【東北ひとり旅】 ま、松島が見える・・・
大学の夏休み真っ只中の、暑い暑い8月。
Tシャツ短パン姿のわたしは、リュックを背負い、汗だらだらで外にいた。
電話がかかってきた。母からだった。
嫌な予感がする。
「もしもし・・・」
『はい。お母さんですけど。』
そっちからかけてきておいて、しかも携帯電話に名前が出ているのに、わかりきったことを言う。
やはり少し怒っているようだ。
『今どこにいますか。』
「今・・・は、ねぇ・・・ま、松島が見えるね・・・・」
『はぁぁぁ。ほんとあんた、そのうち殺されるよ。気をつけなさいよ。』
「えへへ。はーい」
そうして電話を切った。母は呆れてもはや少し笑っているようだった。
今でこそ、病気で心配な故に毎朝生息を確認され、お出かけの予定を聞いてくる両親だが、ずっと放任主義だった。
そんな母が少し怒って電話をしてきたのには、一応理由があった。
わたしが内緒で旅に出ていたから。
その"内容"を妹が母にチクったのだ。
社会人になったらもうこんな自由な時間はなくなっちゃう。
やりたいこと、やっとこう。
ゼミの先生に休みをもらおうと話をしたら、旅に行くかゼミを辞めるかどちらかだ、なんて言うから、ゼミを辞めた。
しょうがないよね。
放任主義の母が怒ったのは、ゼミを辞めたからでも、ひとり旅だからでもない。たぶん、これ。
そうだ、京都へ行こう
じゃなくて・・・
そうだ、田舎へ泊まろうをやろう
ってなったの。当時のわたし。うん。
「田舎へ泊まろう」って番組、ご存知だろうか。
芸能人がアポなしで田舎の町や村に出かけ、地元の人々と触れ合いながら、どなたかのお宅に突如泊まらせてもらう、といった旅番組。
めちゃくちゃ楽しそう。わたしもやりたい。今しかない。
そう思って、青春18きっぷのような、東北地域の鈍行が一週間フリーになるきっぷを手に入れて、ポケモンマスターのサトシのような格好で旅に出たのだった。
* * *
今日はプロローグ的なところまで。
長旅かつすごく心に残る旅になったので、少しずつ掲載していければと思います。
年頃の娘が知らない人の家に「ぴんぽーん!泊めてくださーい」ってやるって知ったら、まぁ怒るわな。
でも若気の至りとして許されると思ったのよ、社会人になっていい歳の大人がそんなことやったら通報されるでしょ?って。まぁ正解。
全く縁がなかった東北を大好きになったきっかけとなったこの旅。
阿呆なチャレンジに躊躇もせず普通に出発した当時の自分を褒めてあげたいし、いい経験をしたよねって心から思っているよ。