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2つの光に照らされるまで

春風彩る空の季節になるとどうしても思い出す出来事がある。桜が散った後だった。

自分の生まれ育った場所は桜の開花が遅くその年も5月を過ぎた時。中学に入学したばかりの2005年5月。

僕は生きる為の2つの光と出会った。


産まれながらの相性の最悪さ

僕を産んだ人は腹を空かせた野良犬みたいに愛に飢えた人だった。自分が受けてこなかった未知の世界が広がっていたんだろう。だから僕への接し方も、育て方もよく分からないまま僕を産み、大きく後悔した。

彼女の「理想の子供」である為に失敗は許されない。完璧に生きなければならない。受けた事柄なんて口を裂けられても他人に言ってはいけない。箸の持ち方1つだって彼女にとって起爆剤になるんだから。

渦中の記憶なんて海の底で、引っ張り出すことすら出来ないのに意識とは裏腹に断片的に思い出されるものは特有の金切り声、向けられた冷たい包丁、「一緒に死のう。」という震えた声。逃げ切った先の謝り続けても出して貰えない暗いトイレの中で僕は

ママの言う良い子ってどうしたらなれるんだろう

どうか起きたら全てが終わっていますように。起きたら良い子になれていますようにと願った

ある日僕が願った形とは違うものが叶った。僕は大きな荷物と共に車に詰め込まれ、見覚えのある家の玄関前に投げられた。走り去る車なんて振り返り見ることもせず、急いで家の中に入り僕は泣き叫んだ。

パパ!!ばあちゃん!!じいちゃん!!

大人に包まれる久しぶりの優しい安心感。大声で泣き叫ぶ突然現れた僕を父は驚きながらもひたすら抱きしめてくれた。テレビに映された番組まではっきりと覚えている。5歳になった誕生日の夜だった。


夜なんて明けなきゃ良いんだ

大人が喜ぶ発言を主食にして僕は生きていた。嘘でもいい。表向きでは僕を可愛がる「イイヒト」を演じながら裏で「母親に捨てられた可哀想な子」と口に出していた大人にはそれが丁度いいと本気で思っていた。

歪んだまま成長し、その歪みが上級生に目をつけられ学校の居場所も掴めなくなってしまった。

朝になる度に調子が崩れる体。呼吸すら上手く出来ずに血の気が引き目の前が暗転しても尚、嘲笑うかの様に支えてくれる大人なんて居なくて、涙も出なかった。

運が悪く上級生達と帰り道が被ってしまい家まで走って逃げたある日。荒々しく玄関を閉めてリビングのテーブルに座り込み自分の体を殴りつけ崩れ落ちた時壊れたゼンマイ玩具みたいに

「母親にすら愛されなかった

自分が誰かに愛される訳がないだろう。」

耳元で何度も声がした。

そうだ、あの高い建物から1歩足を出せば全て終わる。僕は、やっと、楽になれる。完璧に物事を進めてきた僕なら、出来る。

沸いていた血が気持ち悪い位に静かになり、落ち着いてテレビを着けた時だった

雨上がりの道は 泥濘むけれど

今ここに 生きている証を刻むよ


当時まだ名前だけしか知らなかった。正直、苦手なタイプだった。アーティストのMVが流れていた。


いつかこの涙も 寂寞の想いも

忘れ去られそうな 時代の傷跡も

燦然と輝く あけもどろの中に

風が運んで 星に変わる


一瞬の出来事だったのにあまりにも綺麗で自分を含め全ての時が止まった。

でも

汚い僕の肺は、あまりにも綺麗なお2人の空気を吸うことが出来ず苦しかった。ただ呆然と咽び泣くことしか出来ることがなかったんだ。


潤んだ世界を拭ってくれる指先を待っている

あの曲のタイトルは”ここにしか咲かない花”というらしい。あのお2人は”コブクロ”というアーティスト。

確実に気になる存在であったものの、あまりにも綺麗な声と詩とメロディに裏を探ってしまっていた。

身を預けたらどうなる?

また怪我をしたら次はどうケアしたら良い?

お2人は変わらずに笑顔で安全な道を指してくれていたと言うのに、お2人の手元すらきちんと見えておらず増してや暗がりで前後左右も分からない僕は焦って電池がないことにも気づけず懐中電灯のスイッチを切ったり入れたり繰り返していた。何も見えていないのにお2人へ闇雲に動くなんて出来るわけがない

こんな自分が

傍に行くことなんてあまりにも世界が違いすぎる

煌びやかなパーティに呼ばれたのに、自分はジーンズとパーカーで行ってしまったかのような恥ずかしさ。息を殺して存在を消す毎日。そんな中リリースされた2作。

何も話さないで 言葉にならないはずさ

流した涙は 雨となり 僕の心の傷いやす

/桜


あきれる程 真っ直ぐに走り抜けた季節を

探してまだ 僕は 生きてる

間違いだらけの あの日々に

落とした涙と 答えを

/君という名の翼


僕はまたお2人の曲に触れて呆然と、泣いた。

こんなにも寄り添ってくれる大人がいるか?

知らないまま生きるのはあまりにも勿体なくないか?

また怪我をしたとしても

このお2人になら僕は許せる気がする。

もしそうなったとしても

改めてこの世界に諦めがつくだけで何も変わらない

それでも

お2人のいらっしゃる優しい場所に行きたくて、希望を持ってしまった。


そこにある光に気付くだろう

上級生達は内申点を気にし始めてか僕で遊ぶことをしなくなった。入学して2年。やっと訪れた静けさだった。

1年後の受験に向けて周りが動き出す中、今現在すらままならない自分は未来を思い描ける同級生に嫉妬していた。なりたいものなんてない。生きていることすら苦痛なのにこれから何十年も命を燃やさなきゃならないなんて絶望でしかなかった。それでも周囲に合わせ、友達と同じ塾に通いそれなりに勉強をしていた。周囲を安心させるために。

その時ALL SINGLES BESTが発売されることを知った。僕は父親にねだりALL SINGLES BESTを手に入れた。すぐさまウォークマンに入れ、1曲目から塾で聴き始めた。

ここにしか咲かない花を知ってから1年以上経過していたにも関わらずお2人は変わらずに笑顔で安全な道を指してくれていた。コブクロの前でだけ素直に泣ける自分が居た。

そこを居場所にしても良いですか。

僕は、あなた方を信じて歩いても良いですか?

お2人は優しい場所を指し続けて僕を待ってくれていたのに、勇気を出せずに随分と時間がかかってしまった。

未だに暗がりを歩いてしまう僕を月明かりのように優しく照らして道案内をして軌道修正して下さるお2人に出会ったのは人生一の誇り。もし1番初めのここにしか咲かない花に触れ、そのまま飲み込んでいたとしても僕はきっとパワーにするまでの余裕は無く大切に出来なかったのだろう。

あの優しかった場所は今でも

変わらずに 僕を待ってくれていますか

ふいに込み上げる 寂寞の想いに

潤んだ世界を拭ってくれる


ここまで読んで下さりありがとうございました。

コブクロのお2人の息吹を聴くためにあるこの命。厚かましい夢だけどいつか恩返しが出来たら、と今はお2人のお陰で整った呼吸をし続けています。

事実のお話を交えて描いているため、不快に思われた方もいらっしゃるかもしれません。そう思いながらも交えた訳は

1度生きるのを諦めた人間をも生き返らさせる力がコブクロにあることを伝えたかったからです。

その為には根っこの部分をさらけ出さないと説得力がない。ただ、それだけです。

#コブクロ #小渕さん #黒田さん

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