座敷わらし
空き地の日差しが夕焼けに変わってきていた。
みんなと野球するのは楽しいけど、もう帰らなきゃ。
「ぼく、家、あっちのほうだから」
言うと返事も待たずに走り出した。
バレなかった。自分の顔がにやけているのを感じる。
走りながら野球帽をさらに深くかぶった。
夕日が、歩くぼくらの顔を赤く染めていた。
前をいくケンがぼくのほうを振り向いた。
「てっちゃん、さっき先帰ったヤツ、知ってる?」
おれは答える。
「あの、帽子かぶったチビ?いや、ケンは知ってんの?」
ケンが後ろを向いて歩きながら腕組みした。
「チビだけど足速かったよな。でもだれもなんにも言わなかったし、となりのクラスのヤツだったかなあ」
おれは首をかしげてみせた。
「でも、いつものメンツだったら奇数になってひとりあまるだろ?どっちに入れるかジャンケンで決めるじゃん」
ケンが空をあおいだ。
「そうだよあ」
おれの頭の中がひらめいた。
「もしかして、あいつ、こないだお前といっしょにネットで調べた…」
おれはおそるおそる口に出した。ケンも口を開いた。
『座敷わらし』
ふたりの声が重なった。ふたりは顔を見合わせた。
わたしは走ってきた勢いでそのまま玄関を開けた。
廊下にいた妹と目が合った。
「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」
わたしは息を切らしたまま答える。
「ないしょ」
かぶっていた野球帽を取った。まとめていた髪がほどける。
深呼吸して靴をぬぐ。
呼吸は整ったが、まだ心臓はドキドキしていた。
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