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ヒスイで共に生きる。『Pokémon LEGENDS アルセウス』レビュー


15年。

『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』が発売されたのは2006年9月28日。
発売当時小学生だった私も今は成人してこうして文章を綴っている。

それだけの月日が流れたのだ。

『Pokémon LEGENDS アルセウス』が一区切りついたので記事を書くことにした。
本作は間違いなくポケモンの新境地を切り拓いてくれた、新生『ポケットモンスター』だ。


※本作の発売前情報を始めとした軽度のネタバレが含まれます。
物語の核心や事前情報にないリージョンフォームなどのネタバレは控えますが、どうかご注意ください。


新しい、私の知らないポケモン

『ダイヤモンド・パール』の舞台であった「シンオウ地方」がまだ「ヒスイ地方」と呼ばれていた時代。
時空の裂け目から落下した主人公は「ギンガ団」としてヒスイ地方を調査する人々に出会う。

私の知らないポケモンが目の前に広がっていた。
いや、ポケモンは知っている。
モクローも、ヒノアラシも、ミジュマルも、見知った顔ぶれだ。

しかし画面に映っているのは近年のオープンワールドゲームを彷彿とさせるようなUI。

どこでもポケモンを呼び出せる

フィールド上の木を揺らしてきのみを取ったり、鉱物を砕いてもらって採取したり。
『ポケモン』といえばポケモンを戦わせ、育成し、そしてまた戦わせるゲームではなかったか。

だが目の前に広がるヒスイの景色は違う。
モンスターボールすらみずからクラフトし、右スティックで狙いをさだめ、投げる。
背面をうまく取れば戦闘すらせずに捕獲ができる。

これを私の知らないポケモンと言わずしてなんと言うのか。

最初の一匹はモクローちゃんにした。かわいい


楽しいのだ。

ポケモンと共に大地を駆け回り、ただ素材を集めるだけの瞬間や、拠点に戻って一息ついたり、ポケモンを外に出してみてスクリーンショットを撮影したりする瞬間瞬間。
そのすべてが愛おしかった。


本作ではきのみや鉱石といった素材を集めるときにもポケモンをボールから出すことになる。
そうして集めた素材でモンスターボールやキズぐすりをクラフトし、「すべてのポケモンとであえ」という言葉を頼りにヒスイ地方でポケモン図鑑の完成を目指す。

ポケモン図鑑もまた、ただ捕獲するだけでは完成とはならない。
ときには実際に戦ったり、エサをあげてみたり、そういった「タスク」をこなすことで研究レベルがあがり、ポケモンの情報が集まることとなる。

ポケモンについて深く知ること。
今まで以上にポケモン図鑑という要素がゲーム内に組み込まれていたことが、本作ではとにかく印象的だった。

本作で私たちはポケモンと共に歩み、ポケモン図鑑の完成を目指すのだ。


いつもの、だけど少し違う戦闘システム

たまたま出会った色違いのヤミカラス

ポケモンバトルの根幹自体は変わっていない。
ただ、今作は厳密なターンベースのバトルではない。
お互いの素早さ、そして「力業 / 早業」に応じて行動順が変化する。

「力業」は行動順が遅くなるが技の威力があがり、「早業」は逆に技の威力を犠牲に行動順を早くすることができる。

素早さが高かったり、「早業」を使用すれば2回行動をすることも可能ということだ。
これが案外面白く、例えば「早業」で「つるぎのまい」を選んだあとに「力業」を連続して放つこともできるのだ。
ほかにも「早業」を捕獲用の体力調整に用いたり、不利対面での負けが濃厚なら「力業」を撃って退場、といった戦術もあるかもしれない。

特に変化技(「つるぎのまい」や「でんじは」「じこさいせい」など)と「早業」の組み合わせは強力で、このシステムを使いこなせるかどうかで本作の体感難易度は左右されることになる。

新要素こそあるものの、バトル部分は概ねいつものポケモンといった様相だ。
敢えて言うならば「ダイマックス」や「Zワザ」などの派手な要素を廃した、クラシカルなポケモンに近いと言えるだろう。


「アルセウス」

少し話は変わる。
本家である『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』では図鑑No.493の幻のポケモンとして登場したアルセウス。
通常プレイでの入手は不可能で、後にアルセウス自体の配布はあったものの、ゲームの解析では「てんかいのふえ」なるアイテムを用いた野生のアルセウスとの戦闘イベントの存在が確認されていた。

しかし、よく似た立場の幻のポケモンである「ダークライ」「シェイミ」とは違い、「てんかいのふえ」を用いたイベントが『ダイヤモンド・パール(プラチナ)』に実装されることは終ぞなかった。

映画館で配布されたアルセウスを『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』の「シントいせき」、「みつぶたい」に連れて行くとアルセウスをフィーチャーした特殊イベントが見られるなどの措置はあったものの、実際フラグ(てんかいのふえ)さえ立てば『ダイヤモンド・パール』上で運用可能なイベントが事実上没になってしまったという経緯があったのだ。

これらを踏まえると、『Pokémon LEGENDS アルセウス』はアルセウスへのゲームフリークなりの仁義だったのではないか、と私は考える。

アルセウス
そうぞうポケモン
なにも ない ばしょに あった タマゴのなかから すがたを あらわし せかいを うみだしたと されている

『ポケットモンスター プラチナ』図鑑説明

「そうぞうポケモン」「世界を生み出した」などの逸話に反して、ゲーム内でのアルセウスの出番は限られたものだった。
特に「てんかいのふえ」のイベントとそれに纏わるアルセウスとの戦闘(専用の戦闘BGMまで用意されている)が結果的にオミットされてしまったこと。
それに対してゲームフリークとしても思うところがあったのではないだろうか、と考えずにはいられないのだ。


おわりに

『Pokémon LEGENDS アルセウス』は「アルセウス」をフィーチャーしたまったく新しいポケモンだった。

端的に言うならば、「こういうポケモンのゲームがあったらいいな」というプレイヤーたちの願望を極めて高い純度で実現させた、という印象だ。
もっと言うと本作は「ポケモントレーナーシミュレーター」とでも言うべきか。
ヒスイ地方という広大な大地を駆け回り、ポケモンと出会い、ポケモンを捕まえ、ポケモンの手を借り、ポケモン図鑑を完成させる。
そうした体験のひとつひとつが、かけがえのないものとなる。

ただ素材を集めたりする、そういった行動のすぐそばにポケモンがいる、というのが、ポケモントレーナーとしてヒスイ地方を生きているという感覚にさせてくれた。

また『ダイヤモンド・パール』(『プラチナ』『ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』も含めて)へと繋がる要素もあって、私としてはすごく楽しめるゲームだった。

ポケモンと共に生きる、それがとても楽しいゲームだった。
おそらくゲームフリークとしても挑戦となる一作だったと思うけど、それがうまく作用してくれたこと、そして無事にリリースされたことをとてもうれしく思う。


最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは今回はこのあたりで。


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