森博嗣、スカイ・クロラシリーズ考察(8)周囲の認識
クサナギ(カンナミ)を取り巻く周囲の人々は、クサナギの中にカンナミという別人格が芽生えたことに対し、どのように認識しどのように対応していたのだろうか。
僕は『クレィドゥ・ザ・スカイ』のエピローグの時点でカンナミの人格が確立したと考えている。そのため『スカイ・クロラ』では、クサナギとカンナミ二人の人格が、クサナギという身体的には一人の人間に存在していたことになる。
ここでは『スカイ・クロラ』の中で、各登場人物がクサナギ(カンナミ)をどう認識していたか検証する。根拠となる部分を本文から引用したが、拾い出してみると予想以上に根拠となる会話やシチュエーションが多いことに気づいた。すべてを羅列するとキリがないので、引用は少しだけに留めた。
この僕の仮設をベースに再読していただけると、本文に散りばめられた“証拠”がたくさん見つかると思う。
<軍の上層部(カイなど)>
クサナギの中に全く別のカンナミ人格が生まれたことを認識し、別の個人として対応している。
=根拠=
(クサナギを自分とは別の人間だと認識している)男性であるカンナミに配慮し、トキノと同室にした。
<ササクラ&トキノ>
クサナギが二重人格であることを事前に知らされており、使い分けて対応している。お抱え整備士と同室のパイロットという立場から、事前に通達があったと推測。
=根拠=
格納庫で初めてカンナミがササクラに会う場面。(かっこ内)は僕の推測。
「やあ、おはよう」彼はゴーグルを持ちあげながら、にっこりと笑った。まだ若そうだ。(→クサナギだと思ったため、気軽に笑顔で話しかけた)
「徹夜で作業ですか?」僕は尋ねる。(→ここで敬語を使われたため、ササクラはクサナギではないことに気づく)
「見かけない顔だけど」(→クサナギの別人格についての通知を思い出し、確かめる意味も含めてこう言ってみた)
「昨日配属になったばかりです」
「ああ、じゃあ、これはあんたを乗せるやつだ」(→今話しているのは別人格だとわかった。元々クサナギの機体だが、カンナミも同じ機体を使用するためこのように言った)
トキノが初めてカンナミに会う場面。
「クサナギさんに起こされたんだね」(→カンナミのセリフ)
「あぁ、彼女だったか」土岐野は欠伸をしながら頷く。「誰なのか認識する暇もなかった。ところで……、あんた、誰?」(→クサナギ自身が“クサナギさん”と言ったことで、カンナミ人格についての事前通知を思い出す)
「同室になったカンナミ」
「あぁ……」土岐野は少しだけ目を開けて、僕の全身を見た。(→外見はクサナギであることを確認している)
<基地の中の人々(ミツヤたち)>
クサナギ二重人格説は噂で聞いた程度。そのためクサナギとカンナミの発言に少し戸惑うこともあるが、割とすぐに状況を理解し対応している。
=根拠=
カンナミとユダガワの会話。
「ここにきて三年だ。オタク、えっと……、何ていった?」
「カンナミです」
「カンナミ君ね」湯田川は頷く。胸のポケットに片手を突っ込み、煙草とライタを取り出した。「あぁそうか、あんたか。噂を聞いたことがあるよ」
「ここ、パイロットは何人いるのですか?」僕はその話には乗りたくなかったので、別の質問をする。
「常時いるのは、このところ四人」
「僕を入れて?」
「そう……」(→カンナミを“一人“としてカウントするか若干の葛藤が見られる)
<フーコ>
トキノから話を聞き、カンナミの存在を知った。カンナミの存在に違和感を持ちつつも、それなりに対応している。
=根拠=
クサナギはフーコと逃走途中で捕まり軍の病院へ入った(クレィドゥ・ザ・スカイ)。フーコはその後クサナギがどうなったか知らされていなかったと推測。そのため、クサナギがカンナミとしてトキノと一緒に現れたとき、フーコはクサナギを睨みつけている。
<ミズキ>
クサナギが二重人格であることを知らされており、使い分けて対応している。事前にカイから説明があったと推測。
=根拠=
ミズキがカンナミとトキノの部屋を訪ねてきたときの会話。
「こんにちは、お名前は?」
少女が僕に聞いた。
引用:森博嗣(2004年)『スカイ・クロラ』中央公論新社
以上である。キルドレ同士だと、この別人格を持つクサナギにも割と簡単に順応できると思う。それは先述したキルドレの性質があるからだ。
一番違和感を拭いきれなかったのは、フーコだと思う。一緒に逃亡劇を繰り広げ、やっと無事な姿を確認できたと思ったら、それはもうかつての友であるクサナギではなくなっていたのだから。