとは実は実に複雑なミュージシャンでして。この曲だけではなかなか読み取れないものがあります。
結論からいえば、これは戦争の狂気をテーマにしている。
Killing Strangers…知らない人を殺す。デカい銃を持たされて、面識もろくにない奴らを殺しに行く。戦争っていったい、なんなんだ? そういう歌詞です。
マンソンことブライアン・ワーナーの父は、ベトナム戦争でエージェント・オレンジを散布しました。そのせいでベトナム人のみならず、米兵にまで被害がでた。ブライアン少年はそんなことをしてしまった父に、複雑な気持ちを抱いていました。そんな気持ちは成長とともに、アメリカ政府そのものへの強い嫌悪感と不信につながります。
マンソンは奇天烈な格好、ドラッグをキメまくるロックスターらしい堕落、素行の悪さがともかく注目を集めます。けれども思想信条は、ウルトラ左ですね。マイケル・ムーアあたりとウマがあう。同世代のレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンほど真っ当でないためか、ゲテモノ扱いされますけどね。思想的にはそっち。案の定、“Say 10”のショートバージョンビデオではトランプ(の、人形)をぶっ殺してましたよ。ロングバージョンではジョニー・デップとかけあい。女性への言動ではいただけないマンソンとジョニデ。でもジョニデも『MINAMATA』主演だもんね。意識が高いのだ。よし、ハセヒロさんもジョニデをめざそう!
この島では、みな、くるっているのだ
ドラマに話を戻します。そんなマンソンの”Killing Strangers”を背景にして、本作の金田一はくるったような言動をする。このマリアージュで、何がこの金田一をこうしたのかは見えてくる。
戦争です。
金田一はそういえば復員兵だった……この作品では復員直後だ。そう改めて思い知らされると。そもそもが金田一の戦友が生きていれば、この殺人もない。若者の戦死が、さらなる死を巻き起こす。
戦争だよ、このドラマには戦争があるんだよ! 国家から銃を持たされ、見知らぬ人をぶっ殺せと命じられた。そのせいで金田一のような青年は精神がぶっ壊れ、兵士を待つ家族も精神がぶっ壊れる。そんな地獄ループにつっこんだと。
「きちがいじゃが仕方ない」
このセリフを相当粘って残したという本作。なぜ削らなかったか? それは本作のテーマそのものだから。本作は金田一以下、程度の差はあれほぼ全員が狂っていると思えます。それって獄門島だけのことかな? 実は日本列島そのものがそうだったんじゃないかな?
自分の親や祖父母世代が全員くるっていたなんてこと……認めたくなくて、日本人は歴史修正までして、ごまかしていたけど。それももう、限界じゃないかな?
そういう狂気の島そのものを描くことが本作のアプローチで、それゆえこうなったのではないかと思えます。この時代のミステリはそういうものだけれども、冷静に考えるとトリックも無理があるし、真犯人もすぐに目星がつくといえばそう。原作発表当時の楽しみ方とは異なる。
戦争直後は島、日本列島全体がくるっていた。そう2016年に再定義してみせたのが、本作じゃないかと思う次第でして。
戦争と国家の欺瞞、そして狂気
戦争と国家の欺瞞、狂気を問いかける。そんなマリリン・マンソンの曲が、この箱を開く鍵。そして長谷川博己さん。彼はあの年代の中でも戦争を身近に感じていて、勉強なさっている方。そういう聡明で勉強熱心な役者だからこそ、厄介な鍵を受け止め、困惑どころかいきいきと復員兵の狂気を見せてしまったと。
ほんとうにこの人は、すごい役者です。『麒麟がくる』のとき、玉を彫って作って、天が息を吹き込んだような人だと思った。声もまるで楽器を奏でるよう。強く弾けば強烈に、やさしく奏でたら甘ったるく。こういう役者が出るならば、作り手もそりゃ本気を出すことでしょう。このドラマではずっとそれこそ、マリリン・マンソンらしい、うなるようなエレキギターとどん底にいるベースのような、そんなパフォーマンスでしたね。
いつまでもずっと見ていたい。そんな素晴らしい演技が、またしてもそこにありました。
こういう人の形をした宝玉を、『まんぷく』はどうしてああ無惨にしたのか……まあいいや、この話はもういいです。
ドラマにも予兆はある
それにしても、最近こういういいドラマが出てくることに、何らかの予兆を感じないでもない。
たとえばNHKリメイク版『柳生一族の陰謀』。これは戦中派の武士道や祖国へのアンビバレントな感情と、不信感が詰まっている傑作です。そもそも権力者なんて陰謀をやらかす! 民衆をゴミのように扱う! 嘘つきだ! そういうドロドロした情念を汲み取れないとうまくいかない。平成前半あたりのリメイクはどうにもそこが弱かった。それがどういうわけか令和版はうまかったのよね……『十三人の刺客』は平成版もよかったけれど、令和版もこれまたよい出来。
こういう不信感が根底にあるドラマでヒットを当てるNHKをみていると、色々あるのだろうと思ってしまいますね。
長谷川博己さんとマンソンで金田一。また見られたらよいけれども、繰り返したらよいというものでもなし。ただ、こういうとんがった精神性は失わずにドラマを作っていただければ。それぞ受信料の使い道だと思う次第です。
ちなみに私は『ゴールデンカムイ』実写版があるなら、鶴見は長谷川博己さん一択じゃないかと思いますよ。あの声、あのセリフ回しで、教会でソフィアを追い詰める場面なんて最高じゃないですかね。長谷川時代は善人演技が期待できるし。鯉登は染谷将太さんで。
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