(短編) ジオラマ
死んだ父の部屋にあったジオラマ。
ジオラマ作家だった父。
ある時から一歩も外に出なくなった。いや、それどころか、一日の大半を自室に籠り過ごしていた。
そして何も作らなくなった。
椅子に座り動くことなく、一日中憑りつかれた様に何かを眺める父。
だが、その顔は前よりも生き生きしていて、それが不気味で僕も母も声を掛けることが出来なかった。
父が亡くなり、僕と母は初めて父の眺め続けた物を目にしている。
それは、とても美しく精巧で間違いなく父の最高傑作であった。
でもそれは、あくまでもジオラマでしかなく無機質な塊とも言えた。
母はため息をつき早々に部屋を出ていった。
僕は一人で父の座り続けた椅子に腰を下ろし、父の目線になる事で父を偲んだ。
その、ジオラマには海があり、山があり、森があり、街があった。
そして、海が波打ち、山が風をうけ、森で動物が駆け回り、街に人々の営みが溢れていた。
僕が注意を怠り、汗を一滴垂らすと、海は荒れ、くしゃみをすると、山が崩れ、触れてしまうと、地震がおき動物達は怯え、人々は天を仰いだ。
今は僕が彼らを見守っている。
新しい世界を誕生させた父に畏敬の念を抱きながら。