『snowdrop』①
時間が経ってしまったが、
2月頭にあった空間企画の作品『snowdrop』について振り返ろうと思う。
アヴィニョン演劇祭
『snowdrop』は2019年のアヴィニョン演劇祭に向けて製作した作品である。
アヴィニョン演劇祭は一つの劇場を何団体も使う入れ替え制であり、基本的には照明や音響は動かせず、そのままあるものを使用する。
我々が借りている劇場は1団体90分と、使用できる時間が決まっている。その中で仕込み15分、本番1時間、バラし15分など各々割り振って使用するのだ。仕込みの時間が15分しかなければ、大掛かりなセットなど立てることはできない。
初めて出展した際は、5時間あった作品を1時間にまとめ、15分で仕込める美術を持参して『FRUIT ROUGE』を公開した。この作品については4月の公開が終わったら詳しく振り返ろうと思う。
『snowdrop』は2度目のアヴィニョンであり、会場が変わり長い時間作品を公開することをオーナーに許されたのだ。
公開時間を我々のやり方に合わせてやらせてもらえることは、とても例外的なことである。
そのチャンスを生かす他ない。
オーナーに実際見てもらい、賑やかなアヴィニョンの町外れにこのような静かで詩的な空間が毎年あるって認知されたらよいねとお言葉をいただいた。
金銭的に毎年は現実的ではないので、2年に一度出展を続けていきたいと考えている。
ちなみに、アヴィニョン演劇祭でかかってる費用はすべて実費である。
テーマ
企画を担当している私自身が結婚式で感じた、瞬間の愛おしさを詰め込んだ作品である。
挙式の扉が開いた瞬間からの独特な緊張感と幸福感を表現に昇華させたものになる。
いつも当たり前にそばにいるけれど、大切な存在があることを忘れてしまっている人々がこの作品に触れて、家に帰ったら大切な人に優しくしようとか大好きなぬいぐるみを抱きしめようなど思い出してもらいたい。そして、心穏やかになってほしい。
ただハッピーな作品だけではない。
私ハッピーです!という作品を作りたいのではない。
そんなに楽しいことばかりではないのが人生である。そこには少しだけ物悲しさが残っている。失恋だったり、すれ違いだったり。
その物悲しさをバレエ「ジゼル」を参考に取り入れてみた。
実をいうと、構成はジゼルのあらすじをなぞって作られている。
少し翳りのある作品になったことで、愛おしさがあがったように思える。
美術と衣装
『snowdrop』の美術はドレスが主であり、その周りに布やチュールポンポンが散りばめられているシンプルな作りになっている。
アヴィニョンでやるにあたり、フランスまで自力で持っていくには物量を考えなければいけない。
受け取り先がホテルなので、事前に送ることも憚れる。
そこで思いついたのが、布を使うことと圧縮すれば小さくなるチュールポンポンを使用することだ。
ただ布を使うだけじゃなんだか作品として薄いと思い、ドレスを中心に空間が展開していく方法にしてみた。
ドレスは結婚式からウェディングドレスと、ジゼルのウィリーからロマンティックチュチュを取り入れている。
どこか儚く飛んでいってしまいそうな雰囲気を出すことに成功した。
また、ワイヤートルソーを使うことで実体のないもの=観客それぞれが感情移入しやすいように、相手を妄想しやすいようにした。
あと、明かりをあてたときの影が面白い。
映像
新しい表現方法として映像を作品に組み込むことを考えた。
本来目指していた形はキーボードを押すと明かりと音と共に映像も変化するというものであった。
しかし、作ろうとしていたネタが長く多すぎてしまい結局希望の形にすることが叶わなかった。なんて言ったって平均5分以上のネタが30個以上あるのである。
どんなハイスペックなパソコンを使ったって処理は早くはならないし、これを一人で作成するのはかなりの無茶振りだ。
そして、実際現場で明かりと合わせたときに明かりが負けたのである。絶え間なく変化し動き続ける映像という光に舞台照明の表現方法は相性が悪く、どうしても隠れてしまうのだ。使い方にもよるが、今の私の力量ではうまく扱うことができなかったのである。
これはこちら側の無知が原因であった。
反省すべきであり、今後に生かしていこうと思う。
結果雪のようなエフェクトがずっと降り注いでいるというシンプルなものに決定した。
動いているものがあると人はなんとなく見続けてしまうものらしい。ぐっと空間の落ち着きが増した。
②に続く…!