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【連載小説】ガルー(2)脱力系冒険小説
助手のタナカが、先ほどから大げさなリュックを開けて、なにやら物色している。
たぶん腹でも減ったんだろう。
ヤツのお決まりのおやつでも出してきて、無神経にも路上で食べ始めるのだ。
フィギュア集めだけが趣味の冴えない男だ。
丸刈りに全身迷彩服を着て、捕虫網を所持している。
なにせ急造の調査隊のため、人材不足、人員不足はやむを得ないところだ。
いまどき日当5000円では、中学生だって雇えないだろう。
「ヘッドライトの電池が切れちゃって、電池がありません」
まったく、なにやってんだよ。
ガルーの足跡を追って始まった調査だが、肝心の足跡がまったく見当たらず、さっそく行き詰まっている。
それもそのはずで、ボクらはなんの手がかりもなく、しかも高速移動するカンガルーを捕獲しようというのだから、はなっから雲をも掴むことなのかもしれない。
だけど諦めた瞬間から、ボクはウソツキのお仲間入りを果たしてしまうわけで、それはそれでいいとしても、とりあえず町をウロウロとしている方が、家でSMAPを聴いているよりは、まだマシというものだ。
冴えないタナカは案の定、1本目のスニッカーズをかじり始めた。
「どこにも見当たりませんね、隊長」
見るからに間抜けそうなヤツだ。
人材不足もはなはだしい。先行き思いやられる。
「隊長じゃない。教授と呼びたまえ、君」
ボクは幾分、不機嫌そうに答えた。
「え?なんの教授ですか?」
ちぇっ、まったく気が利かねえなあ。イチイチ説明してやらなければならないのか。
「超常現象研究家 才原ヒロシ教授!今から世紀の大発見をするんだ。それぐらい箔をつけていかないとみっともないだろう」
「そういうもんですか。そんじゃ教授ぅ・・」
真昼間の住宅街を、タナカを連れて歩いていた。
タナカは大げさなリュックを背負って、大きな捕虫網を持っている。
麻酔銃は手に入らなかった。
現状では、正規の調査隊と認められていないんだ。
植え込みの中や塀の隅、ゴミ箱の中まで丹念に調査したが、ガルーの姿はどこにもない。
昨日は終日、聞き込み調査を実施したが、道行く人は不審人物を見るような冷ややかな目でボクらを見ては、返事らしい返事ももらえぬまま、一日が終わってしまった。
挙動不審なタナカのせいだ。
聞き込みを行うボクの後ろで、丸坊主に迷彩服を来た男が板チョコをかじっていたら、相手にしたくない気持ちはさすがに理解できる。
食うのを止めろと、再三の注意も、ヤツの突き出た腹が黙ってはいないらしいのだ。
「おーい、ガルー!」
そのうち、タナカがやけを起こしたのか突然叫んだ。
「何をやってるんだ?」
「呼んだら出てくるかなって」
「つくづく呆れた奴だな、君は。ガルーって名前はボクが付けたんだから反応するわけがないじゃないか」
「そっかあ。考えが軽薄でした」
住宅街の広く舗装された道路には、日中ということもあって人影がまったくない。
よく晴れたいい天気で、ベランダでまどろみたいくらいだ。
するとそこへ、大きな屋敷の植え込みから、一匹の動物が、通りに躍り出たのだった。
ああ!・・まさしくガルーだ!
「タナカ!でかしたぞ!さあ、追跡だ!」
「へい!教授!」
ガルーはじっとボクらを見たかと思うと、反対方向へ一目散に駆け出した。
「タナカ、もたもたするな!巻かれるぞ」
ガルーはすごいスピードで一直線の道を進み、どんどんボクらから遠ざかってゆく。
運動不足のボクらは3分も持たずに息を切らせてしまった。
遠くの角を曲がったあたりで、すっかり見失ってしまったのだった。
「ハアハア・・・それにしてもすごいスピードです。果たして我々に捕獲できるものでしょうか」
「はあはあ・・いきなりのマイナス思考は慎みたまえ」
完全に見失ってしまった。
また調査は一からの出発である。
最初から、そんな簡単に捕まるはずがないのはわかっている。
簡単に捕まえることが出来たなら、今頃ガルーはとっくの昔に誰かに捕まっているに違いないんだ。
ガルーを捕らえるにはなにか奇抜な発想が必要だった。