ライフサイクル
アナログ作家の創作・読書ノート おおくぼ系
新作の構想や読書などで新年をむかえております。
時代の風というのが吹き出し、世の中が大きくゆれて、変化していく分岐点に来ている気がしております。大局的にいえば、アナログからデジタル時代への転換かと。
NOTEでの一年間の連載小説〈はるかなるミンダナオ・ダバオの風〉を書き終えて(まだ習作の段階であるのだが)、ホッと、ひと息、空いた時間で好きな本が読めると、棚の中をあせくっていたら、半世紀も前の〈五木寛之〉を手にとっていた。
氏は、高度成長期時代のベストセラー作家で、当時〈現代の語り部〉と形容され、当人も自身を中間小説家ではなくて読み物作者だという。
先ず読み返したのは、『狼のブルース』という長編小説である。
ひとことでいえば、社会派ミステリーであり、戦後の復興から安定への急激な変化における揺籃期の物語であり、背景は、巨大な国営テレビ放送にからむ、年末の歌合戦を混乱におとしめるという、とんでも作品。スケールも大きい。
この『狼のブルース』は、何故か、文庫本と全集の二冊を持っており、どちらも味があるので手離しがたい。文庫本の方は解説を気鋭の評論家であった〈平岡正明〉が書いていて、これが名文でよくまとまっている。
平岡は、大藪春彦と五木寛之を対比させ、五木は、日本におけるハードボイルドの正統派につながる作家であり、二人とも私小説作家であるとする。その〈私〉については〈植民地体験、植民地の崩壊、引き上げ体験、闇市時代の少年期、学生運動と貧乏の青年期、そしてあれやこれやの職種から一つを選んだようなぐあいに作家になった〉と説く。ここでの植民地とは満州である。
かように五木寛之の背景は、われわれ平和な時代に育った者には、想像もつかない過酷なものがあり、自らをデラシネ(根無し草)と称する体験が、色濃くにじみ出ている。いわゆる無国籍な存在で、それは、〈植民地からの帰国民はゴクつぶしと呼ばれ日本農村の恐ろしさを知った〉と述べているごとく、戦後の混乱期は、故郷でも歓迎されずに、かえって邪魔扱いにされたのである。
一方、全集〈3〉の『狼のブルース』は、箱入りの豪華版である。B5判ほどの大きさであり、黒のシックな表紙に背に金の枠と文字、本の天にも金箔がほどこされていて輝いている。戦後経済の復興を象徴するような、しゃれた装丁のこの本を手に取ると、本好きの系どんは、本モードに突入しページを開くときめきとともに、読むことの幸せと、もったいなさで、しばし、時を忘れて本をあれこれながめ、読み始める前の至福の時を過ごすのである。
氏は、エッセイの全集も同時に出しており、小説と表装の造りは同じながら、表紙の色は白、オフホワイトであり。より上品な趣がある。またシリーズ〈2〉の『風に吹かれて』は名エッセイ集との評判が高い。
彼の作品は、時代とそこに生きた人々が、活字と紙空間のなかに閉じ込められた感があり、小説とは、過ぎ行く時代の中に、登場人物の立ち位置と思惑、情熱に失望、少しの希望と利害関係にうごめく人々、それらもろもろのことを描き出し、ある面、生きかたの解説でもあり、主張でもあろうと思う。
さらに作品は現実のエッセンスを抽出したものであり、開いてびっくりの玉手箱とも言えよう。タイムカプセルにも思える。
『狼のブルース』は、まえに読んだ内容は、ほとんど覚えていなかったが、国営放送に立ち向かうミステリーの展開に、歴史は繰り返すではないが、おや、と感じたからである。それは、Youtubeで人気のN党のT氏が思い浮かんだからである。
昨年、T氏にからんで、兵庫県知事選を境にマスコミの報道のあり方等についての議論がさかんになったが、まえにも述べたように、系どんが、小説で追い求めている組織や機構の面白さのモデルになりえるものであり、端的に考えると、既成勢力と新興勢力間での主権争いとみている。
さらに、いろんな点において、いつの時代も新旧の転換点が存在しており、歴史とはそんな流れの連続かと考えている。
会社などの組織や機構も法人と言われるごとく、法律により人格をもち、人としての権利能力、行為能力があるとされる。すなわち、組織も人になぞらえて考えるとわかりやすい。自治体も法人であり、20年をかけて組織としてできあがってきたが、本命候補が敗退するという予定外の変化が起こると、今までの安定関係(政権)がほころびていく。あたかも人の身体に異物が混入して免疫作用が、(作用に対して反作用が)絶対的に働くようなものである。組織論としては、規則にのっとったフォーマルな組織のもとに、人の好みや縁をもとにしたインフォーマルな組織も存在し、いろいろな要素が混在するのが現実である。
さらに、歴史は、ひとつの勢力が発生し成長し、衰退していく、いわば波の形状をなしているとすれば考えやすい。ライフサイクルと言われるものである。
ライフサイクルといえばカッコいいのだが、日本様に言うと栄枯盛衰、盛者必衰ということのようにも思える。
*しばらくは、エッセイでいきます。ヨロピク!