2024年 わたしの一冊|小説
君が手にするはずだった黄金について
ここ数年でもっとも引き込まれた本かもしれない。
というと少し大げさだけど、印象につよく残った一冊になった。
きっかけは、6月ごろに著者の小川哲氏がゲストに出ていたTokyo FMのラジオ番組だった。番組パーソナリティと対談されていたが、実のところ、何を話していたかはほぼ覚えてない。
ただ、「君が手にするはずだった黄金について」というタイトルを聴いて、ポスターのビジュアルが目に浮かぶぐらいには覚えていたので、読んでみる気持ちになった。
自伝ではないけれど、著者自身の実体験を題材にしたような語り口の連作短編集。自分と著者の年齢が近いこともあり、同じ時代を生きてきた自分の過去を思い出すようなエピソードに引き込まれた。
「承認欲求のなれの果て」
背筋に寒気を感じたことを覚えている。過去の自分の振る舞いが後になって恥ずかしくなる感じ。そう、俗に言う黒歴史。
本作に出てきた人物たちは、もしかしたらなにか歯車が一つ噛み合わなかっただけの世界線にいる自分の姿かもしれない。いまの人生は、自分の中の承認欲求がたまたま違う形であらわれただけの偶然、そう思わせる説得力があった。
承認欲求と自己肯定感 ー 思春期時代までは突出した目立つ個性は疎まれてたのに、大人になりかける頃に急に他人とはちがう個性が求められてきた人たちがいる。
おおざっぱなくくりだけど、現実世界で肌身で感じていたから余計に本作の根底にある文脈に共感を覚えた。
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それ以来、小川 哲という作家にハマっている。ストーリーに散りばめられたどこか哲学的、でも堅苦しくない普遍的な問いに考えを巡らせる心地良さがある。
その後も「嘘と正典」、「君のクイズ」を読んだ。
小説が、身の丈にあった、しっくりくる感じ。サイズがぴったりで芯があるスーツを着たときの気持ちが引き締まるような高揚感がある。この年末年始は(体調不良で寝正月だったので)本を読む楽しさを味わえた。
直木賞作家なのに受賞作を読んでないというのは、あまのじゃくかもしれない。値段も厚さも鈍器サイズなので手に取るには覚悟がいる。
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