銀河フェニックス物語 <ハイスクール編>最終話 花は咲き、花は散る(2)
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・「花は咲き、花は散る」(1)
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ロッキーが結婚の話をレイターから聞いたのは式の三ヶ月前だった。
「俺、フローラと結婚することにした」
俺は特段驚きもしなかった。
二人はほんと仲が良かったし、すでに一緒に暮らしてるし、結婚するって言われても何の疑問もなかった。だけど、
「フローラの今度の誕生日に結婚式を挙げる」
と聞いた時にはびっくりした。
「冗談だろ。お前、まだ十七じゃん」
「あん? 冗談じゃねぇよ。俺が十八になったら正式な届けを出すことにしたんだ。ジャックもそれで準備を進めてる」
将軍が準備してるってことは本気なんだ。
「でも、やっぱ早すぎないか? ハイスクール卒業してからでいいんじゃないか? 先のこと決まってないし、結婚って一生の一大事だろ。何だか簡単に考えてないか。大丈夫か?」
レイターは幸せそうな笑顔で答えた。
「俺、早くフローラと家族になりてぇんだ」
俺にはうるさい両親と優秀な兄貴がいて、家族がいないレイターを自由でうらやましく思うこともある。
それでもやっぱり家族が誰もいないよりは、いた方がいいか。
それ以上俺は何も言わなかった。
でも、どこか唐突すぎる違和感みたいなものは感じてた。
いつも遊びに来ているお屋敷が、結婚式のきょうは随分とあでやかに見えた。フローラとレイターが花を育てている中庭の庭園が会場だ。
フローラは光輝いていて、本物のお姫さまのようだった。レイターもフローラが見立てたという一張羅を着て一応主役という顔をしている。
披露宴にはレイターとアーサーの船仲間という軍人さんが何人かと、俺たちレイターのダチが招待されていた。ずっと自宅で療養していたフローラの交友関係は限られたものだったようだ。フローラの友だちってのはいなくて、ま、俺たちがフローラの友人みたいなもんだった。
だから遠慮なくはやし立てた。
「おいレイター、フローラとキスしろよ」
「あん?」
「俺たちの前で誓いのキスをしろっ」
「そうだそうだ! キッス、キッス」
俺たちの攻勢にレイターは仕方ない、という顔をしてフローラを軽々と抱き上げた。
「そら、シャッターチャンスだぞ」
「みんなカメラ用意しろ」
「そーれっ!」
かけ声に合わせてレイターはフローラの頬に軽くキスをした。
「ブッブー、もっとちゃんとやれぇ!」
俺たちはブーイングをとなえた。
「ば~か。おまえらに誓いのキスなんて見せてやらねぇよー」
レイターが笑いながら舌を出した。
あいつ、今更、何を照れてやがる。
ナンパで声かけた女にその場でキスできる奴だってこと、みんな知ってるぞ。
その時だった。
フローラがそっと両手でレイターの頬を包み、レイターの唇に自分の唇を重ねた。
レイターが驚いたように目を見開いた。
一瞬の出来事だった。
フローラは真っ赤な顔をしてうつむいて言った。
「きょうは特別だから・・・」
「ヤッター!」
俺たちは大はしゃぎだ。
「レイター、お前フローラの尻に敷かれるんじゃねぇの」
「うるせぇ!」
俺のカメラにはレイターがびっくりした間抜け面で、美しいフローラと誓いのキスをしている様子が写っていた。
それにしても俺も驚いた。
だって、普段のフローラは内気で人前じゃほとんどしゃべらない。こんな大胆なフローラを見たのは初めてだ。
いつもとキャラが違うっていうか、フローラの必死の覚悟みたいなものが伝わってきた。 (3)へ続く
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