見出し画像

『イッセー尾形一人芝居』観劇感想

『イッセー尾形一人芝居 妄ソー劇場・すぺしゃる vol.3』
@有楽町朝日ホール
2021.12.4 14:00開演

(ネタバレあります。公演は全日程終了しています)

めちゃくちゃ久しぶりのイッセーさんの一人芝居。以前観たのが一時期一人芝居をお休みされる前、森田オフィスから独立する前だから、10年くらいぶりか。
朝日ホールは今までイッセーさんを観た中では一番大きな劇場。後方なので表情はそこまではっきり見えないけど、観やすい劇場だった。公演は全3回ということで、まぁこのくらいの規模の劇場にしないと、観たい人がみんな観れないのかもしれない。公演回数も増やせないだろうし。
笑い出しの早さからも、観客に常連さんが多いのが伝わってきた。ネタの後だけじゃなく、始まる時にも拍手するのには少し戸惑ったり。
全部で7作品、以下メモ的な感想。

1.ロリータファッションの女性
新宿で母を待つ女性。電話で誘導するがうまく会えない。
実はあまりピンとこなかった。ロリータファッションに身を包む(そしてその歴が長い)女性って自分をこんなふうに見ていなさそう、というか。ゴスロリに対してそんな応対するかな、など、なんとなく違和感。
イッセーさんの作品は全てがリアルというより、「いそうだけどホントはいない」、「現実の延長だけど行き過ぎてる」みたいなところの面白さなので、違和感を感じる方がおかしいのかもだけど。
相手に出身地が飯能と聞いた時の表情は面白かった。

2.中華屋のおばあちゃん
向かいにラーメンの行列店ができて暇な中華料理屋さん。
これは面白かった。設定が見事だし、謙遜なんだかやる気ないんだかわからない接客態度も、喋り方もいい。何より腰の曲がった老婆の動きが最高だった。
老いてもなお老いを演じるのが上手いという、ちょっと不思議な感覚も味わった。

3.焼きそばパンの女性
オフィスもの?
キャラクターは面白かったけど、今ひとつ状況が掴みきれなかった。これはこっち側の問題だと思う。面白がる角度を分からずに状況を眺めてしまった。
焼きそばパンのコール&レスポンスには心温まった。上に書いた拍手の件もそうだけど、全体的に同士感の強い劇場空間だった。

4.自転車のおっちゃん
自転車で高速道路を走るおっちゃん(確信犯)が、並走した車に停められる。
設定も最高だし、おっちゃんのキャラクターも最高。運んでるのは「はまぐり」とか細部の面白さもあるし、追い抜いていく別の自転車、などの展開のアホらしさもよかった。
こういう人を演じさせると上手いよなぁ、と思う。

5.麻生太郎みたいな政治家
政治家が答弁する。というかモノマネ?
声の再現度がすごい。口調や言う内容も完璧で、とはいえ本家のように不愉快にさせるわけじゃなくて、当然笑えるんだけど。
面白いけど、政治ネタになってしまうので、こっちが勝手に一歩引いてしまうようなところがあった。そんなにポリティカルな主張があったわけではないんだけど、なんとなく(私の側の問題)。

6.立体紙芝居の人
立体紙芝居を名乗る、お面と声色で人物を演じ分けるおっちゃん。あ、でもワイヤーアクション(?)もあったから、あれは「立体」的かも。
まず怪しげさがちょうどいい。こういう紙芝居の人、いそう。
アドリブ感のある演技なのか、ホントに全部アドリブなのかはわからないけれど、支離滅裂一歩手前の話を全力で脚本演出主演客演完遂するおっちゃんはすごかった。
たぶんシリーズ化されてる話のようで、お客さんの反応もそういう感じだった。電人M(だっけ)が電気食べるところが好き。

7.スナックのママ
コロナ禍で苦しむ店のママ。久しぶりに女の子を入れたら後でその夫も店に来てしまう。
苦労するママの「いそうな感じ」が、そのまま現在に蔓延るツラみに繋がってしまうので、暗いといえば暗い話。
問題の渦中で寝てしまうというシーンは、笑えもするけど、なんかこういうふうにして全ては終わっていくんだろうなと感じたりした。途切れがちになって、やがて消えてしまって、気づいたらなくなってる、みたいな。

全体を通して、演じられている人間の年齢層が高いなと感じた。
それは当然のことで、あまりに自分から「距離」の遠い人間はそもそも観察することから難しいのだと思う。昔は「引っ越し屋さんのバイト」みたいな「あんちゃん」感のある若者を演じられたけど、今の「ウェーイ」的若者は演じられないだろうというか。
正直刺激的な作品、という感じではなかったけれど、熟練の匠のわざを観る、という眼福はあった。
繰り返しになるけど会場全体を包む温かさもよかった。

帰りに銀座を抜けて人通りの戻り具合を確認し、汐留まで歩いた。
新橋駅あたりで見た金星が綺麗で、後から最高光度の瞬間だったと知る。
土曜日夜の汐留は人がほとんどおらず、ビル内の飲食店もかなり減っていて、ディストピア感いやます中、静かにモノレールが頭上を滑っていった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?