(短編) 親子丼
「これでも食べて待ててね。」
目の前に出された親子丼を私はただ眺めていました。
子供が好みそうなものを選んだだけなのは分かりますが、親子丼とは皮肉です。
私はこの時まで親子丼を食べたことがありませんでした。
食べる機会がなく、食べてみたいとも思わなかったのです。
そもそも、親子丼には親子は入っていません。他人同士の鶏肉と玉子が一緒にされているだけで、それは、大人と子供だからと勝手に親子として墓に入れるのと同じことです。
私の口に運ばれた偽親子は、出汁の香りとご飯の包容力に包まれて見事に一つの形を成していました。
丁度親子丼を食べ終わった時、扉が開きトシ叔父さんが私を迎えに来ました。
「さあ、帰ろう。」
赤らめた目で声を絞り出したトシ叔父さんは、私に近寄りそっと手を触れ、その冷たさに驚いたようで両手で私の手を包み込んでくれました。
これから私は、分厚く温かいこの手と一緒に形を成していくのだと思います。