『おちょやん』110 お母ちゃんがいてよかった
夫・一平との間に、血のつながった子ができなかった千代。一平が灯子との間に子が生まれ、離婚しました。そんな千代は栗子と春子と暮らすうちに、血のつながりがあろうがなかろうが、家族になれると確信します。それは1ダースの子を持つ肝っ玉母ちゃんとしての役も、そうなのでしょう。
『お父さんはお人好し』一時間特番放映!
そんな『お父さんはお人好し』の一時間スペシャル直前、やっと盲腸で入院中の長澤が復帰しました。自分の手で渡したいと言う長澤からは脚本家としての誇りを感じます。えらい先生や。
台本を読んだ役者がにっこりしている。読んだ瞬間、これやと納得している。こういうことが大事だという原点回帰があります。本作は女優の一生を描くだけでなく、実は芝居作り、脚本家とは何かということにも迫っていると思います。一平が脚本修行するところ。千之助が書くところ。一平の生々しいライターズブロックと寛治の容赦ないダメ出し。そして長澤の口述筆記。台本を受け取った役者が喜ぶことこそ、芝居を作る基本だと訴えかけてくるようです。
といっても、当郎は正面切って素直に褒めない。こんななら盲腸とらんほうがよかっただのなんだのと茶化す。いやいやいや、あなたたち、ヒヤヒヤしとりましたやん。酒井も冨岡も、桜庭も、もちろん四ノ宮も二度とごめんやと思いますよ。
本作は会話のテンポが大阪らしくて。攻撃的でない、じゃれつくようないじりがあって。大阪の会話とはこういうもんだし、やたらと人をからかったり攻撃したりすることは、本来の大阪の笑いじゃないと言いたいような。そういう気持ちも感じますね。大阪なおみ選手を肌の色でネタにするのは、笑いやないんやで。ただの差別や。
兵を待つ妻の話題で熱くなる
栗子はちゃぶ台に、千代のお母ちゃんとお父ちゃんの写真立てを置き、放送を待っています。テルヲみたいなどうしようもない父親も、死んで写真立てに入れば許せる。死ねば仏はこういうことかとしみじみとするわな。
こうして「1ダースのおかえりなさい」が始まります。岡福にもわちゃわちゃと新喜劇の皆さんが集まってきます。
今回は当時らしい話。乙子に離婚歴あり中年医師からの縁談が舞い込んでくる。しかし、乙子は大陸から戻ってこない夫・為雄がいる。戦災未亡人か、そうでないのか? ここが難しいんですわ。お父ちゃんは「戦災未亡人」と言い切ってしまいますが、死亡通知は来ておりません。
戦争が終わったからと帰国できるとは限りません。中国山西省日本軍残留問題、シベリア抑留……ジャングルの奥地に留まり続けた兵士もいる。残留兵問題は難しい話です。
さあどうするか?
これは当時白熱した話題ですので、岡福では論争が起きてしまいます。兵士であった千兵衛と万歳は「結婚したらあかん、待っとって派」。
一方で香里は「再婚してええやん派」。
これもややこしうてな。日本政府は出征兵士の妻は再婚させない方針をとっておりました。再婚した方が効率的っちゃそうですけど、それだと兵士がかわいそうという気遣いですな。そこで見解が分かれるのは当然っちゃそうですが、あんまり論争が白熱するとラジオが聞こえませんよ。
案の定、みつえが怒っとる。みつえは戦災未亡人として感情移入してしまい、あの悲しみをこらえる顔になってました。何年経っても、夫の戦死を知った痛みがあるとわかる、東野絢香さんの演技がすごい。
戦中派はどうしたってトラウマがあるわけでして。万歳や千兵衛が帰還して、米兵と腕組んで歩いてる女性なんか見ちゃって、「そんなん嘘やん!」と絶望した記憶もあるのでしょう。そういう気持ちも大事だからこそ、ラジオで聞いて盛り上がってしまう。
ここでシズが怒り論争をとめ、助太刀しようとした宗助まで怒鳴りつけ、やっとおさまります。こうして聞いただけで論争になるほど熱い。そういう力があるんやね。
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『週刊おちょやん武者震レビュー』
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…
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