欧州放浪記_1日目

会社を辞めて2週間。念願叶い長期休みをとれた僕はロンドンに向かった。
ロンドンに向かうこと、1か月後に東京に帰ること、一人旅をすること以外は何も決めず、ただただロンドンへ向かった。
インドへ3か月留学した経験がこの無計画な旅の後押したをしたことは間違いない。日本より生活水準が大きく落ち、空気も悪く、言葉も通じない。その土地で3か月過ごせたのだから、先進国ですごす1か月は容易い。そう思う考えが僕をロンドンへ向かわせた。

中国東方航空を使って成田からロンドンまで12時間のフライト。
長期フライトには大きな不安があったが、何とかたどりつく。
東京で仕事をして趣味で人前に出て、そのように何か自分がアクションを起こさないことには達成感や生きている実感を得ずらい生活をしていると、
何もせず飛行機で飲み食いしているだけで達成感を得られるこの時間はある意味ボーナスタイムといってもよい。お得感満載であると機内で感じる。
飯はまずいが、その分食べる量を減らせて継続中のダイエットには最適な環境だなと思いながら、ほとんどの料理を残す。
僕はエコノミークラスだが、飛行機に乗っているときの恐怖感や上下動の不気味さはファーストでもエコノミーでも変わらないので、ファーストに何の価値も感じない。そんな発見をする。

ロンドンに到着。憧れていた土地にたどり着いた興奮から、街を小走りで練り歩く。そして、カフェで一服。このまま、ゆっくりと1か月過ごすぞと思った矢先に、強烈な不安と孤独が襲う。
それもそのはず。見知らぬ土地で一人、何も予定がない状態を平穏に過ごせるほど穏やかな人間でない。最近の忙しさのせいで忘れていたが、僕はマグロのように泳いでいないと死ぬ人間の一人である。だから、趣味も色々やるし、人と会う予定をすぐに入れてしますのだ。旅の不安と孤独とそれによる自分らしさを痛感した瞬間であった。
すぐに東京と同じようにサウナに向かうも、水着がないために入りたいサウナ室に入れず、消化不良。不安と孤独を消す術が見当たらず、慌てた僕は人としゃべりたくなり、日本人美容室へ急遽向かう。

これが大ヒット。オーダー通りの髪型じゃなくて、おばちゃんが登場し、話相手になってくれる。旅の経緯とこれからの予定を話し、何とか心が落ち着く。ロンドンの母ができた瞬間であった。
そして、気づく。不安と孤独を取り除き、旅の満足感を味わえるもの、それは人との交流であると。この瞬間、僕の旅の目的が定まる。
一人旅により生まれる不安と孤独を愛すること、そしてそれらを打ち消し、それによって旅の満足感(=生きている感覚)まで昇華させてくれる体験をたくさんすることが僕の旅のお作法であると。

そう感じた僕はまだ残る孤独感を埋め合わせるべく、meetupのパーティーに参加する。ビールを頼んで、英語でイタリア人と会話するも、心身ともに疲れ切った体が拒否反応を示し、ロンドンの街頭で吐く。
これからの旅の前途を思い悩む。
パーティーで日本語ペラペラなイギリス人と知り合う。
連絡先を交換して、また会う約束をする。

旅の方向性を定めた僕は、宿に向かう。AirBnBのオーナーは恥ずかしがりやとの評判だったので、自分と会うかと思っていた。チェックインで始めた会った彼は、吃音で言葉が出てこず、まともに会話ができない。
その時全身に虫唾が走り、恐怖が体を強直させる。自分は多様性を受け入れ、障碍者を差別しないリベラルな人間であると思ってきたが、いざ、目の前に自分に余裕のない状態で現れた彼に、自分の崇高なリベラル思考は脆く崩された。何とか会話を続け、正常な人であると自分が思い込むことで、正気を取り戻し、部屋に籠る。

長い1日であった。

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