煙草を吸う
初めて煙草を吸った。いや、正確には初めてではない。二十歳過ぎた頃だったか一度友達から一口もらってみたけど、咳き込むだけでなんの美味しさも感じなかった。
初めて煙草を吸った。中目黒で台湾料理を食べたあと、急に肌寒くなったその街で煙草を吸った。
「吸ったら火がつくんですよね?」
「そう」
「どうやって持つんですか」
「持ち方なんてどうでもいいよ」
すうっと一息吸い込んだ。美味しかった。吸ってる人の横にいても臭いだけだなあと思っていた煙草。それが自分の身に入り込むと、味わうと、とても美味しかった。
初めて煙草を一本吸った。最後の方はもう燃えていなかったのかもしれない。だけどそのまま吸い続けていた。
初めて煙草を一本吸った。その数十分後、なんだか息苦しくて頭がくらくらした。でもそれは煙草が原因だったのかわからない。さっきまで隣にいてくれた人とは違うあの人に、大事なことを伝えなければいけなかったから。今から大好きで大嫌いなあの人に会いに行く。
家に帰るとリュックの中から煙草の吸い殻が出てきた。もちろんそのまま放り込んだわけではなく、マスクに包まれた吸い殻だ。ものすごく臭かった。リュックの中が全て煙草臭くなっていた。ひたすら消臭スプレーを振りまいた。
きっといつか、煙草を吸いたい。いつか、また。