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「滝沢秀一礼賛怪文書」増補版

この一年で、迂闊にものを捨てなくなった。ニッコリ笑う青ツナギが、自分がモノを手放すときによぎるようになったから。

 ぼんやりお笑いを見ていたら、ある芸人さんの生き様に感動してしまった。その人の名は滝沢秀一。ベテラン漫才コンビ「マシンガンズ」のツッコミとして活動している。(相方はツッコミの西堀亮さん。思いの外深かったそちらの「沼」についてはまた別の機会に。)現役ごみ清掃員でもあり環境省のサステナビリティ広報大使第一号でもある滝沢さん。青いツナギを着て全国各地に自ら出向く。関連施設を取材し、講演会をし、著作物にまとめ出版している。また、一般社団法人「滝沢ごみクラブ」を立ち上げ、周知活動やイベント開催など活動の輪を広げている。

 発言の内容については「それはどうなんだ?」と首をひねるときもあるけれど、何より日々多くの人々とつながり自ら学びを深め実践する姿を見て、「ごみの世界は楽しそうだ」と思わせてくださった。

 そんな滝沢さんが提唱するのが「4R」。「3R(リユース、リデュース、リサイクル)」にもうひとつ、「Respect」の「R」を加える、というものだ。これは、ごみを収集する側になったときに清掃員である自分の存在がごみを出す人に見えていないんじゃないかと感じてとてもつらかった、という経験から始まった考え方だそうだ。

 滝沢さんは、35歳になる年に清掃会社に就職する。家族を養い、漫才を続けるために。そこで彼はエッセンシャルワーカーの過酷さに苦しむことになる。幻覚が見えるような猛暑の季節でも、お祝いムードでも、疫病が蔓延しても、ごみは毎日出る。つかんだとたんに何がか手に突き刺さるごみ袋。パッカー車で圧しつぶされたときに飛び散る腐った水。ごみを捨てる人はごみを収集する人の存在を微塵も気にしていないのだ、と言わんばかりのごみを毎日回収し続けるのは辛いことだったに違いない。

 しかしここからが、滝沢さんのスゴイところ。「問題に追われるのではなく問題を追いかけることが大切だ」と考え、ごみの捨て方を周知する活動をはじめるのだ。以来、「ごみ」を入り口にした思索と活動が始まる。

 「ごみ」という事象は、あらゆる分野に纏わりすぎている。環境、地方自治、モラル、経済、政治、教育、格差……自分も長く生きているので、活動が落ち着いてきた芸能人がエコだのネイチャーだの語り始める例は、山ほど見ている。でも滝沢さんはちょっと違う。この問題の根底には、「人権」と「教育」の課題があるという点に行き着いているからだ。

 ごみは、集積場に出したら自分とはお別れ。だけど、それを、回収する人がいる。必ずいる。誰だって、腐った水を浴びたくはないし、何が入っているかわからないごみ袋はつかみたくない。さらにその先には、自分が出したごみを資源化する人たちがいる。たとえば、プラ資源は製鉄用のコークスの代用品として加工されることもある。しかしそのためには、集めた資源を集積工場で人が分別しなければならない。もちろん、手作業で。

 自分が出したごみは誰かが受け取ってそのまた次の人に渡っている。「受け取る人」のイメージが定着したとき、一度立ち止まって考えるようになった。まあいいか、で出していたゴミのなかに「押しつけたい仕事」が混在しているのかもしれない、と思うようになった。そして、それに気づくことがリスペクトへの第一歩なのだと知った。「ごめん、どうしても手が回らないので許してほしい」なんて思いながら集積場にゴミ袋を投げ込んだときもある。けれど、自分がされたらいやだろうな、というのもわかっているつもりだ。(本当にはわかっていないのかもしれないが。) 

 あの運命の日、2023年5月20日から半年後に、滝沢さんのごみの講演会に参加することができた。舞台にたった一人で、思いが言葉を追い越しそうになるくらい観客に熱をもって訴える姿と充実した資料と練られた構成に、なにより「ごみを減らしたい」という信念が感じられた。

 論語「長沮桀溺」のごとく、世の中のほとんどが無理だと諦めていることに、人間だけが連帯できる、と日々奮闘するその生き方に、力をもらった。自分も少しだけ、ごみのことについて誰かと話したくなった。まずは、ごみからはじめてもいいじゃない。自分の世界をよくするために、自分が動くのは当然だが痛快だ。

【おまけ】今年一年で知ることができたごみ知識の一部を以下に書いておきますね。
▼名古屋では歯ブラシを「プラ資源」として「プラスチック製容器包装」と一緒に出せる。▼可燃ごみは燃やすと灰になる。▼灰を埋め立てる最終処分場は全国で24年後には満杯になる。▼回収したプラ資源の半分以上は、焼却した熱を利用する「サーマルリサイクル」の形で利用される。ただし国際的にはこれはリサイクルと認められていない。▼可燃ごみは重油をかけて燃やしているので、湿っていると余分に重油が必要になる。重油は税金で購入している。▼家庭で調理に使った食用油は、名古屋市ではスーパーなどで回収してもらえる。▼中身の入っているスプレー缶は環境事業所に直接持ち込めばよい。▼昇華転写紙は禁忌品


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