長すぎる休み
部屋のドアが開いた。母の顔がのぞく。
「学校なんて行ったらダメ!あんなとこ行かなくていい!」
わたしに叫ぶように言い放つとドアが閉まった。閉まりぎわの母の顔は、久しぶりに笑顔だったように見えた。いったいどうしたのだろう。昨日までと180度違う。でも、そんなのどうでもいい。
わたしは、自分の心が軽くなるのを感じた。
ああ最高!わたし、今日、学校、行かなくてもいいんだ。
わたしはベッドの上にダイブした。
部屋の外では腰の曲がった老婆と、白衣の男が顔を突き合わせていた。
老婆が白衣姿の男にたずねた。
「先生、あのう、こんな感じでよかったんでしょうか」
白衣の男が答える。
「ああ、もちろんです。お母さん、よくやってくれました。今まで大変だったでしょう」
ねぎらわれた老婆の笑顔は心底ホッとしているようだ。男は続ける。
「結局、人生は、自分がしあわせだと思うことが一番ですから」
白衣姿の男が病室のガラス窓をのぞき込む。
そこには、老婆の、60歳を過ぎた娘が満足げに寝ているのが見えた。
男といっしょにのぞき込む老婆の目は、おだやかたった。
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