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ノルハムに懐疑的な理由

ノルディックハムストリングスエクササイズ(以下NHE)はハムストリングス肉離れの予防策としてしばし話題になり、取り入れているAT・SCの方々も多いのではないでしょうか。

あくまで個人的な意見ですが、私は肉離れ予防および傷害復帰プログラムにおいてNHEを実施していません

このエクササイズを少し懐疑的に捉えています

今回の記事ではその理由を解説していきたいと思います


■学術的な側面

学術的にはハムストリングスの羽状角や筋ボリューム増加などに関してNHEはポジティブな効果をもたらすという文献はたくさん見られます

羽状角


それ以外にもNHEが集団指導プログラムとしてもハム肉離れ予防に効果的であるというリサーチが複数存在します

そのうちの一つであるこちらの文献↓

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27752982/

多数の研究結果を検討するメタ分析でNHEを用いたプログラムがハム肉離れの傷害率にどのように影響するか調べたもので、他の文献にも多数引用されているものですが
このリサーチの結論として出されている文面からみるとNHEをハム肉離れ予防としてプログラムに組み込むのに十分な内容に感じます
というより普段から傷害予防に従事していれば”組み込みたくなる”内容かと思います

しかしこのリサーチを細かく見れば3242件の検索結果から条件を満たした「5件」のリサーチに関して分析されています。
その5件のうちNHEのみが介入対象であったのは1件のみです
他のレビュー対象となったリサーチはNHE以外もプログラムとして用いられていたことになります
そのうちの一つのリサーチではNHE以外にもプライオメトリックやSQ/DLといったレジスタンストレーニングがプログラムとして処方されているものもありました・・・

つまりは実際にハム肉離れ予防にNHEのみが貢献したとは言いづらいリサーチが多かったということになります

メジャーリーグのチームにおいてNHEの効果を検証したこちらのリサーチでも

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4555601/

"シーズンを通して規定回数NHEに取り組んだ選手はハムストリングス損傷の発症率が低かったが、そのような選手はNHE以外にも負傷を防ぐために必要な行動(他のエクササイズ、十分な睡眠、適切な水分補給など)を選択している可能性が高い"
と綴っており、NHEによる介入=ハム肉離れ予防 と直線的に関連付けさせるのは難しいとしています

■クオリティにおける側面

次に私がNHEに懐疑的な部分としては
「多くのケースでNHE特有の利益を得られるだけのクオリティで実際されていない」
ということです

実施されているケースで多くみられるエラーとして
①伸長位で負荷をかけられていない(先に脱力している)
②過度に骨盤が前傾している
③パートナーと実施する場合、足関節が底屈位になっている

上記の3つがよく見られるエラーでそれぞれに関して解説していきます
その前に一つ見て頂きたい動画を掲載しておきます

(分かりやすく引用させていただきましたが、取り組み自体を否定するものではなく、個人的に関わりのある選手も所属しているのでチーム自体は応援しております)

①伸長位で負荷をかけられていない(先に脱力している)

まずこのNHEを実施する大きなポイントとして伸張性の負荷をかけられることにあると思いますが
それであれば膝90°屈曲位から伸展最終域まで筋出力により動作制御されるべきかと思います
しかし大抵の選手ではその手前で脱力し上体が勢いよく下降していきます
要は一番美味しいところを取りこぼしている可能性があります
もちろん、NHEに限らず計画的かつ漸進的に取り組むことで適応を狙っていくことが重要なのは理解していますが、高いレベルでウェイトトレーニングに励んできた選手でもなかなか高い質でこのエクササイズを行うのに苦労する印象があります。
正直なところ低いクオリティでNHEに取り組み続けるのであれば比較的大きな伸長位で負荷をかけられるRDL/DLに取り組んでもらう方が費用対効果は高いのではないかと感じます

②過度に骨盤が前傾している

このエラーに関してはハムストリングスをアイソレーションして大きな伸張性負荷をかけることにそこまで重要なポイントではないように感じますが、
そもそもハム肉離れ予防として実施していく場合、骨盤の過度な前傾を作ることはそれに反する可能性があるのではないでしょうか。

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0966636217304915

NHEで骨盤前傾することでランニング中にもその姿勢が誘発されるとは言い難いですが、骨盤前傾を抑制したい対象に対してその代償が起きたままエクササイズを実行させていくことは傷害予防的観点から許容しづらいです

③パートナーと実施する場合、足関節が底屈位になっている

NHEの開始姿勢は股関節伸展位で膝関節屈曲位のためハムストリングスは短縮した状態になります
その際に足関節が底屈していると腓腹筋も短縮位となり膝関節屈曲に大きく関与する筋はすべて短縮位となっていることになります
ハムストリングスをアイソレーションして活動させるという点に焦点をあてればこれは有効なことかもしれませんが、強い力を発揮するのには予備緊張がかけられず特定の角度になった瞬間にハムストリングスがピンっとはって張力を急激に発揮することになります

これは肉離れでよく議題に上げられるMuscle Slack(マッスルスラック:筋の弛み)を大きく誘発するものであり大きな力発揮をするにはネガティブな要素になるかと思います

Muscle Slackイメージ

他の種目でいえば、レッグカールを足関節底屈位で行う場合と背屈位で行う場合では出せる出力は違うと思います

まとめるとNHEを足関節底屈位で行うとハムストリングスがたるんだ状態から開始することになり、予備緊張をかけて膝関節屈曲力を出す(膝関節伸展に抵抗する)ことが難しくなり特定の角度になった際に急激に負荷がかかることで①のように早期に脱力してしまうことにつながると思われます

実際に足関節の角度とハムストリングスの機能に焦点をあてた文献を2つ紹介しておきます

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31469769/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35045792/

①~③で述べたエラーは実際NHEに取り組んでいる際に多く見られ、こちらのリサーチでもその”質”に言及されています

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9517005/

■まとめ

伸張性負荷が大きくほぼ単関節運動でアイソレーションされたこのエクササイズを練習・試合強度、疲労モニタリング、別部位のプログラム、フィールドトレーニングプログラムなどとの兼ね合いを考慮しつつ漸進的に適応が起きる強度・負荷設定で長期的に行うことが可能でしょうか?

その辺りを熟考しながら必要か否かを判断してプログラミングする必要があると感じています

最終的な結論としては
「肉離れ予防に良いと言われているから」
という理由で安易に選手にトライさせるには少し抵抗があり、様々なExsや段階を経てリハビリ・トレーニングしていくなかでmust種目であるとは言い難いなと思います

現時点で取り組まれている方や、指導プログラムに組み込まれている方を否定するつもりはありません

ただ「肉離れの特効薬」のようにこのエクササイズを取り扱うことに以前から疑問があり、現時点での私の意見を残しておこうと今回の記事を投稿致しました

少しでも個人や現場での取り組みの参考になれば幸いです

松井宏岳

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