『管理人』観劇感想
『管理人』
@紀伊國屋ホール
2022.11.23 13:30開演
ネタバレあります。
イキウメで何回か演出を担当していた小川絵梨子さんの演出だということと、イッセー尾形さんが出演しているということで興味をもって観にいった。
木村さん、入野さんは初見で、どちらがどちらか分かるだろうかと思っていたけど、木村さんがテニミュの海堂役をやっていたという前知識があったので一発で分かった。確かに、この顔は海堂。
イッセーさんは当然だけどめちゃくちゃ上手い。長いセリフもあるのに、口をモガモガしてるような口調でキャラを出しつつ、しかも聞き取りやすい。
不条理劇という感じは全くなく、3人の登場人物それぞれが自分の行動原理に沿って動いているだけ、というお話。その行動原理というのは必ずしも論理的ではないので、お互いの関係性がコロコロと変わっていくし、事態はまるで前進してゆかない。
それぞれが「喫緊でやるべきこと」を抱えていて、やろうとしているんだが(デイヴィスは本気でシドカップに行こうとしてたかは分からないけど)、今ある目の前の些細な問題ごと(靴やソケットの修理)に躓いて着手できない。
アストンの小屋はきっと建たない。デイヴィスは身分証を預かる男元には行けない。ミックの理想とするリフォームは完成しない。
ボトルネックを自ら設定して、全ての不具合の原因とするような、身に覚えのありまくる状況。
つまるところ人間をとても人間らしく描き出しているお芝居なんだと思う。
別キャストでの『管理人』の過去公演(イッセーさんの役を温水さんがやってた、その配役もわかる!)の情報をネットで見ていると、“ガラクタを拾い集める男と、ガラクタを処分したい男と、ガラクタ同様に拾われてきた男”というコピーがあった。
なるほど、としっくりくる反面、もう少し曖昧だったよなとも感じる。
いい意味ではっきりさせない、「構図化させ過ぎない」というのが小川さんの演出の特長なのかなと思った。その方が観る方は「分かった気になる」=「それ以上作中人物について考えるのを止めてしまう」ことに陥らないし、人間を描くという意味では本質により近づけるのかもしれない。
演じるほうは大変だろうけど。
ミックはデイヴィスをガラクタだと見下している、少なくとも会った当初はそうだった。一瞬、こいつは使えるかもと思ったが、そうでないことが分かれば簡単に突き放す。もう使えなくなったものは役に立たない、壊れたものは元に戻らない、という考え方。
アストンはデイヴィスをガラクタだとは思っていない。というか、世の中に完全なガラクタなどないと考えていそう。だから家はガラクタだらけになるし、修理不能なものをずっと直そうとする。
この兄弟の考え方には、おそらくアストンの病気が深く関連している。ミックは兄が元の兄になることは諦めていて、その状況を分かち合える仲間がほしい。アストンは自分を取り戻せると信じている。どんな人間にだって役に立つ能力があると考えている(考えたがっている)。
デイヴィスは自分をガラクタだと思っていない、というプライドを滲ませつつ、自分の状況の危うさは実はしっかり把握している。だから居場所がほしい。
三人に必要なのはそれぞれのCARETAKER=世話人、管理人、番人。
兄のCAREをTAKEしてくれる世話人。
自分とともに、失った地位を取り戻していく、今はガラクタの、未来の管理人。
安定した就職先兼居場所としての屋敷の番人。
個人的になかなか辛いところもある話だった。調べたら、電極での療法って本当にあるんですね…
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