スロウスタートを読みました
なんだか今年のGWはあっという間でした。
そして最近ずっと気候が不安定な気がしています、みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
最近は漫画『スロウスタート』を読んでいます。
アニメ化もされたきらら漫画で、「現行の連載の中でもきららのパブリックイメージにかなり近い」という評は言い得て妙だと思います。
あらすじ
一之瀬花名、17歳。
受験のときとある事情で浪人していた花名はみんなよりひとつ年上という小さな、しかし花名にとっては大きな秘密を抱えたまま高校に入学する。
明るくてオタク気質な百地たまて、社交的でハーレムルート躍進中の十倉栄依子、小動物のようだけど時々切り返しが鋭い千石冠の3人と仲良くなる。
はじめての楽しい高校生活、でも秘密を抱えたまま過ごしているという一抹の不安。
花名にとっては1年遅れのスタート、しかし過ぎゆく日常の中で花名たちは確かに変わっていく。
浪人という秘密
不本意とはいえ高校入学のときに浪人してしまう経験というのはおそらく読者の視点でも少数派でしょう。
花名は浪人のことを秘密にしており、そして秘密にしていること自体にも後ろめたさを感じています。
しかし『スロウスタート』はほの暗い気持ちはあってもそれ自体にフォーカスした漫画ではなく、むしろそこからの「スタート」……楽しい高校生活、大袈裟な言い方をすれば日常の讃歌を描いています。
ところで本作には花名以外にも"浪人"が登場するのですが、そのうちのひとりが万年大会(はんねんひろえ)さん。
彼女もまた不本意な浪人生、さらに以前と同じ生活ができなくなってしまった人物。
これは本当に私の個人的な贔屓といってもいいのですが、彼女の気持ちはすごくわかる。有り体に言うならシンパシーを感じる。と言っても大会さんと違って私はかつて優等生だったとかではないのですが…。
さておき、浪人中の引きこもり生活が祟った大会さんは登場時点ではコンビニに行くことですら困難な状態でした。
わかるよ……外に出たり新しいことを始めるのって勇気がいるよね。
偶然花名と同じアパートに住む浪人生である大会さん。
ひょんなことからふたりは打ち解け、お互いにとって最初の秘密の共有相手となります。
大会さんはいわゆる「ちょっとだけダメな人」といったコメディリリーフでもあるように見えますが、一度レールを外れてしまうと戻るのは大変、という描写には少しばかりシビアなリアリズム(と身勝手なシンパシー)を感じずにはいられません(でも先述したように本作のメインの軸はリアリズムではなくむしろその先。このあたりの読解には慎重でありたい)。
花名と同様に、ときにはいっしょに、成長していく大会さんもまた本作の魅力のひとつです。
百地たまてという女
本作における私の推しである百地たまて。
名前がかわいいよね百地たまて。
明るく人当たりもよく、でもけっこうオタク気質な彼女。
でも実家では普段着が着物だったり、お料理が上手だったり、扉絵の割烹着がとてもしっくり来ていたり……と幾重ものギャップが私を襲う。
ちょっと余談ですが、私はきらら漫画だとお料理が得意なキャラに注目しがちです。
たまて以外だと『ゆるキャン△』のなでしこや、『スローループ』の小春ですね。
お料理は見ていると参考になるしお互いにお料理を振る舞ってみたい。
それはそれとして割烹着のたまちゃんいいですよね……。なんでそんな似合うん……?
「きらららしさ」とひとつまみのアクセント
冒頭で述べた通り、スロウスタートはいわゆる「きららのパブリックイメージに近いきらら4コマ」という評も、なんとなくですが納得できるものだと考えています。
というのも、私の思うきららを代表する漫画といえば『きんいろモザイク』と『ご注文はうさぎですか?』。
日常系という言葉もよく聞くようになってからもう何年も経ちました。
しかし実際のところ『きんモザ』は日常を貫くエッジの効いたギャグという強烈な個性があり、『ごちうさ』は現在ではもう何もかもに文脈が乗りすぎてて本誌で連載が更新されるたびに悲鳴が上がっています。
そんな漫画たちとある種対照的に、『スロウスタート』はより「日常に根ざしたきらら4コマ」なのかな、と思います。
花名がモノローグで語る押し潰されそうな不安、でも周囲の人たちとの関係、その積み重ねが、相互に作用してみんな少しずつ前へと進んでいく。
派手ではなかったとしても、それこそ「日常系」のエポックメイキングなのかもしれない、と思うのです。
日常というのは必ずしも派手なことばかりではない、日常とは日々の生活の延長線にあるのですから。
話は少し逸れますが、スロスタを読んでて少し意外だったのは軽めの下ネタがぽんぽん飛び出すところ(ぱんつとかちくびとか)。主にたまてからですが……。
きららって一応分類としては青年誌だったなあと改めて思い起こさせる瞬間でした。
とはいえ決して下品ではないですし、急なネタをすっと混ぜ込む平衡感覚は一見地味ながら本作の優れた点かもしれませんね。
ところで榎並清瀬、お前はなんなんだ……。
おわりに
『スロウスタート』は現在9巻まで発売中。
現行の連載の中でも長期に渡って続いている本作ですが、するすると読んでいける読みやすさは本作の大きな魅力だと思います。
内気な主人公とその内面の成長を日常を通して描く本作。
所謂「きらららしさ」と「実際のきららでの近年のトレンド(=内向的な主人公とその変化)」を両立した『スロウスタート』は確かに日常系の新境地を切り拓いています。
読んでいてずっと続いてほしいなあと思える安心感が素晴らしい漫画でした。
これからも花名たちに楽しい毎日が待っていますように。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは今回はこのあたりで。