第20話 【4カ国目ルワンダ①】アディスでの戦い「アフリカンジャーニー〜世界一周備忘録(小説)〜」
「僕のバッグはキガリ(ルワンダ)まで行くの?本当に?」
「ええ。私が確認したから大丈夫。」
目の前にいるボレ国際空港(エチオピア アディスアベバ)のトランスファーカウンターのスタッフのどうにも信じられない言葉を、すがる思いで飲み込んだ。
あと少ししたら、キガリ(ルワンダ)行の飛行機が出発する。この旅4カ国目の国だ―
3度目のボレ国際空港
マダガスカルの空港でチェックインカウンターの丸メガネのお姉さんとの戦いに敗北(密告者野郎のせいで、いやズルしたせい)した僕は再びボレ国際空港(エチオピア アディス・アベバ)まで来ていた。
本来は経由地であるケニアで途中降機するはずだったが、受託荷物の関係上それが不可能になりケニア国際空港で1泊して朝7時にボレ国際航空に降り立ったのだ。
ケニア行の飛行機の窓からから見たナイロビの街は綺羅びやかで、まるで僕が抱える憂鬱とは正反対だった。
ふと、その街の光を見ていると東京の空を思い出しこう思った。
(あぁ、モツ鍋くいてぇ…)
そんな思いを胸に、僕は2度目のケニア国際空港での夜を迎えたのだ。
慣れたボレ国際空港
「空港泊は身体に堪える。でも先にやらなければいけないことがある。」
僕はエチオピア行が決定したあと、どうせならと「エチオピア-ルワンダ行」のチケットを購入して次の国をケニアからルワンダに変更していた。
ここで、一つの不安が頭に浮かぶ。
(エチオピアで航空会社が変更される。受託荷物の行先変更も確認しなければ…)
ボレ国際航空に限らず、受託荷物を受け取るためには一度入国したあとに受け取ることになる。
しかし、エチオピアへの入国には1ヶ月滞在のビザが80ドル(1,2000円)必要になるのだ。
基本的に経由地とする場合は、受託手荷物はスルーバッゲージされるので心配はないがここはアフリカである。しかも、航空会社が変更となればなおさら心配だ。
僕は到着後、アフリカの玄関口となるボレ国際空港の広い搭乗ロビーにはいかずに慣れた足取りでトランスファーカウンターに向かうことにした。
この旅の出発地であるカイロ行でさんざん悩まされたこの空港へは、マダガスカル行の時にも来ており実に3回目なのだ。(人生で3回もエチオピアの空港に来るなんて思ってもいなかったでやんす。)
迷わず目的地まで歩く自分の成長を感じながら、無理やり疲れた身体を動かしてトランスファーカウンターまで歩いていく。
バッグタグ紛失???
「バッグタグ無いなら無理よ。あなたのカバンをキガリ行(ルワンダ)に乗せたくても追跡できないもの」
目の前のスタッフ女性の一言に、僕は再度ポケットやカバンの中にバッグタグがないか探してみるが全く見当たらない。
乗り換えを必要とする飛行機に乗る場合はバッグタグなるものが発行され、それを使って受託荷物をコントロールするのが一般的なのだが僕はそのバッグタグをどうやら紛失したようだ。
(でも、待てよ…そもそもマダガスカルでそんなの発行されてたっけ…?)
僕はマダガスカル空港で諦めて受託手荷物を預けたときの情景を思い出していた。
(なんか、もらってない気がする…)
通常は受託荷物をチェックイン時に預けるときに、「バッグタグはこれだよ」と渡されるのだが、今回はそれがなかった気がする。
もっというと、バッグタグはシールになっておりチケットの裏に貼られるのだがチケットを確認してもその形式もない。
(くそ..やられた…)
一瞬、受託荷物の面倒な押し問答をさせられた腹いせに、マダガスカル空港の丸メガネの可愛いスタッフのお姉さんがわざと渡さなかったのかとおもった。が…自分の確認不足だったと考えを改める。
(急な密告者のせいで完全にその存在を忘れていた…コンチキショウ…)
また、あのニヤつき顔の密告者が頭に浮かんできたので強制的に思い出すのをストップする。
そんな、思考を巡らせていると前から声が聞こえた。
「ねぇ。いつまでそこにいるの?」
視線を声の方に向けると、トランスファーカウンターの女性がやる気のない顔でこちらを見ている。
(…..そんなこと言わずに…どうにか探してくれや….)
空港中を振り回される僕
「どこ探してもバッグタグはない。頼む一回外に出て荷物を受け取られせてくれ。」
こちらを心配する素振りもなく、ぶっきらぼうに「いつまでそこにいるの?」と聞いてくるスタッフ女性に深刻な顔をしてお願いすることにした。
背に腹は変えられないのである。
(何も解決してないのに、いつまでそこにいるの?はねぇだろ!こんにゃろ!)
内なる心を押し殺して、僕の命綱を握っている目の前の女性に深刻な顔を作ってみる。
相手も人間だ。無理に心象を悪くする必要はどこにもない。
「そんなの、無理に決まっているでしょう。というよりそもそもバッグタグがないからどこにあなたのバッグがあるかもわからないし」
(んだとぉぉ!!いや、それをどうにかしてほしんやろがぁぁあ!)
….漏れそうな心の声をを抑えて冷静に抑える。
「どうにか、僕のチケットから番号(バッグタグナンバー0を見つけ出せないかな。」
「無理ね。バッグタグがないし」
(ぬぁんだとこらぁぁ!!話噛み合わなすぎやろボケェぇ!!こちとら、日本から遥々来たんやぞ!どうにかしろやぁぁ!マダガスカルのスタッフ女性を見習えやぁぁあくそおぉぉ!)
目の前のスタッフ女性との噛み合わなさから、いつのまに敗北したマダガスカル女性が頭に浮かんできた。
(いかんいかん、このままだと本当に心の声が漏れそうだ。どうにかしないと…)
「じゃあ、どうすればいいの?ルワンダまでどうしても荷物を運んで貰わないと。」
気持ちを抑えたつもりが、少し強い口調になっていたと思う。
「搭乗ロビーにあるカスタマーサービスに行って聞いてみて。」
僕のプチキレモードに意を介さずスタッフ女性はそう返答してくる。
いつの間にかボレ国際空港に到着してから2時間が経過して時刻は9時を回っていた。
22時発のキガリ行の飛行機が出発するまでにはどうにかしないといけない。
最初からそう言えやという気持ちを心の中でで収め、僕はカスタマーサビスカウンターを目指すことにした。
早すぎるよー。また後で来て
「話は分かったけど、まだキガリ行の飛行機も準備できてないしまた後で来てよー」
トランスファーカウンターを後にした僕は、イミグレーション横を通り過ぎて左手に現れる階段を登り、広い搭乗ロビーへ向かった。
2か月前に訪れたとき同様、下りのエスカレーターは動いているが上りのエスカレーターはなぜか止まっていた。
階段を登ると、すぐ右手にカスタマーカウンターがありそこにいる男性に事情を話してみる。
きトランスファーカウンターで話した内容と全く同じことを説明する面倒くささを感じながらも、それを説明する英語だけが妙に上手くなっていた気がする。
「んー。話は分かったけど荷物のことはトランスファカスタマーで話してくれないかな?」
(…なんだとこの野郎…!!まぁなんか、たらい回しにされる気がしてたけど…)
予想通りの返答に、僕は待ってましたと言わんばかりの言葉でまくし立てていた。
「いや、だからこれさっきもトランスファーカウンターで2時間近く説明してるんだよ。そしたら、ここに行けって言われたの!!」
目の前の男性スタッフは「そうだったのー」と緊迫感のない返事をして、こう言ってきた。
「出発の3時間前にもう一回来て。そもそもキガリ行の飛行機の準備もできてないからまだ対応できないしさ。その時間帯に来てくれたらその時間帯のスタッフが一緒に受託荷物受け取りカウンターまで同行して君のバッグパックを探してあげるよ。」
解決しそうな全然解決しなそうなその返答を聞いて、とりあえず僕は従うことにした。
「それ、本当だな。信じていいのね?ちゃんと後任スタッフに引き継いでくれるんだね?」
僕は再度確認を入れてみる。
「もちろんです。お客様。」
なぜか、この時だけ一流スタッフのような返答をする男が妙に憎らしい。
胡散臭さも感じたがその言葉を聞いてどっと疲れが押し寄せてきた。
「マダガスカル空港からずっとこんなことをしているな…」
そう思いながら、睡眠がとれそうな椅子を探してだだっ広いボレ国際空港のロビーを彷徨うことにした。
空港中を何往復したのでしょう
「それは、カスタマーカウンターでは対応できないからトランスファーカウンターまで行ってください。」
雑踏のボレ国際空港では結局眠れず、僕は「考えても仕方ないや」と開き直り、空港の高いビールを煽りエチオピアのコーヒーを堪能しなんだかんだ夜まで空港を楽しんでいた。
と、いってもなかなか不安が消えないまま出発三時間前の19時にカスタマーカウンターまで足を運んでてみた。
しかし、そこにはスタッフがおらず待つこと40分。
ようやくスタッフがやってきたが、他にも客がいたりアフリカお得意の横入りなどもあり20時過ぎにやっとスタッフと話す順番がやってきたのだ。
「んー。これはトランスファーカスタマー案件だね。」
そこで、言われた衝撃的な一言に僕は頭がハゲそうになる。
「いやいや、ちょっと待ってよ。朝来たときは一緒に外に出てバックパック探してくれるっていったんや。引き継ぎあるやろ!」
当然そこには、朝のスタッフとは違うスタッフが立っており僕のお願いはどうも聞き入ってもらえそうにない。
後ろを見ると、ずらりと客が並んでいる。
(くそ…)
そう思いながら、僕は再度トランスファーカスタマーへ向かうがそこでもまた「カスタマーカウンターに行って」と言われてしまう。
合計で僕はトランスファーカウンターとカスタマーカウンターを3往復する羽目になり、最後トランスファーカウンターを訪れたときにイライラがマックスになり語気を強めて言ってしまったのである。
「もう3往復もしているんだぞ!ここでどうにかしてくれ!もうカスタマーカウンターにはいかないからな!」
すると、トランスファーカスタマーの女性(朝とは違う人)が裏の事務所に行き何やら上司と話しはじめた。
(できるなら、最初からそうしてくれや…)
15分くらいして帰ってきたスタッフ女性は、カウンターでPCをパチパチと叩いた後「もう大丈夫。あなたのバッグはキガリに行くように私が手配したわ。」
「本当?」
「本当よ。安心して」
「本当に本当なの?」
「本当よ。安心して。」
「それまじ?本当にキガリまで僕のカバンは行くんだな?」
「本当だって言っているでしょうが!」
あまりにしつこく聞く僕に今度はスタッフ女性が、キレ始めたのだ―
キガリ行の頼りない空と僕
「不安だ。不安だ。不安だ。不安だ。」
スタッフ女性の言葉を信じて、というより"信じる以外選択肢の無い"僕はキガリ行の飛行に乗りこんでいた。
エチオピアからルワンダ行の飛行機は大体2時間くらいである。
その間、僕は真っ暗な空を上から見つめながら大きな不安を抱えたままだった。
(そういえば、マダガスカルのいざこざのなかバックパックに500ドルと日本円20万円入れっぱなしだ…)
もし、バックパックが見つからなかった時、どれくらいの被害になるかが頭を過る。
ふと、飛行機の窓から外を見ると真っ暗な世界の中に心細いアフリカの光がポツンポツンと浮かんでいる。
「あぁ、いまの俺の心のようだ。いや、バックパックがなくなれば物理的にもこのくらい心細くなるな…」
とにかく、アフリカの夜の光に自分のセンチメンタルさを重ねるくらい不安になっていたのだ。
何もしていないと、不安で頭がいっぱいになるので僕は本を読むことにした。
こういう時は、そのことを考えないということが大事なのである。
「なんか、いつも以上におもしろいな。クククッ」
何度も読んでいる本だが、このときはいつも以上に笑える気がした。
その本は、世界一周経験者がどういう失敗をしたかがたくさん書かれている本で「こんなの全然小さいな」と思わせてくれるものだったのだ。
自分自身で体験してみて、初めて面白く感じられるような世界が世の中にはたくさんあるのかもしれない。
「世界のどこにいても、辛いときには本に救われる。これは変わらないんだんだなー。」
そう思っていると、飛行機がキガリ空港に到着したようだ。
「ドンッドッドドドッ―」
僕はマダガスカル空港から続く憂鬱を吹き飛ばすかのような足取りで、暗くて小さいキガリ空港の入口まで歩いていく。
笑っていこうじゃないか―