エレキギターと音の良し悪し
エレキギターなんて見た目が違うだけでどれを使っても同じ音がするだろうと思っていた時期が僕にもありました。
しかし今では、「良い音」と「良くない音」を隔てる要因は、ギター本体にも少なからず存在すると思っています。
ギターを始めてから数年間くらいは、エレキギターのことを手の動きを電気信号に変換する道具くらいにしか捉えていなかった。音色の良し悪しに関与しない、パソコンで例えるならキーボードやマウスと同様、単なるインターフェース。それが私のエレキギターに対する解釈だった。
従ってエレキギター本体に求められる性能は、弾きやすさ、持ち運び性、見た目の良さ、そして安価であることのみで、肝心の音については特に気にすることなく、安くて軽いギターを使っていた。
このようにギター本体を軽視する一方で、弦振動を電気信号に変換するピックアップ、電気的に音を増幅させ最終的に音を出力するアンプ、および信号に変化を加えるペダルは、出音に及ぼす影響は支配的であると考えていたため、ギター本体に比べて多くのお金やこだわりを費やしたものだった。
音の良し悪しについてよく分からなかったからだと思う。
楽器屋で試奏することはよくあり、実際ギターによる音の「違い」はわかるが、その音が「良いか悪いか」は判断できなかった。
初心者にとっては、アンプやエフェクターで設定を変えたときの音の変化のほうが劇的であり、解りやすかったのも一つの要因だろう。ギター本体による音の違いを、取るに足らないものと断じたのだ。
或いは、聞きかじった情報からなまじ理屈を解ったつもりになっていたことが、思い込みを長引かせたかもしれない。
当時は高校物理の授業で扱うような、ごくシンプルなモデルで振動や電磁誘導を理解しようとしていた。
恐らく、ギターの音は種々のコンポーネントの影響が複雑に混じり合った結果出力されるものであって、さらにギターのピックアップ、アンプ、スピーカーからなるシステムは、当時自分が思っていたよりも鋭敏に振動を拾い上げて増幅する。
さらに言えば、人がその音を聞き、その音を「良い」と感じるまでの論理は、少なくとも固定端に一本の弦を張っただけの理想的な物理モデルに比べて遥かに複雑だと認識したのは、最近のことだ。
何事も単純化して理解しようとすると、かえって視野がせせこましくなるものだと、今になっては思う。