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おなじ話

登場人物

①宮橋隆(みやはしりゅう) 68歳
②宮橋里江(みやはしりえ) 60歳
③宮橋里紗(みやはしりさ) 33歳
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最近、夫と娘の様子がおかしい。
夫は1週間ほど前から私の話を無視するようになった。「おはよう」も返してくれない。
そのくせして、急に話しかけてくる時がある。しかも、いつもおなじ話。
「どこにいるの?」とか「今何してるの?」とか。
他にも、会話が微妙に成り立たなかったり、話している時違う方を見ていたり…
娘も同様、私の話を無視する。
娘に至っては私に話しかけてくることもない。
遅すぎる反抗期だろうか。いやいや、それならあの
説明がつかない。
娘は最近、夫を探すことが多くなった。
あんなに父のことを毛嫌いしていた娘が、必死な顔をして。なんでだろう。私、何をしたんだろう。
仕方ない。もう少し様子を見てみるとしようか。

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この日も、夫が急に話しかけてきた。

「なぁ、どこにいるんだ…?」

『窓のそばにいますよ』

「何をしてるんだ…?」

『何を…うーん。今は特に何もしていないです。』

「そばにおいでよ…」

『わかりました。今からそっちに行きますね。』

「話をしよう…」

『いいですよ。それじゃあまずは、隆さんから。』

「…」

『ちょっと、隆さんが言い出したんでしょう?
 先に話してくださいよ!あと、さっきから誰の
 写真を見ているんですか?今、あなたと会話して
 いるのは私です。こっちを見てくださいよ。』

「お父さん!?どこ?いたら返事して!!」

『ほらお父さん、下で里紗が呼んでますよ。返事してあげてください。』

「…」

(ドアを開ける音)

「あ!よかった…ねぇお父さん、お願いだから
 勝手に行動しないでよ…」

「…すまない」

『え、なんで?なんでお父さんは勝手に行動しちゃだめなの?』

「…」

『あと隆さんも。なんで泣いてるのよ。』

「…」

「もう分かったから…昼ご飯たべよ。」

「ああ。わかった。」

『ねぇ、なんでお母さんを無視するの?
 もうやめてよ2人とも…』

(ドアが閉まる音)

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この日も、またおなじ話。

「なぁ、どこにいるんだ…?」

『あなたのそばにいるじゃないですか』

「今、何を見ているんだ…」

『あなたを見ているじゃないですか!』

「どこに行ったんだ…?」

『いい加減にしてください!ここですよ!!
 さっきから言ってるじゃないですか!』

「…なぁ母さんよぉ…本当はそこにいるんだろ?  
 嘘だって言ってくれよ…」

『ここに…いるじゃないですか…』

(ドアが開く)

「ねぇ父さんお願い。もうやめてよ…」

「…」

「…」

「里紗…」

「なに…?」

「本当に、母さんは死んだのか…?」

「…うん…」

『…』

「やっぱそうだよなぁ…」

「…」

「母さんがいないことなんか、本当はもう分かってるんだよ…でもなんでだろうなぁ。俺がこうやって話しかけたら、どこかで母さんが返してくれている気がするんだ。バカだよなぁ…ごめんなぁ…」

「お父さん…」

2人がおかしい。そう思い込んでいた。
でもそうじゃなかった。おかしいのは私だった。
1週間前、私は死んだ。
最愛の娘と夫を残して…

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この日もまた、おなじ話

「どこにいるんだ…?」

『隣の部屋にいますよ』

「何をしているんだ…?」

『手紙を書いています』

「話をしよう…」

『ごめんなさい。もう行かなきゃ…』

「どこに行くんだよ…」

『自分が本来、いるべきところにです。』

「帰ってきてくれよ…」

『ごめんなさい。今はできません。でもいつか生まれ変わったら必ずあなたの元に帰ります。私はまだあなたからもらった幸せを返せていないので。』

「幸せだったかなぁ…母さん…」

『はい。私はあなたといられて、とっても幸せでした。』

「あと1回だけ会いたいな…」

『もう泣かないでくださいよ。私まで泣いちゃうじゃないですか。』

「泣いている暇なんてないか….」

『そうですよ!隆さんは笑顔が1番です!』

「ありがとうな…母さん」

『こちらこそです。』

「向こうでも、元気でなぁ…」

『はい。隆さんも身体に気をつけて。』

「先にそっちで待っててくれ。俺も近々いくからさ」

『はい。待っています。上で会えたら、またおなじ話をしましょうね。それでは』

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