私信
ふっといなくなってしまって
不在だけが残る
どこまで遠いところにいるのか測れないから
そこはこの受話器からの声が届くところですか
一方的な声は不在を埋めることなくむしろ際立たせ
でも受話器から手が離せないんだ
失ったのか奪われたのか旅立ったのか
自分を責める権利があるのかどうかも分からない
ここにはたしかな不在があって部屋の外には昨夜からずっと続く雨音
そしてこのスノーノイズの向こうにその声は紛れてしまっているの?
こことそこはほんとうに繋がっていますか受話器が耳に熱い
痕跡を撃ち消してしまうためのピストルにも温もりが残っているんだ
再会の一言は決めているけどそれは言えぬまま肺の奥でくすぶり続ける知ってる
希望的観測どおりにいったことなんて人生で一回もなかった知ってる
受話器を握る力を強くするのは状況への怒りこの世界に対する失望
でも絶対に忘却は求めない痛みをずっと抱え続けるそれは決めている
一度ねじれてしまえば
幾何学的に交わることはない
重なった点があったのがまるで奇跡だったように。
そしてその奇跡を忘れられないギャンブル中毒者のように
僕はずっと、声を発し続ける。どこにも繋がっていない受話器に。
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