『おちょやん』53 対立の理由

 ロミオとジュリエットか? はたまた伊賀と甲賀か?
 福富楽器店では、菊が我が子の恋にお怒りのご様子です。

『母に捧ぐる記』が『マツトン母さん』

 とはいえ、千代は稽古もせなあかんわけでして。『恋愛指南』なんて軽いコメディのあと、『母に捧ぐる記』を演じると一平は宣言します。母の愛を描く渾身の劇となるはずが、千之助が手直しをしました。
 『マツトン母さん』というタイトルからして、もう。しかも、主役はおばあちゃんになるらしい。それなら演じられる役者がおらへん、元通りでもええんちゃう。そう千代が庇おうとするものの(千代は機転がきく優しい人)、千之助が主役をやるらしい。
 なんか、無茶苦茶嫌な昭和芸能界の闇、ヘドロのようなもんを見せられとる気がする。
 老女を俳優が演じる。『意地悪ばあさん』の実写版は青島幸男さんがタイトルロールでした。老女は愚かでバカにしてええもんとコケにしまくる。老人全体? いや、女性の方が笑いものにされますよね。このドラマの山村千鳥、高城百合子なんかも、昭和のテレビで笑いものにされる枠だと思いました。淡谷のり子さんとか。どんなに才能も実績もあっても、ババアになればボコボコにして笑いをとる。そういう嫌な流れがあったもんです。
 千夜のモデルの浪花千栄子さんかて、「あんなババアのドラマしてどーすんねん!」と、彼女を知っている世代の主に男性向けメディアでは記事出してましたわ。要するに、その世代にはババアは殴って笑うもんちゅうわけです。その苦労とかどうでもええ、ということですね。お母ちゃんの苦労は見たない。そういう闇ですわ。

岡安に太い客がついた! しかし……

 岡安では吉報があります。銀行の偉いさんの岩下さんが大口のお客さんとしてついてくれたのです。久々にパーッとと金を落とす太い客ですな。ところが、この人は少々口が軽いのか。実は福富の元常連で、菊が教えてくれたと漏らしてしまいます。ま、悪い話やし、ええやろ。そう言うものの、どうなることやら。
 千代は千之助の脚本介入を憂い、みつえは恋に悩んでおります。なんでシズと菊は仲が悪いのか? そのことに挑んできましたえ。なんで福助を好きになってしもたんやろ。悩めるみつえちゃんはかわいい。けど、切ない。

 ロミオとジュリエットのような若いもんの恋! こういうゴシップは道頓堀をさーっと駆け巡ってしまうものでして。菊も聞きつけ、福助を叱り飛ばしています。よりにもよってあんな家と! さっさと縁づけようと考え始める菊です。そこへシズがやってきます。
 ははぁ、シズもこれは太い客のことでお礼を言うんかな。これでみつえと福助も……と思うわけやないですか。それがシズは怒る。侮辱されたようなことを言い出す。姐さんにやめとくなはれという。こんなお情けいらんと言う。売り言葉に買い言葉ですし、菊だって岡安の苦しい事情は察知してると。敵に塩を送るような気持ちがつっぱねられて、もう対立しかない。
 シズもみつえも顔も見たくないと言い出します。絶対に福助とは別れるようにも言う。なんちゅうこっちゃ!
 本作はうまいところが、どうしてここまで険悪になっているのか、視聴者に考えさせるところです。それにシズも菊も、憎まれそうな役をよう演じています。
 こうやって視聴者に嫌悪感を前振りで溜め込んでこそ、カタルシスは生まれますわな。

ここから先は

1,129字
2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.com/

2020年度下半期NHK大阪朝の連続テレビ小説『おちょやん』をレビューするで!週刊や!(前身はこちら https://asadrama.c…

よろしければご支援よろしくお願いします。ライターとして、あなたの力が必要です!