【連載小説】ガルー(4) 脱力系冒険小説
705の運転する車に同乗して、早朝より本日の追跡調査を進めている。
705が調査隊に加わった経緯は、いちいち説明するのも面倒なので省略させていただきたい。
早い話が、結局彼女も大学で講師の席が空くのを待つ、フリーの貧乏学者というわけだった。
タナカは後部座席に腰掛けて、ドライブ気取りでさっそくスニッカーズをかじっている。
本日の調査の目的地は・・・。
といって、お恥ずかしながら我々には目的地も計画も無いのだった。
これまでの経験上、ガルーはボクらが行く先々で目撃されることから、ガルーに遭遇すると思しきところへ行くのではなく、ボクらの行きたいところへ行く、ということにしている。
ひょっとすると、むしろガルーがボクらをつけ回している、と説明してもおかしくはない偶然が続いているからだ。
これって調査でもなんでもないんじゃないの?
という批判は早急すぎるだろう。
ガルーに遭遇した事例が少なすぎて、ヤツの行動パターンはまだまだ掴めそうにないのが実情なのだ。
もう少し、我々にはフィールドワークを積む必要があった。
「それにしても、こうやってドライブがてらに、ふいっとガルーが出てきてくれたら、我々も楽でいいですよ」
いかにもタナカらしい感想だな。
「でも、もし楽に捕まっちゃったら、明日から我々は失業者ですね。あはははっ。のんびり行きましょうよ、のんびりね、705さん」
「ふん。あんたと一緒にしないでよね」
705はぴしゃりと真顔で言い放った。
どうやらこのふたりは馬が合いそうもない。
「雇用主の前で、よくも抜け抜けとそんな不謹慎なことが言えたもんだな。まったく驚くほどデリカシーが欠けているじゃないか」
「あっ。ついつい・・へへへっ」
タナカはイガグリ頭をぼりぼりと掻いて、いかにもばつが悪そうに言った。
だったら最初っから言うなよ。
705の加入で現状の調査隊の質がどの程度上がったかはわからないが、タナカとコンビを組んでやるよりは遥かにマシであることだけは明確だった。
貧乏学者とはいえ、なかなか頭の切れる女で、たまに直情的で感情が暴走することを除けば、これで案外頼りになる存在となるだろう。
よく見れば、口さえ開かなければ、という条件付で、なかなかいい女じゃないか。
何が変わったのかというと、足だ。
タナカとふたり、リュックを背負い捕虫網を持って、街中を徘徊する姿は、よく考えれば異様だった。
客観的に考えてしまったら、行動すらできなかっただろう。
ボクらを乗せた車は、高速道路へ差し掛かった。
「いったい今日はどこへ行くんでしょうか?」
「ま、まずはどこへ行きたいかを皆で話し合おう」
「あんたたちってホント呆れるくらいに呑気ね」
「呑気が一番です!あはははは」
「呑気だと?フィールドワークの一環だ」
「笑えないっての」
ぴしゃりと705のキツイ一言に、タナカは口ごもってしまった。
車内に重たい空気が流れる。
と思ったのはどうやらボクだけである、とわかるまでにそれほど時間はかからなかった。
タナカは何事も無かったように、窓の外を見ながらアニメソングだろうか・・口笛を吹いている。
705にしても、今までのやり取りが無かったかのように自然体だ。
チームの空気を重んじる立場のボクの杞憂に過ぎなかったのだろう。
つまり、彼らはボクが思っているほどに、神経が繊細ではないんだ。
「で?ほんとにどこへ行くの?」
「とりあえず、北へ行こうかな」
「曖昧ね、相変わらず」
「そいつは誤解だ。今は少しでも情報収集しなければならない時期なんだ。分析はそれからさ。まだ雲をも掴む段階なんだ」
「そーです、教授のおっしゃるとおりっ!ささっ、ドライブと行きましょう」
「まーいいわぁ。それじゃ北へ行くわね」
そう言うと、705はアクセルを踏みこんで加速した。
ボクらを乗せた車はグングン加速してゆく。
「ちょっと、飛ばし過ぎ、なんじゃないかな」
「そお?いつものことよ」
「ひょっとして飛ばし屋ですか?705さんってば」
「飛ばし屋?やめてよ。人を暴走族みたいに言わないでちょうだい。わたしこれでもお嬢様なんだから」
「随分、おてんばなお嬢さんなんだなあ」
「おてんばって…それって死語じゃない?」
「じゃじゃ馬娘だな・・」
「それも死語!」
「そーゆーこそばゆいところを、つっつく笑いって、好きですよ」
「別に笑いを取ろうとしたわけじゃない」
「そうよ、なに勘違いしてるのよ」
結局、最後にはタナカが悪者になってしまう。
我ながらいいチーム内の構図ができた。
なんとか、上手くやっていけそうだ。
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