4. 空き家を求めて
「涌井に定住して、ハイカーをもてなすようなお茶屋さんを開こう!」
そうと決まれば必要なのはそのための場所ですが、そもそもの世帯数が少ない集落なうえに、「信越トレイルに接している」という限定的すぎる検索条件……見渡す限り空き家はなく、もちろん空き家バンクにも掲載はありませんでした。そこで集落を一軒一軒を訪ねてまわり、留守のお宅には郵便受けに一筆を入れ、情報収集に乗り出したのです。
この時、家に上げてくれたのが Kさんでした。Kさんは初対面にも関わらず、「そろそろ施設にでも移ろうと思ってるから、貴方この家もらってよ」と言ってくれたのです。コーヒーを御馳走になり、電話番号をもらい、その日はおいとましました。
後日 Kさんを訪ねると、「貴方ね、この家は直すのも大変だから、やめておいた方がいいわ」……長年暮らした家を離れるというのは、そう簡単なことではありません。
「雪の様子を見がてら、お茶飲みに行ってもいいですか?」
豪雪の12月、私は再び Kさんを訪ねました。背丈を軽く超え 4mにも達するという温井や柄山に勝るとも劣らない雪の量で、カンジキの持ち合わせもなく雪山用のスコップを片手に車から玄関を目指します。チャイムを押しても出てこないのでトイレにでも入っているのかと玄関周りの雪片付けをしながら待っていると、「貴方、ながいこと待ってたの?」と Kさんが慌てて出迎えてくれました。「チャイムが聞こえないと困ると思って、テレビも見ずに待ってたんだけど……」この心遣いが雪国のあたたかさです。
「この家、貴方に住んでもらいたいけど、なかなか決心がつかないのよ。でね、私の家から下ったところに一軒あるでしょ?最近はあまり使われてないみたいだから、家主さんに連絡してみなさいな。まずはそこに住んで、私があの世に行ったらこの家も使うといいわよ。それがいいわ」
(つづく)
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