君がおしえてくれた。
お父ちゃんは、
子供がいる人生など、考えたことはなかった。
身軽に生きていくつもりだった。
割と気楽に楽しく過ごしていた。
人生を愉しむのに、そんなにお金が必要では無い
という事実もわかってきた。
山を歩けばゴキゲンになれた。
福岡は素晴らしい街で、海も山も近くて、豊かな街だった。
毎日、山を歩いた。雨の日は傘をさして歩いた。
山の癒やしは無料だった。
ふと周りをみわたせば、素晴らしい自然が身近に存在していた。
それなりにシアワセをかんじていた。
毎日ゴキゲンになれた。
そして、世界のシアワセと、お父ちゃん個人のシアワセは別のものだと思っていた。
それからお父ちゃんとママは店を閉め、世界一周の旅に出たあと、山での生活を始めた。
山の家の家賃は一万円だった。
調理ははカセットコンロで、アラジンのストーブ
一台で暖をとった。
ますますお金は、あまり必要ではない事を体感し始めた。
もっと気楽にゴキゲンに生きていくつもりだった。
ある日ママが言った。
わたし妊娠しました。
お父ちゃんは一瞬固まってしまった。
考えていたライフプランが、あっという間に崩壊した。
このままいけば。数ヶ月後には家族が一人増える事になる。
すぐにママのお腹が大きくなり始めた。
男なんで体感なんて全く無いが、目の前のママの、デカいお腹の中に、どうやら君がいるらしい。
何だかよくわからなかった。
やがて臨月が近づいてきた。
君は、大きなママのお腹のなかで、しゃっくりをしている。
びっくりした。始めて知った。
何だかとても感動した。
それからすぐに君は産まれた。
君には申し訳ないが、可愛いとか、感動したと言うより、目の前に突然、新しい人間が出現したと言う現実だった。
とにかく、その日からお父ちゃんは、ホンモノのお父ちゃんになった。
一週間後にはママと君、が病院から山に帰ってきた。
それから新米お父ちゃんとしての生活が始まった。
おむつを買えたり、お風呂に入れたり。
首が座りそのあたりを這いずり回る。
少しづつご飯も食べるようになった。
何か喋ってるが、意味は解らない。
寝顔は人生で1番の癒やしだった。
仏様のようだった。
何度も旅をした。
海外にも行った。
インドやスリランカを旅したし、ハワイや上海、タイにも行った。
君は何処でもかわいがられた。
インド人は、本当に子供には優しく旅がしやすい。
そのうち君は色々喋るようになった。
毎日、お父ちゃんは君をオンブして、村の中を散歩した。
背中でぶーぶー喋っている。
何を言ってるか解らなかったが、背中がとても
暖かかった。
そのうち保育園に通い始めた。
はじめは入り口でシクシク泣いていた。
ママ。ママ。
とても胸が締め付けられたが、君はすぐに慣れた。
少しづつ時間ができてきた。
反面。何だかちょっと寂しさを感じるようになった。
それだけずっと一緒にいたということだ。
とらいえ、保育園が休みになると困る事が多かった。
遊び相手がいない。
たった1人君のお友達のナゴムがいたが、毎週毎日遊ぶ事は難しかった。
しょうがないからお父ちゃんが遊び相手だった。
ママも遊び相手だった。
野を駆け、川を泳ぎ、海と戯れた。
正直に言えばシンドイ事も多かった。
長い間を3人で過ごした。
そして時間は流れ、君は小学生になった。
もう幼児ではない少年の君がいた。
しばらくは放課後サッカーをしたり、川に行ったり遊び相手を務めた。
お父ちゃん、正直言えば身体がキツかった。
そしてもう解ってた。
本当は君はお友達と遊びたいことを。
そのうち、たまちゃん達と遊ぶようになり
お父ちゃんの出番は減ってきた。
少しづつお父ちゃんの手元から離れていくのを感じた。
おしりも拭かなくなった。
オンブも減った。
1年生の夏に野球を始めた。
もう決定的だった。
君の仲間が突然たくさん増えた。
君はいい奴だからすぐに仲良くなった。
グラウンドの隅で君を見ていた。
君の瞳は、とてもキラキラ輝いていた。
君はすでに立派な少年になっていたのだ。
ある日気付いた。
しょうがなく遊び相手をして過ごしたあの時間。
行く何処ないから、わざと遠くのスローカフェでパフェを食べた日。
半分無理やり久住山を登ったあの日。
仕事を辞めて日本一周をした2ヶ月。
チェンマイで一緒に像に乗った日。
皿洗いを手伝う泡だらけの君。
裸で川と戯れる君。
お父ちゃんやっとわかった。
逆に遊んでくれてたんだね。
人生の一瞬、お父ちゃん達に付き合ってくれてたんだね。
目をつぶれば、平凡な日常の風景がいくつも拡がる。
楽しい思いでも、苦しい時間も、
全てはかけかえのない、君との大切な時間だったんだと。
そう。君との過ごした時間。
それはお父ちゃんにとって、
今を生きる事、時間、意味。
お父ちゃんにとって、人生で1番大事な事に気づかせてくれた。
本当のシアワセを、感謝を。その意味を。
シアワセとは気付くこと。
今をていねいに生きる事。
そんな素晴らしい感性を、一緒に磨けた事。
そして全ての存在が、シアワセにならなければ
お父ちゃんも、君も、ママもシアワセはあり得ない事。
その素晴らしい人生の真実に、秘密に
気付いた事。
君がいない人生だったら
きっと気づかなかった。
想像していなかった未来。
今ここにある。
君への手紙11