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モルヒネ100倍量を誤って渡すことはあるのか【薬剤師の目線】


はじめに

※あくまでこの記事は、事件に関わった医師および薬剤師を批判するために書いたものではありません。そこを念頭に置いてお読み下さい。

記事全文が1万字を超えました。
センシティブな内容なので初めは有料記事にして見たい人だけ見る仕様にするか迷いましたが、実際の薬剤師が何を考えてどういう仕事をしているか、何を気をつけているのかを多くの人に知ってもらえたらと思い、全文無料記事にしました。
一番下に有料記事を設定しています。内容は「ここまで読んでいただきありがとうございました」という文章だけです。
結構頑張って書いたので、もしジュース代奢ってやるよって方が居れば嬉しいです。(こうやって最後だけ有料記事にしている方が居たので真似してみたかったのです…)



40代の医師と調剤薬局の60代の薬剤師は93歳の男性に誤って必要な量のおよそ100倍のモルヒネを処方して死亡させた疑いで23日に書類送検されました。
患者の男性は息苦しさを訴えてクリニックを受診しモルヒネの内服薬を処方されましたが、その後容体が急変し1週間後にモルヒネ中毒で死亡しました。
 医師の女性は、電子カルテの入力を誤って大量のモルヒネを処方していて薬剤師も、その処方箋(せん)に従って薬の調剤をしていました。

yahoo!JAPANニュース テレビ朝日

まずはじめに、亡くなられた男性のご冥福をお祈り申し上げます。

かなりセンセーショナルでショッキングなニュースである。
調剤薬局で薬剤師として働いている身としては、事件に一切関係ないのに心臓がキュッとなる。
このニュースを見た一般の方と思われる人たちのコメントを見ると「100倍量なんて間違うわけがない」「モルヒネなんて大事な薬、間違えるわけがない」という意見が多かった。一般の方はそう思うだろう。しかし、薬剤師として働いている私は、正直に言うと「明日は我が身だ」と感じた。実際にモルヒネ散を取り扱った経験や調剤薬局で勤務する薬剤師としての見解を、書いていこうと思う(実際のミスはどういったものか公表されていないため、あくまで可能性の話になります。そしてモルヒネは塩酸塩水和物と仮定します)。

まず初めに1g=1000㎎である。
これだけは覚えていて欲しい。

そして、この記事は決して事故を起こした医師と薬剤師を非難するものではない。これも、覚えていて欲しい。


100倍量なんて、間違うわけがない

まず前提として、医師が処方を決めて処方箋を発行する。患者さんはそれをもって薬局に行く。そして薬剤師はその処方箋をもとに薬を準備して患者さんに説明の上で渡す。これが大まかな外来処方の流れだ。
国民皆保険制度によって病院にかかりやすいこの世の中では、ほとんどの人が病院で処方箋をもらった経験があるだろう。
そこでいきなりだが、下の2つのうちどちらが薬の有効成分が多いと思うだろうか。

①モルヒネ散【原末】 1g
②モルヒネ散1%     1g

どちらも”1g”と書いてあるし、どちらも粉っぽいから同じ量だろう。


と思うかもしれないが、有効成分の量で換算すると、①は②の100倍だ。
つまり、この違いに気づけなければ、この時点ですでに100倍量のミスをしたことになる。

「そんなこと一般人の自分にはわからない。」「それを見つけるのが薬剤師の仕事だろ」と言われてしまえばそれまでだが、日々の業務はこういった世界なのだ。


なぜ同じ1gなのに有効成分の量が違うのか

いろんな場所で目にする痛み止めの代表格といえば、ロキソニン。
ロキソニンは有効成分が60㎎入っている。しかし実際の粒の大きさは60㎎(0.06g)ではない。これと同じようなことが起こっている。

モルヒネ散【原末】は、有効成分と実際の重さが同じだ。
つまりモルヒネ散【原末】1g=有効成分1000㎎になる。

モルヒネ散1%はどうだろうか。
1%というのは”100倍に薄まっている”ことを表している。
100㎎の粉の中に有効成分が1㎎存在している。

つまり、モルヒネ散1%1g=10㎎となるのだ。


モルヒネ散(塩酸塩)には”原末”しか存在しない

私が実際に薬局でモルヒネの散剤を作っていて一番困ったのがこれだ。

なぜかというと、”量が少なすぎて正確に測れない”

ここから少し薬学的な話になってしまう。
薬全般に言えることだが、特にモルヒネなどの強いオピオイド系統の薬は痛みの状態や体の状態によって量を適宜調節する。
厳密にこの量!というものがない。だいたいの目安でしかない。
実際どのくらいの用量で使用されたのかも分からないので、目安の量を用いて説明する。

通常、成人には、1回5-10㎎、1日15㎎を経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

モルヒネ塩酸塩水和物「タケダ」原末 添付文書より


一般的な開始量としては少ないが、添付文書通り1回5㎎から使ってみようとする。
そうすると、実際の処方箋にはどう記載されるだろうか。

モルヒネ塩酸塩水和物【原末】              0.005g
疼痛時  1回分

0.005gを正確に測ることができるだろうか。

正直言って無理だろう。
後ろを誰かが通っただけで0.1gなど軽くズレる。0.1gの誤差は原末だと有効成分100㎎の誤差になる。誤差の範疇を超えている。

じゃあどうすればいいのか。

そこで”薄める”という選択肢が出てくる。

モルヒネ散【原末】1g=モルヒネ散10%10g=モルヒネ散1%100gへと変換する。
こうすることによって、1回量【原末】0.005gという地獄は、散1%0.5gに置き換えることができるのだ。(ただ欲を言えば、0.1%散にしたい。)


ミスを誘発した要因はなにか

(R4.6.30現在、具体的な過誤内容は報告されていないためあくまで考えられる可能性とします)

今回の事件について、医療機関側、調剤薬局側双方での問題があったことは事実だろう。ミスを誘発した要因について、実際に働いている薬剤師の目線として考えてみる。

1.処方入力時のミス【人的要因】

医師サイドのミスとして一番に考えられるのはこれかと思われる。
もし使用しているカルテが原末でしか入力できないものだとしたら。上述の通り、原末しか存在しないモルヒネは処方量が著しく少なくなる。
他のオピオイド系鎮痛薬が1gや0.5gなどで処方される中、モルヒネだけが0.005g(仮)となる。これだけでもミスを誘発する要因になるだろう。そして実際に量を決めるとき、基本的には成分量で考えることが多い。つまり、”モルヒネは5㎎/日で出そう”と考える。それを【原末】表記にする。モルヒネだけで考えればそこまで難しくないが、モルヒネをチョイスするまでの間に医師の頭の中ではほかの候補も存在する。ほかの薬のパーセンテージが思考に混じってもおかしくはない。
また、用量をわかっていたとしてもカルテ自体はパソコンで入力する。そして原末の入力は0.00〜と、用量が小数点以下まで細かい。誤タッチで0が1-2個増減する可能性もあるだろう。


2.薬剤師の薬識不足【人的要因】

薬剤師サイドでまず第一に考えられること。それは原末に対する知識不足だ。モルヒネの散剤を作るとなると、確実に倍散(1%や10%に薄めたもの)が必要になる(原末では少なすぎて量れない)。しかし”初めてモルヒネを触る”となるとどうだろうか。働いている薬剤師の感覚になってしまうが、散剤が本来の100倍量である0.5gや1g(仮)で処方が来たとしても、処方自体には違和感を感じない。世の中には1回量が0.2-2gくらいの幅の粉が多い。粉を量り取る段階では「あれ?量がおかしい」という感覚は働かないように思える。
気づく可能性がある段階としては、監査するときだろう。
そこで”原末なのに0.5g(仮)?500㎎に相当するけど多すぎない??”と気づける可能性があった。しかし今回はここでもスルーしてしまった。

3.薬剤師の人数の問題【環境要因】

ニュースから得た情報になるが、調剤薬局の薬剤師として書類送検されたのは1名だ。つまりこのモルヒネの調剤監査投薬に”1人”しか関わっていない可能性が出てくる。
これが何を表すか。
薬局にもよるだろうが、原末→計算→(倍散作成)→量り取るという工程上ミスが起きやすい。モルヒネは医療用麻薬であり管理が厳しい。そして一人でこなすとなると時間もかかる。自分の計算が間違っていたらまずいので通常は複数の薬剤師で何度も計算し確認し作ることになるだろう。それが1人しか薬剤師がいなかったら。
誰も確認してくれない。自分だけで準備しなければならない。

4.業務ひっ迫、時間に追われた対応【環境要因】

どういう医院でどういう薬局かは分からないが、複数人の患者が一度に来るタイミングがある。ワアっと押し寄せて、待合室には人がたくさん待っている。
”時間がない”
医療従事者として働くにあたってほぼ毎日こんな感じだ。
時間内に数十人の患者を捌かなければならない。一人あたりにかけられる時間は少ない。
中には「早くしろ!」と言われることもある。というかほとんど毎日だ。
自分一人しか店舗にいない状況で、管理の厳しい医療用麻薬を倍散にて調剤し「いつまで待たせるのか」との声を背中に浴びながら自身で監査して患者さんに説明する。想像しただけで心臓がキュッとなる。(実際はどうか分からないのであくまで推測です)
冷静に考えれば分かるものも、焦るとミスを起こしやすい。せめてもう一人薬剤師がいたら。”もう少し思考の余裕を持てていたら”と思わざるを得ない。

他にも、当日の医師・薬剤師の体調不良や患者の状態悪化、在庫不足による焦りなど様々な要因が考えられるが、対策を立てられる項目に絞って記載する。

”人間はミスをする”という認識下で構築されるべきシステム

私がこの長い記事を通して一番伝えたいことは、これだ。
まず第一に、”人間はミスをする”
どれだけ有能だろうと、医師だろうと、薬剤師だろうと、誰でもミスをする。この事実は変えられない。実際にミスをしたことない人なんていないだろう。そのうえでどうするかが問題である。命にかかわる仕事をするうえで、当たり前だがミスは許されない。ミスをしてしまう人間がミスを起こさないためにすること、それは”ミスを起こさないシステム”を作るということだ。

医療過誤やインシデントの大原則は”ミスした本人を責めるのではなく、二度と起きないように原因を調査”することだ。日本薬剤師会などのホームページでは実際に起こった調剤事故を収集して公開している。実際に起こった事故を幅広く共有することによって、対策を練り事前にミスを防ぐことを目的とする。

今回の医療事故の原因は公開されておらず不明のため、上述した【ミスを誘発した要因は何か】を元に考えてみる。

1.処方入力時のミス

これをサポートするシステムとしては、カルテ入力時のアラートがあるかと思われる。(私自身、医療施設での勤務経験はないためあくまで実務実習程度に知識になってしまう点、先に謝っておく。)
薬局で使用される一部のレセコンでは、一般的な量を超えた薬剤量を入力すると赤く表示される。そして”添付文書上の用量を超えています”と記載が出る。もし似たようなアラートが表示されており医師の目に留まったら。一瞬立ち止まることができたかもしれない。

ここで難しい問題が1点ある。それは薬の中には用量が厳密に決まっておらず患者によって調節するものが多数存在することだ。機械は、”添付文書の用量を超えています”と決まった用量通りに教えてくれる。しかし医療を施す相手は”人間”だ。必ず用量通りになるとは限らない。

モルヒネもそうだろう。この患者は5㎎/日でコントロールできたとしても、別の患者は500㎎/日が必要かもしれない。徐々に量を増やし、コントロールできる用量で使用する。
「アラートがあれば、100倍量に気づけたか」というとそうではないということが、ここでわかる。つまり、”カルテ入力時のアラート”だけではセーフティネットとしては機能しない。

2.薬剤師の知識不足

薬剤師サイドはどうだろうか。私自身が薬剤師として働いているためこちら側を重く見てしまうのは否めない。
まずこのニュースを見て感じたのは、この薬剤師は”モルヒネを触ったことがないのではないか?”という点だ。薬剤師なんだからすべての薬のこと知ってるでしょ?と思うかもしれないが、実際問題として受け付ける処方箋の診療科目に知識が偏ることが多い。一般的な内科から処方箋を受け付ける薬局の薬剤師は風邪や花粉症、糖尿病高血圧脂質異常症などの生活習慣病についての知識は持っているが、普段受け付けない抗がん剤や医療用麻薬の知識については自信がないことが多い(もちろん薬剤師の経験による)。そしてその薬がどんな規格があるのかを知らない。

モルヒネの散剤を実際に触ったことがあれば、モルヒネの処方が来た時点で”倍散”の存在を考える。上述した通り、モルヒネは原末しか存在しないため適切に量るためには必ずと言っていいほど倍散を量るからだ。具体的な調剤内容は分からないため、報道情報からの憶測ではあるが医師の処方箋通り調剤したとなると、原末をそのままの量で測ったことになる。薬局にモルヒネの倍散が存在しないということは、ほとんど取り扱った経験がなかった可能性がある。

ここでミスを防ぐシステムとして大切なことがある。それは、”人間の経験に左右されない”ということだ。
新人が行っても、歴20年のベテランが行っても、経験に左右されず同じようにミスが防がれるシステムが望ましい。

「薬剤師に知識があれば防げた」
これは、経験の有無に左右されてしまう時点でセーフティネットにはならない。

ただ、”知識がなかった”としても”取り扱ったことがなかった”としても薬剤師がやらなければいけないことがあった。それは”どのような状況でも、量が正しいのかを調べる”ということだ。調べること自体はベテランだろうが新人だろうが同じ工程だ。

仮に初めて来た患者にモルヒネ散【原末】0.5g/日が処方されていたとしよう。

モルヒネの原末…?原末だから0.5gは有効成分500㎎になるはず。
モルヒネの一般的な量は…5-10㎎/回で1日15㎎?
用量が患者によって変わるとしても、いきなり500㎎は多くない?
もしかして前から飲んでいたのかな?本人または家族に確認してみよう。
え?初めて飲む?それにしては量が多すぎる。先生がもしかしたら間違えたかもしれない。電話で聞いてみよう。

頭の中ではこうなっている。
私が働くうえで気を付けていることは、よく見る薬でもよく触る薬でも必ず有効成分の量と実際の処方量を計算する。そして記録に残す。人間に100%などないからだ。
必ず調べることを調剤薬局の内規とするまででもないが、どんなに忙しくてもどんなに急かされても知っていたとしても、必ずやることと決めている。「早くしろ」と患者さんに怒鳴られても必ずやる。それくらい、”必ず調べる”ということはミスを防ぐうえで大切なことなのだ。

3.勤務人数の問題

薬局・医療機関の管理体制の問題としてこれをあげたい。経営の面からすれば少ない人数で店を回してくれた方が助かるだろう。だが人間はミスをする生き物だということを忘れてはいけない。
自身が薬剤師のため、薬剤師目線で考えてみる。
今回の調剤薬局に薬剤師が1人しかいなかったと仮定する。その状況で、もし複数人勤務していたらどうだろうか。純粋に目の数が増える。それだけミスを見つける確率が上がる。誰かが「これ、量がおかしいんじゃないか」と気づけたかもしれない。すべて可能性の話ではあるがセーフティネットの一つとして機能するだろう。
上述した4.業務ひっ迫、時間に追われた対応【環境要因】にもつながる。少ない人数で回さなければならないとなると焦りが生じる。経験談になってしまうが焦りは本当に良くない。割けられるのであれば、人数を割いた方が医療機関・薬局にとっても、患者さんにとってもお互いにメリットなのは明らかだ。


今回のニュースから感じること

この記事の一番上にも記載したが、この記事は医師および薬剤師を批判するために書いたものではない。この事件を咀嚼して、自身を含め似たような事件が起きないように対策を考えるために書いたものだ。ここは、忘れないで欲しい。

医療機関、薬局ともに1日何人も何十人も、あるいは何百人も対応する。程度は人によって様々だが時間に追われ業務をこなす。

医薬分業の一番の利点として医師のほかに薬剤師の目を通すことにより、より適切な医療を施すということがあげられる。いわゆるダブルチェックというものだ。

実際に、受け付けた処方箋の中には「処方量が10倍だったもの」や「アレルギー歴のある薬剤が処方されていたこと」「抗がん剤の用量が間違っていたこと」もある。それを見つけて、あるいは患者さんとのやり取りの間に気づいて修正するのが、私の仕事だ。

中には「医者に話したんだから薬剤師のお前に関係ないだろ」「いつまで待たせるんだ早くしろ」「薬局には言いたくない」と言われる方もいる。まあ同じ話を何回も聞かれて嫌な気分になるのは理解できる。
ただ、今回のニュースを受けて少しでも「薬剤師って、確認しているんだな」と思ってもらえれば幸いだ。


冒頭にも書いた通り、この記事を無料公開するかは正直迷った。
私のせいで(?)医療職に対して偏見があったら申し訳ないからだ。
ただ、実際に働いている人間の話を聞いてみないと分からないこともあるし、聞く機会もないだろう。すこしでも多くの人に、薬剤師はこんなこと考えて働いているんですよ、と伝われば嬉しい。

番外

yahoo!JAPANニュースのコメントにて気になったものを抜粋し、いち薬剤師としての意見を書いてみる。あくまで薬剤師の総意ではない、私一個人の考えであるため参考程度に思ってほしい。(そして間違っていればコメントでコソッと教えてほしい)


93歳にモルヒネを出すのが疑問。年齢的に腎機能低下が考えうるので継続か初回かは分からないが処方意図が分からない。(薬剤師)

たしかに年齢的腎機能低下が起こりうる患者にモルヒネを処方。言わんとすることは理解できる。この患者が継続なのか初回なのかにももちろんよるが患者が呼吸苦での受診に対してモルヒネをチョイスということは、疼痛管理より呼吸苦改善を期待しての処方かと思われるためモルヒネのチョイス自体はおかしくない。入院管理をしていたのか、在宅管理をしていたかどうかは分からないが、93歳で呼吸苦となると単なる外来ではなく何らかの管理をしていたのでは?と感じる。(医療機関のホームページより在宅診療も行っていたようなので)

薬剤師の仕事はどうせAIに取って代わるから薬剤師は必要がない

簡単な調剤や雑務は取って代わると思う。ただ適応外やオピオイドなど用量の幅が大きい処方にも対応できるかは謎である。たとえばモルヒネと同じオピオイド系鎮痛薬のオキシコドン、ある人には5mg1日2回で処方になるがある人には80mg1日2回で処方になる。モルヒネもある人には20㎎/日で処方になるがある人には200㎎/日で処方になる。痛みにあわせて、患者にあわせて用量の調節が必要だがAIにも出来るだろうか?(出来たらめちゃくちゃすごいし助かるが)。最近オキシコドンを分2ではなく分3で処方することもあるらしい。それも判断できるのだろうか。
他にもグリセリン+アズノール散+キシロカインの処方が出たとき、AIは患者さんにどういう説明をするだろうか、気になりだしたら止まらない。
「ロゼレムは夕食後ではなく就寝前服用です!」とAIが勝手に医院に疑義照会したらどうだろう。Drから怒られる未来が見える。

モルヒネレベルの薬が処方箋で簡単に手に入ることが問題だと思う。このレベルの薬は処方箋があっても薬局から病院に確認するシステムにしたほうがいい。

モルヒネの管理自体は厳しい。廃棄もかならず報告し、使用量も患者名も処方医も記録する。
より厳しい薬として、とある医療用麻薬では慢性疼痛の場合は医師と患者の同意書がないと調剤できない決まりになっていたり、別の薬は使用するにあたり医師の登録確認と薬局の登録をしないといけないものもある。他にも患者カードがないと調剤できないもの、医師の登録がないと渡せないもの、薬剤師が講習を受けて登録を受けないと調剤できないもの、など。規制が厳しい薬がたくさんある。
一般的な方からみたらモルヒネはあぶないからもっと厳しい管理のもとで使われるべきだと思うかもしれないが、薬剤師の視点から見ると比較的安全に用量調節ができる薬だ。
この事件だけで見ると、『医師薬剤師双方のチェックからミスがすり抜けた』ことが問題点でありモルヒネの管理が緩いということではない。仮にモルヒネの管理が厳しく、薬局から病院に対して確認が義務になっていたとしても、正しいと思い込んでいる双方の間で100倍量のミスに気づけるのだろうか。

医薬分業にしたのが間違い。分業となるとかなり時間が立ってから問い合わせが来る。その時点で検査や手術などしていることもあり簡単には連絡がつかなくなる。(医師)

正直に言うと、私もそう感じる。
国の指針としては、かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師が複数の医療機関を受診する患者を一元的にサポートし、ポリファーマーシーの問題や医療費削減といった問題に薬剤師が寄与することを狙いとしている。
だが実際どうだろうか。
かかりつけ薬剤師の件数をノルマとして課し、点数稼ぎのために必要のないトレーシングレポートを病院に送りつける。
薬局が乱立する時代に、一人でも多くの患者を抱え込み利益を上げる。少しでも調剤報酬を多く取るためにかかりつけ薬局を目指す。
本当に患者さんのためになるのだろうか。
患者さんが処方箋を持ってきて不備を見つけたとき、もうすでに医師が帰ってしまった、なんてことが何度もある。そもそも建物が別であるし患者さんがまっすぐ薬局に来るとは限らない。次の日来ることもある。連絡できる医師がいない。緊急性があるなら尚更、困ってしまう(医師は悪くない)。
現時点の医薬分業の制度は、本来のあるべき分業の姿とはかけ離れていると、私は感じる。私がなんとかできる立場ではないが、この制度が本当の意味で患者さん・医療機関・薬局にとってメリットになることを祈っている。


モルヒネの致死量知らなくても薬剤師になれるのかな

モルヒネの致死量を知っているなら教えて欲しい。冗談抜きに。
モルヒネ自体は比較的安全域が広い薬剤であり、状態を見ながら漸増(少しずつ増やす)する。一般的には20㎎/日などで開始されることが多いが、徐々に増やしていけば200㎎/日ということもある。問題は、”一気に増量する”ことだ。この事件の問題点は致死量(?)のモルヒネを投与したことではなく”処方ミスをダブルチェックで見逃し結果としていきなり100倍量を誤投与した”ということだ。

薬剤師は毎日何千何万とあるだろう処方箋のミスを100%は無理だとしてもその殆どを防いでいます。患者から遅いだの早くしろと言われながらも‥。
今回はそのミスを見逃してしまった最悪のケースでしたが、薬剤師が居なければ程度の差こそあれこういった事故が日常的に起こっているものだと逆に知ってほしいです。

このコメントを書いた本人が薬剤師かどうかは定かではないが、実際の薬剤師の仕事を代弁したコメントだと思う。
医療事故の原則として、ミスを防ぐシステムの構築やミスを防ぐ取り組みが大切である。ミスを防いだことは特に誰にも知られることもなく当たり前のように過ぎていく。つまりミスが起きた場合は注目されるが、ミスを防いだことについては注目されない。そういう仕事なのである。
そういった薬剤師達の、誰にも褒められない努力が影にあることをこの機会に知ってもらえたらと思う。

間違った処方をした医師も問題だが、疑義照会(医師へ問い合わせ)をしなかった薬剤師も問題だ。実際には疑義照会をかけると逆ギレされたり、処方に間違いはないと言い切られるケースも残念ながらある。やっぱりチーム医療って大事ですよね。

おっしゃる通り。
疑義照会をかけると適切に対応してくれる医師がほとんどだ。「間違えましたすみません」と一言くれる先生もいる。だが中には稀に「どこが間違っているというんだ!!!!」とすごい剣幕で怒られることもある。私は先生のことが嫌いでミスを指摘しているわけではないのだが…。
医師と薬剤師は敵ではなく、一緒のチームだと思っている。もちろん、病態知識について専門である先生の方が深い知識を持っており頭が上がらない。薬剤師は、医師の専門以外の治療薬や患者さんの生活スタイル、薬剤の体内動態など幅広くチェックできるのが強みだと思っているので、もしこの記事をご覧の諸先生方いらっしゃれば今後ともより良いお付き合いをお願い申し上げたい。


おわりに


かなりショッキングなニュースであり、明日は我が身という思いでこの記事を書いた。実際に医療に携わる先生方、薬剤師、看護師さん、その他のたくさんの医療スタッフと共に事故を限りなく減らすべく日々努力している。その中で新型コロナウイルスという感染症の影響もあり、多かれ少なかれ仕事に影響が出たのもまた事実だろう。
日々進歩する医療、日々変わっていく状況の中で少しでも患者さんのためになるように、様々なスタッフが尽力している。私自身も医療スタッフと協力しこれからも尽力していきたいと思っている。

実際の薬剤師がどういった仕事をしているのか、ミスに対してどう考えているのかを記載してきた。すこしでも読んでよかったと思ってもらえればこれ幸いである。




冒頭に記載した通り、一番下に有料部分をつけました。「ここまで読んでいただきありがとうございました。」という文章だけです。ここまでで1万字を超えました。読んでいる方にとって読む価値があった文章かどうかはさておき、「おつかれさま」と、ジュースをおごってくれる方いらっしゃれば励みになります。日々猛暑が続く中、クーラーの効いた部屋でカルピスソーダを飲みたいです。


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