一千一秒一分物語 その一

 部屋の奥で読書をしていた頃、窓から夜半の月がみえた。ススキが揺れているように見えたのはどうやら錯覚らしい。その小説は物理世界と精神世界を行ったり来たりしてるような推理小説で、私には危なっかしい作品にしか思えなかった。たまに気分を変えるようにCDプレイヤーからかかってくる音楽をビバルディからシュトラウスに変えてみた。点・線・面の連続。関数、函数的連続と非連続のいったりきたり。そんなことを繰り返してるうちにふいに、

ーおーい

と呼ぶ声が窓の下からする。その時部屋の奥の本棚にあったボードレールの詩をつまみ食いするように読んでいた僕はふりかえって

ーなんだい?

と問いかけた。その問いかけにも応じず始め問いかけてきた声は鏡に反射して木霊のようにどこまでも散逸していく。集合から離散というのは数学で習ったばかりだが散逸していく現象といふのは珍しかつた。