ゴールデンカムイ #257 がっかりした顔
コラボをしたばかりのサッポロビール工場で大暴れ! さて、ウエジはどうなる?
父と同じ目を持つ子どもたち
ウエジの回想。なんでも愛犬を父に取り上げられ、殺されたと思いこんだようです。そして庭に愛犬が埋められていると思い、掘り返してしまう。母親から「お父様が聞いたらがっかりしますよ」と言われたウエジ少年は、“犬”と額に刺青をして、父を失望させるのでした。
顔に刺青といえば、江戸時代は犯罪者の証。そりゃ親としては、がっかりする。身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり。そんな規範からも逸脱していますからね。最低の親不孝になると。
そんなウエジは、自分の刺青を上書きしていることを全裸になって見せつけるのです。暗号は解けない、金塊はもう見つからない、そう宣言するものの、金塊を追いかける連中は「プイッ」と顔を背けるのでした。
すると、ウエジはがっかりしてバランスを崩し、煙突から転落、頭部を打ち敢えなく死亡。あっさり退場しました。先週の宇佐美は盛り上がっておいて、今週はこれです。
本作の息子たちは、父と同じ目をしています。父と同じ自分の目を見て、ウエジは死にました。
そんなウエジと違う連中もいる。今週出番がない、または少ないあいつらだ。
それは薩摩閥の子息である尾形です。彼も父の承認欲求を求め、それが得られない結果、家族を殺すまでにに至りました。
尾形はなまじ人気あるから、こういうこと言いたくないんですけど。こんなに家族殺しているのって、『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー・ボルトンくらいでしょう。承認欲求が強いんだなあ。
もう一人、鯉登。彼は兄のようになれないことに劣等感があったものの、自分らしく生きるためにレリゴーしました。
鶴見に認められたくてキエキエしていたはずが、今やすっかり月島とメンコパチパチしている。目的のためなら自分のことも、父親のこともどうでもいいと言い切っちゃう。こいつはなんなんだよ!
そして、革命の宿命を背負った父を持つアシリパ。
アシリパは父の願いに目を背けるのか、それとも? 父の思いがのしかかっているウエジが出てきたことで、アシリパの運命も、強く輝き始めました。
どうする杉元ぉ!
スルースキルが大事です
それにしても、スルーね。理解はできる。かまわれるとヒートアップするウエジタイプは、スルーが一番効くんでしょうね。勉強になるなあ! 学んだ!
個人的な話で恐縮ですが、『鬼滅の刃』において冨岡義勇が「喋るのが嫌いなので話しかけるな」と言っていて、ものすごくわかりみを感じてしまった。そうそう、なんというか……オフラインオンライン問わず、話が通じなさそうな気がして会話そのものを成立させたくない気持ちはある。でも、それをやるとえらい嫌われるらしい(知ってるけど)。そんなことを最近、森羅万象から悟りつつある。スルーすると相手がこのウエジみたいな気持ちになりかねないのか。これはまたひとつ、学びましたね。でも、話し合ってお互い不幸になるのならば、はなから話し合わないのもひとつの手では?
24枚、全部集める必要はない
そしてウエジの死は、ある重要な点を読者に明かしました。
・全部集める必要なない
・何枚あれば解けるのかわからないからには、なるべく多く集める
・集めれば集めるほど、敵勢力解読も妨害できる
これはなんとなく、わかっていたことかもしれない。というのも……。
・アニメ版では、刺青人皮入手の話をかなりカットしている。
・全部集めないと解読できないのであれば、24人のうち誰かが遺体損壊しつつ死ぬなり、行方不明になったら困ることになる。ただでさえ、彫った相手は凶悪な囚人だ。
全部集める必要は確かにないと思いました。ウエジのように、全勢力が入手できずに条件が等しくなるのであれば、それはこうなるだろうとは思います。
最後の一枚は門倉
そして最後の一枚は、門倉だと判明しました。
門倉か……妙な奴だとは思っていました。そこまで出番も存在感もないようで、単行本18巻表紙でもある。
彼のルーツは、会津藩か仙台藩の子孫だと推察したこともあります。となると、北海道開拓史ではかなり重要な人物です。
ゴールデンカムイ18巻~門倉は会津藩士か仙台藩士か?ルーツを徹底考察! https://bushoojapan.com/jphistory/kingendai/2019/06/19/126552
会津藩といえば、幕末史の敗者として代表格だ。
仙台藩は、なまじ大藩なだけに屯田兵を多数輩出しており、北海道開拓史では大きな意味を持っている。なにせ、地名として名を残した伊達市もあるくらいです。伊達市のルーツは、政宗ではなく伊達成実なんですよ。
伊達成実はなぜ政宗の元を離れ戻ってきたか?一門の貴公子79年の生涯まとめ https://bushoojapan.com/bushoo/date/2020/03/20/118003
幕末のお姫様8名 それぞれの意外な行く末~鹿鳴館の華、籠城戦の指揮……etc https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/03/01/121200
そういう門倉をどういうカードとして切るのか? ああいう性格だし、命懸けで何かするわけでもないし。そう思っていたところなのです。
『ゴールデンカムイ』は、幕末からの北海道開拓を背景に持ちながら、初期屯田兵の象徴的人物がちょっと弱いとは思っておりまして。杉元チームも、囚人も、第七師団も、ちがう。
この初期屯田兵を悪く言うつもりはないと前おきしますが。これまた、アメリカにおけるWASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)と似た構図はあるんですよね。
自分たちこそ元祖開拓者!
本州から見れば敗者でも、新天地ではルーツ、根幹だ!
その誇りを否定するわけでもないのですが、その誇りに踏まれる先住民の立場はどうなのか? ランクが劣るとされる後発ルーツの道民は? 実際にそういう話は聞いている。屯田兵でも、出身藩によっていろいろあったとかなんとか……。
屯田兵でもそうならば、他はどうなるのか? 災害や困窮によって移住してきた屯田兵以外の世代。第二次世界大戦時、空襲を避けて移住してきた人々。2019年朝の連続テレビ小説『なつぞら』では、戦災を避けて移住してきた山田家が、農作業に不適切な土地に暮らすことになって困窮しておりました。政策もあるから、道民だけの責任ではないものの。そういう、おおらかだけでもない何かが北海道にはある。同じ道民だし仲良くすればいいべさ! そういう単純なものでもないと思うのです。
北海道民は、なまらあたたかい人というイメージはある。それを否定しないけれども、道民以外が思っているほどあっけらかんとしているかどうか。そこは知りたい。道民の野田先生が、そこを描かないとも思えない。門倉が輝けば輝くほど、北海道開拓史や、この物語の終局が見えてくるようで、興味深いところではあります。
そしてこういう、歴史ものに砂を噛むような苦さを入れてくることこそ、これからの最先端だとは思っておりまして。NHKで放映している『アンという名の少女』でも、カナダ人がルーツや出身階層でランク付けするいやらしさが描かれているのです。そこを見逃して美化だけしていたら、おもしろくないっしょ。
あ、そういえばビール洪水で溺れた奴らはどこで何をしているんでしょうね。
そうそう、11月19日には『ゴールデンカムイ 探究者たちの記録』が発売されます。楽しみですね。