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『イモンドの勝負』観劇感想

『イモンドの勝負』(ナイロン100℃)
@下北沢本多劇場
2021.12.11 13:00開演

(ネタバレあります。東京公演は全日程終了していますが、地方公演がまだあります)

この公演を観る直前に、wowowでケムリ研究室(ケラさんと緒川たまきさんの立ち上げたユニット)の昔の公演『ベイジルタウンの女神』を観た。
一度劇場で観た公演を改めて映像で観るのはいいけど、初見のお芝居を映像で観ると、たいていは入り込めなくて、笑いにうすら寒さを感じたりキャラクターに空々しさを感じたりしてしまう。
でも、この『ベイジルタウン』は楽しめた。何というか、映像で観るのに向いた作品だった。ざっくり言うとメジャー感があった。ケラさん本人もインタビューで言っていたが、シニカルさはほとんどないハッピーエンドのロマンティックコメディで、ストーリーは分かりやすく雰囲気は明るく、言い方は悪いけど「集中しなくても観られる」感じだったからだと思う。
ラストのそれぞれの登場人物のその後を描くシーンはむしろ、「こんだけハッピーエンドにすりゃ満足だろ」的な皮肉っぽさを感じたりもしたけど。

コロナ禍で何度か公演が中止になったりする中、そんな作品を発表していたケラさんが、今回の公演では「捨て身でナンセンスを書く」と言う。
ナイロンのお芝居はほんとうにバリエーションが豊富で、めちゃくちゃ好きな作品もピンとこない作品もある(皆そうだと思う)。個人的には出演者が少なくて濃密さが増す『消失』や『フローズン・ビーチ』が好き。
今回は上のような前情報から、そんなに好きじゃないやつかもなぁと予断しながら劇場に向かった。

長い、というナイロン芝居によくある批判を敢えて言いたくなるほど長く感じた。それが最初の感想。実力のある役者さんをこれだけ揃えて、それぞれにしっかりと見せ場(笑わせる場)をつくろうとすると、こうなってしまうのかもしれない。ただ、内容に沿った規模感ってあると思うのだ。

少し奇妙な印象を受けたのが、思ったよりもナンセンスに振り切っていない作品だったことだ。
役者さんは皆本当に達者なので、それぞれのシーンはどれも面白い。でもそのシーンの積み重ねや或いはぶち壊しが大いなる無意味に繋がるような、王道の(?)ナンセンス劇ではなく、良くも悪くも「意味がありそう」に見えてしまっていた。
「いつまでも開催されない大会」とか、「勝つことの本当の意味」とか、深掘りしそうでされない重めのテーマが見え隠れすることで、全てを等質に無価値化するナンセンス劇の強さは感じられなかった。

パンフレットのインタビューにあったが、ケラさんが当初書こうとしていたものからは変化していったらしい。
コロナ禍の状況もあり、”捨て身になんかなれなかった“と話していたが、それはそうだろうと思う。酷い状況に陥ったエンターテイメント業界の中でも、特にダメージを大きくくらったであろう舞台関係の人が、この状況を踏まえないで書くことができるわけがない。
それは『ベイジルタウン』の、ケラさん「らしくない」多幸感のある物語にも現れていたと思う。

コロナ禍で、みんなが「真面目に」なってしまっている。ふざけられなくなってしまっている。そして、価値を壊すような言動ができないなってしまっている。
今はナンセンス劇はつくるのも楽しむのも難しいのかもしれない。
そう考えると、『ベイジルタウン』のラストの気持ちいいくらいの明るさにも、太宰が描いた実朝の言葉“アカルサハホロビノスガタデアロウカ”が重なってくるようにすら思えるのだ。

久しぶりに訪れた下北沢は、駅の工事がすっかり終わって(たぶん)、駅前の見通しが良くなって、かなり印象が変わっていた。

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