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多動性思考回路

  僕、空間を言葉で満たしたい訳ではないのです。たとえば部屋の隙間、暗がり、ベッドの下、街頭、切り開いた腹部は白色とピンク色が大半を占めていました。金魚の白い腹、あ、昔の記憶でした。頭痛が酷くて、先程飲んだ薬がようやく効きそうです。
  ようするに、ライ麦畑のおじさんに僕の落下を止めてほしかったのです。話をせずとも、ただ二人で夕暮れのライ麦畑を眺めたかった。で、真っさらな冬の折、空から自室へ、天使が落ちまして。美しくて、でもああ、やっぱり市販の頭痛薬は効かないようです。取りつくろうにも、糸も針も持ち合わせていないのでした。ギターの音は、特に部屋で弾くギターの音はあたたかく憂鬱で、やさしい。唯一の救いに思えました。
  当時は高校二年生で、彼が僕に話しかける時、僕は立ち所に現れます。観念的事象である僕の前に彼が、彼の前に僕が現れて、僕たちは秘密を共有するようにたがいの肌に触れました。とても唯物的、体温は存在なのだと、呼吸は存在なのだと思います。けれどああ、あ、やはり頭痛薬が、あるいは睡眠剤が効かなくて、いつのまにか僕は半透明になっていました。そのまま半透明のまま生きて、生きて、余生を終えるのでした、救いも光もなく。あなたの心臓の音を擁しながら。けれども音楽はなり続けていました。
  「雑音は止まって初めて存在に気付く。そうして、本当の静寂はこんなにも静かで音がなく無だっただろうか、とハッと胸を突かれる。俺はずっと……」「 バスボムを入れると、甘酸っぱいカモミールの匂いが浴槽内に広がる。そっと右足を下ろすと、痺れるような痛みが爪先に走った。」「妊婦の腹は相孕みのように、不気味な凹凸を形作っていた。」  余程追い詰められたら続きを書くかもしれない。けれど、それにしたって午前3時だし、やっぱり頭、頭痛、頭が割れそうだ。
 最近熱帯魚が餌の時間を覚えて、水槽の蓋をあけた瞬間に水面に浮上してくる。音楽がなっている。あるいは耳鳴りだろうか。 
   伝言、空に  031022 
  一日中礼服でした。謝罪もします。

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